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五
52話 父親の想い
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当時の私は自分の仕事に特に誇りもこだわりもなかった。ただ「医者」になればある程度給料も安定はするだろうし、将来家族ができたとしても養うことはできるだろうという気持ちでこの仕事を選んだ。
妻と出会い楓と千隼...二人の息子にも恵まれた。しかしある時、仕事帰りにリビングから聞こえてきた妻と息子たちの会話を聞いて私の中で世界が大きく変わった。
「おれは父さんのお仕事すごくかっこいいと思う。おれも大きくなったら父さんみたいになりたい。」
「俺も俺も!一緒に居られる時間少ないのは寂しいけど忙しいってことはそれだけ人から頼られてるってことでしょ?ほんと父さんってかっけー!」
そのときに聞いた息子たちの言葉の数々が私の中の「活力」となり、仕事を続ける理由へと変わっていった。
それからは更に仕事に力を入れた。
家で過ごす時間は年を重ねるごとにだんだんと減っていったけれど、息子たちはそんな私をかっこいいと思ってくれている。ならその気持ちに応えるように私はもっと仕事を頑張らないといけない、その一心で働いた。
仕事に熱を入れたからと言って家族のことを考えていないわけはなかった。
家族とあまり関わりを持てない分、家で過ごせる時はできる限り妻を含め息子たちの成長をこの目で見ていようと思った。
幼い時は顔も性格もそっくりな息子たちだったけれど、小学校に上がる頃には徐々にそれぞれ違った性格に育っていった。
楓は愛嬌がよく、世に言う世渡り上手なタイプだった。悪戯好きで明るいその性格は近所でも学校でも好かれることが多く、気づくと周りには人が集まるようなそんな子だった。
一方で千隼は細く長くと言ったような人付き合いをするタイプで、学生時代の自分に本当によく似ていた。自分の中で「友達」と「知人」の区別を付け、
心を許した人間にしか隙を見せないその性格は私の経験上、後に苦戦する時が来ると少々心配をしていたけれど妻の話を聞く限り特に問題もないようで「私と同じ経験をしなくて良かった。」と安心していた。
千隼が小学校を卒業する頃、私の仕事もピークを迎えだした。
拍車をかけるように仕事が増えていき、約束していた家族との食事や出かける予定も私は参加できなくなっていった。
前日までに「行けなくなった。」と告げてきたその約束は、ある日を境に「今日の予定はキャンセルになった。」が当たり前になっていった。最初は仕事なら仕方ないと言ってくれていた家族たちも遂には予定を立てるのもやめ、私から誘っても「どうせなしになるじゃん。」と冷ややかな反応を見せるようになっていった。
「子供の成長はあっという間。」
その言葉の真意と家族からの自分の置かれている現状をその時ようやく思い知った。
しかし気づいた時にはもう遅く、後戻りさえできない私にできることはこのままひたすらに今までの努力を無駄にしないために働くことだけだった。
「家族のため」から「自分の存在意義」のために仕事をするようになってだんだんと身が重くなっていった。中学から前兆はあったものの、楓は高校に入ると益々チャラチャラと遊び歩きようになった。正直呆れて一言文句を言ってやろうと思ったけれど、散々家族との時間よりも仕事を優先にしてきた自分にそんな資格はあるのだろうかと引け目を感じてしまった。
一方で千隼は、中学受験に合格したかと思えば高校に上がった後も順位を落とすことなく相変わらずに努力を続けていた。そんな姿を影ながら見てきた私は「もしかしたら楓も私の知らないところで楓なりに努力をしているのかもしれない。」と気持ちを改めて冷静に考えるようになっていった。だからこそせめてもの償いとして何不自由なく息子たちには生活をさせてやりたいと思い、大学に行きたいと言った時のための学費や一人暮らしをすると言った時のための資金を弾いて二人分私は多めに見積もり貯めていた。
全部が全部お金で解決ができるとはもちろん思ってはいない。けれど少しは二人の役に立てるのではないかと言う軽率な私の考えだった。
