ノンフィクション

犀川稔

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53話 佐々木一家の食事会

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 店までの道中はまるでお通夜なのかと思うほど終始無言だった。父親は真顔で運転をしていてその隣で母親は気まずそうに座っていた。
 そしておれはと言うと、後部座席で特に何をするわけでもなく窓から景色を眺めて過ごしていた。
 本当は四人で行くはずだった食事は友達と遊ぶと出ていった兄貴を除いて三人で行くことになり「兄貴がいないならまた別の日にすればいいじゃん。」と言ったおれに「今日じゃないとダメなんだ。」と父さんが口を挟んだ。
 なぜそんなに今日に拘るのかと疑問に思っていたけれどその悩みは店に入り、席に着いてまもなくした時に早々と解消された。

 席に着くなり父さんはおれに頭を下げた。
「さっきは心のないことを言ってしまった。」
「家族のことを蔑ろにしていた上に偉そうに口を出してしまった。」
 と、次々とネガティブな発言をする父さんに驚いたおれがポカンと呆気に取られていると父さんの横で母さんは呆れたように笑っていた。
 その表情を見た時に、おれはなんとなく素直になれなかった父さんの心情を理解した。
 家族だから...自分とよく似た性格だから、痛いほどよくわかる。おれも素直になれずに噛みついたり思ってもいないことを口走ったりしてしまう。だから今の父さんの気持ちはわかるし、大人げなく取り乱すその様子に安心してしまった。
 でも正直さっきはあんなことを言われて傷ついたには事実だ。だから最後に何かおれも無駄な悪あがきで言ってやりたいと思った。
「...じゃあこれからはもう少し家族に合わせるようにしたら?まぁ仕事が大好きだから無理って言うなら別だけどね。」
 そんなおれの皮肉めいた発言を聞いた母さんは腹を抱えて笑っていたけれど、父さんは馬鹿真面目に「もちろんそのつもりだ!」と大きな声で返事をした。
 それからはいつぶりか忘れてしまったけれど、久しぶりに家族でのたわいもない時間を過ごしたし個室だったから周りを気にせず楽しむことができた。
 そして何より驚いたのは、おれがトイレから戻った時に店員が持ってきたケーキだった。
 パチパチと二本の花火が輝く間に置かれていたプレートには「佐々木家!」と書かれていた。
 そのメッセージになんと反応したらいいのか戸惑いを見せながらおれが顔を上げると同じように両親も困惑した表情を浮かべていた。
 そんなおれたちを他所に店員が出ていったのと入れ違いに入ってきた兄貴は、ハイテンションでさも当たり前のようにおれの隣に座った。
「よっ!どう?万事解決した?ケーキのタイミングバッチリだったっしょ!?」
 陽気にヘラヘラと笑う兄貴に両親とおれは言葉を失くした。
「兄貴今日友達と飯だったんじゃないの?」
 誰も何も言い出さないその雰囲気におれが声を出すと兄貴はケーキを写真撮りながら返事をした。
「そのつもりだったんだけど、せっかくの家族水入らずの時間に俺だけ参加しないって言うのもやっぱあれじゃん?だからちょいその友達の知恵を借りてサプライズケーキ用意してみたわ。で?その感じだと和解はできたやつ?」
 いつも通りマイペースな兄貴の発想におれが思わずクスッと笑みを浮かべると母さんと父さんもつられて笑い出した。
 そんなおれたちを見て、兄貴も柔らかく笑うともう一度店員を呼んで家族四人の写真を撮ってもらった。
 その写真はその日のうちに母さんの手によって写真立てに入れられて玄関に飾られた。そしてお風呂から上がったおれがリビングに戻ると、家族全員が揃ったその場で父さんが顔を赤くしながら「家族のL◯NEグループを作りたい。」なんて可愛らしいことを言うからみんなで声を出して笑ってしまった。父さん曰く密かな憧れであって、職場で家族の話になった際「休憩時間に家族L◯NEを読み返すのが癒しなんだ。」と言っていた同僚の話を聞いて自分もそんな経験をしてみたいと思ったらしい。
 その話を聞いた兄貴がその場でチャチャッとグループを作ると、父さんは目をキラキラとさせて喜んでいた。
 これからは帰れる日や休みの日はこのグループL◯NEで連絡をするらしい。若干鬱陶しい気もするけど張り切る父さんの顔を見ていたらまぁいいか、と許せた。よほど気を張っていたのか疲れたから部屋で休むと言って上機嫌で父さんがリビングから出ていくと、母さんはおれと兄貴に向かって「ありがとう。」とお礼を言った。
「いや、おれ何も感謝されることしてないんだけど...。」
 おれが謙遜する横で兄貴は通常運行で「ケーキっしょ?いいってことよ!」と笑って答えた。
 そんなおれたちを見て母さんは、涙を流しながらおれと兄貴を抱きしめた。
「それもそうだけど...でも違うわよ、バカ。...私もあの人も...仕事ばかりで全然面倒をみれなかったのにこんなに立派に育ってくれてありがとうって言う意味よ。」
 綺麗な笑みを浮かべながらぼろぼろと泣く母さんの背中を優しくて撫でると、兄貴は「いい両親あっての俺らよ。」と同じように笑って言った。おれは近くにあった鼻紙で母さんの目元を拭き取ると「おれらこそありがとう。」と言った。

 今思うとちょっと......いや、かなり照れくさい光景だ。でもそんな馬鹿みたいに不器用な佐々木家でも、みんなが笑顔で過ごせるならそれはそれでいいとおれは思う。だってそんな教科書みたいに上手くいく人生なんて存在しないと思うから。
 失敗したっていい。子供みたいに駄々をこねてもいい。それでも最後は絶対にちゃんと話し合えばきっと...きっと全て解決できるとおれは今回身を持って経験した。
 大人だって大人でいられない時はある。そんな時は初心に戻って素直に自分の気持ちを伝えることができるならば、その環境はその人にとってかけがえのない素敵な居場所なのだと思う。

 おれにとって家族と新山さんがそうであるように___。
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