そんな生活をしていたある日、私は仕事が早く終わり家に帰れることになった。妻は当直だと言っていたからたまには私は家族のために食事でも作ろうと思い帰っていた矢先、家の前に立っている千隼と同じく高校生男子生徒を見かけた。「わざわざ家に前で話しているのなら中に入れればいいのに。」と思った私が話しかけようとした時、彼らは不意にそこでキスをした。
突然のその状況に驚いた私は言葉を失った。
楓ならともかく千隼が......それも同性である相手と。
ただの戯れ合いや悪ノリなのかと思ったけれどその後の二人の雰囲気や表情を見る限り、そんな軽はずみのものではないのは一目瞭然だった。あれは恋人同士のもので間違いない。そう思ったと同時に私はやけに安心してしまった。
千隼は私に似ていて人に心を委ねる事が得意ではない。まして家族にもあまり自分の心情を話さない子だ。そんな子があんなにも綺麗な目で嬉しそうに笑うから、そんな顔が見せられる相手がいることへの安堵だったのだと思う。
その顔を見れば付き合うことを認めるもなにも、応援する以外の何ものでもなかった。
数日前そんな現場を見たからなのか、今まではそうそう目にも止めなかった所謂「マイノリティー」の話題に目が止まる様になった。
少なからず私自身は自分の息子がそうであったからと言うこともあり尊重する気持ちが強かった。しかし流れるニュースの中で相次ぐのは非難の言葉の数々だった。
その言葉を聞くたびに私は心が痛くなったけれど、それが今の世の考えなのだと痛感した。そしてそれをあの子が...千隼が誰か知らない第三者から言われて傷つく前にそう言う意見もあるのだと伝えておかないといけないとも思った。だからと言って私に「認められていない。」と勘違いして欲しくない。
「そんな意見がある中でも負けずに二人で乗り越えていけ。」
そうあの子には言いたかっただけだった。
でも結果は空回りをしかえって息子を傷つけてしまった。私にとってこの世で一番大切な「家族」に突き放されるのはかなり心が抉られる。
私は息子たちの思い描く「かっこいい父さん」や「憧れるお父さん」には今はもうなれていないかもしれない。それでも、もうこれ以上壁ができるのはやめたい。
言葉にしないと伝わらないことは多く存在する。きっとこれもそうだ。
だからどんなにかっこ悪いと思われようが女々しいと思われようが、「医者」である自分よりも「父親」でいられる時間をこれからは大事にしたいとそう思った。
妻と出会い楓と千隼...二人の息子にも恵まれた。しかしある時、仕事帰りにリビングから聞こえてきた妻と息子たちの会話を聞いて私の中で世界が大きく変わった。
「おれは父さんのお仕事すごくかっこいいと思う。おれも大きくなったら父さんみたいになりたい。」
「俺も俺も!一緒に居られる時間少ないのは寂しいけど忙しいってことはそれだけ人から頼られてるってことでしょ?ほんと父さんってかっけー!」
そのときに聞いた息子たちの言葉の数々が私の中の「活力」となり、仕事を続ける理由へと変わっていった。
それからは更に仕事に力を入れた。
家で過ごす時間は年を重ねるごとにだんだんと減っていったけれど、息子たちはそんな私をかっこいいと思ってくれている。ならその気持ちに応えるように私はもっと仕事を頑張らないといけない、その一心で働いた。
仕事に熱を入れたからと言って家族のことを考えていないわけはなかった。
家族とあまり関わりを持てない分、家で過ごせる時はできる限り妻を含め息子たちの成長をこの目で見ていようと思った。
幼い時は顔も性格もそっくりな息子たちだったけれど、小学校に上がる頃には徐々にそれぞれ違った性格に育っていった。
楓は愛嬌がよく、世に言う世渡り上手なタイプだった。悪戯好きで明るいその性格は近所でも学校でも好かれることが多く、気づくと周りには人が集まるようなそんな子だった。
一方で千隼は細く長くと言ったような人付き合いをするタイプで、学生時代の自分に本当によく似ていた。自分の中で「友達」と「知人」の区別を付け、
心を許した人間にしか隙を見せないその性格は私の経験上、後に苦戦する時が来ると少々心配をしていたけれど妻の話を聞く限り特に問題もないようで「私と同じ経験をしなくて良かった。」と安心していた。
千隼が小学校を卒業する頃、私の仕事もピークを迎えだした。
拍車をかけるように仕事が増えていき、約束していた家族との食事や出かける予定も私は参加できなくなっていった。
前日までに「行けなくなった。」と告げてきたその約束は、ある日を境に「今日の予定はキャンセルになった。」が当たり前になっていった。最初は仕事なら仕方ないと言ってくれていた家族たちも遂には予定を立てるのもやめ、私から誘っても「どうせなしになるじゃん。」と冷ややかな反応を見せるようになっていった。
「子供の成長はあっという間。」
その言葉の真意と家族からの自分の置かれている現状をその時ようやく思い知った。
しかし気づいた時にはもう遅く、後戻りさえできない私にできることはこのままひたすらに今までの努力を無駄にしないために働くことだけだった。
「家族のため」から「自分の存在意義」のために仕事をするようになってだんだんと身が重くなっていった。中学から前兆はあったものの、楓は高校に入ると益々チャラチャラと遊び歩きようになった。正直呆れて一言文句を言ってやろうと思ったけれど、散々家族との時間よりも仕事を優先にしてきた自分にそんな資格はあるのだろうかと引け目を感じてしまった。
一方で千隼は、中学受験に合格したかと思えば高校に上がった後も順位を落とすことなく相変わらずに努力を続けていた。そんな姿を影ながら見てきた私は「もしかしたら楓も私の知らないところで楓なりに努力をしているのかもしれない。」と気持ちを改めて冷静に考えるようになっていった。だからこそせめてもの償いとして何不自由なく息子たちには生活をさせてやりたいと思い、大学に行きたいと言った時のための学費や一人暮らしをすると言った時のための資金を弾いて二人分私は多めに見積もり貯めていた。
全部が全部お金で解決ができるとはもちろん思ってはいない。けれど少しは二人の役に立てるのではないかと言う軽率な私の考えだった。
そんな生活をしていたある日、私は仕事が早く終わり家に帰れることになった。妻は当直だと言っていたからたまには私は家族のために食事でも作ろうと思い帰っていた矢先、家の前に立っている千隼と同じく高校生男子生徒を見かけた。「わざわざ家に前で話しているのなら中に入れればいいのに。」と思った私が話しかけようとした時、彼らは不意にそこでキスをした。
突然のその状況に驚いた私は言葉を失った。
楓ならともかく千隼が......それも同性である相手と。
ただの戯れ合いや悪ノリなのかと思ったけれどその後の二人の雰囲気や表情を見る限り、そんな軽はずみのものではないのは一目瞭然だった。あれは恋人同士のもので間違いない。そう思ったと同時に私はやけに安心してしまった。
千隼は私に似ていて人に心を委ねる事が得意ではない。まして家族にもあまり自分の心情を話さない子だ。そんな子があんなにも綺麗な目で嬉しそうに笑うから、そんな顔が見せられる相手がいることへの安堵だったのだと思う。
その顔を見れば付き合うことを認めるもなにも、応援する以外の何ものでもなかった。
数日前そんな現場を見たからなのか、今まではそうそう目にも止めなかった所謂「マイノリティー」の話題に目が止まる様になった。
少なからず私自身は自分の息子がそうであったからと言うこともあり尊重する気持ちが強かった。しかし流れるニュースの中で相次ぐのは非難の言葉の数々だった。
その言葉を聞くたびに私は心が痛くなったけれど、それが今の世の考えなのだと痛感した。そしてそれをあの子が...千隼が誰か知らない第三者から言われて傷つく前にそう言う意見もあるのだと伝えておかないといけないとも思った。だからと言って私に「認められていない。」と勘違いして欲しくない。
「そんな意見がある中でも負けずに二人で乗り越えていけ。」
そうあの子には言いたかっただけだった。
でも結果は空回りをしかえって息子を傷つけてしまった。私にとってこの世で一番大切な「家族」に突き放されるのはかなり心が抉られる。
私は息子たちの思い描く「かっこいい父さん」や「憧れるお父さん」には今はもうなれていないかもしれない。それでも、もうこれ以上壁ができるのはやめたい。
言葉にしないと伝わらないことは多く存在する。きっとこれもそうだ。
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