ノンフィクション

犀川稔

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55話 内田からの呼び出し

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 なんの前触れもなく突然内田に呼び出された千隼は急いで送られてきたファミレスに向かった。
「お前に話したいことがある。一時間後に××にきてほしい。」
 送られてきたそのメッセージに「了解。」とだけ返すとすぐに一緒に居た新山さんに事情を話し、チャチャッと準備を済ませて家を出た。

 内田は中学の時からの友達だった。
 周り曰く、おれの見た目は中の上らしく側から見ると一緒に居て損はないようなそんな感じらしい。だから入学早々見るからに派手ですみたいな人たちから声をかけられたけれど、そこまで何人も仲のいい人を作る気がなかったから適当に遇らって過ごしていたらついたあだ名は「クール気取りのイケメン」だった。

 ある日、昼休憩にチャイムと同時にトイレに向かったおれが席に戻るとおれの席を使ってクラスの目立つ男女の混ざったグループの人たちが弁当を食べていた。おれの姿を見ると「あっ!千隼くんも一緒に食べようよ!」そう言っておれの有無を聞く前に用意されていた席をおれに差し出し断ざる術を与えない様子だった。
「...佐々木くん、こっちこっち。早く来なよ。」
 困っていたおれにそう声をかけてくれたのが他でもない内田だった。
 その言葉に乗っかるようにおれは彼女たちの誘いを断り内田たちにいる席に向かった。
 今思えばその日を境に内田とは自然とつるむようになった気がする。話の輪を広げないとと考えるより先に話があれば話す、なければ各々好きに過ごす内田のグループのそんな雰囲気が好きでおれは自分の意思で一緒にいる生活を送っていった。
 その後も選択授業もほぼ全被りした内田とは益々仲を深めるようになり、いつしか確立されたように友達をやっていた。
 そんな内田がおれに真面目に「話したいことがある。」と言ったことは今までで一度しかなかった。その時はおれの元カノがありもしない噂話を捏ち上げ、それに便乗するように周りが騒ぎ出した。相手にするのも無駄だと無視をしていたおれを他所に、内田はおれの元カノを捕まえて大説教をかましたらしい。それが癪だった元カノは「内田に呼び出されて付き合えって強要された。」と今度は騒ぎ立て周りが「友達の元カノに手を出そうとしたのか。」と内田を蔑んだように見る中、内田はおれと二人きりで話したいと言い出した。誰も居ない準備室で内田がポケットから出したのは携帯だった。そこには録音されたデータが入っていて、内田は虚言癖のあるおれの元カノの裏をかいて二人での会話を録音していたらしいそれを聞いた上で「なんで周りにもそれを聞かせないんだ。」とおれは内田に言った。聞かせれば疑いも晴れるだろうしどう考えても元カノに勝ち目はない。なのにそれを公にしない内田を理解できなかった。しかしその後に言われた内田の言葉におれは言葉を失った。
「別に。どうでもいいやつらにどう思われようがなんとも思わない。ただお前には勘違いされたくないから言った。それだけ。」
 そうとだけ言うと内田は先に部屋から出て行った。その時の内田の後ろ姿はとても逞しかった。
 そんなやつだと知っておれは更に内田が好きになったし一緒に居ない理由がなかった。
 言葉にしなくても理解し合える関係を友達と築けたのが内田だけだった。そんな内田からの突如として改まった連絡におれは心配になり今こうして急いで会いに行こうとしている。
 普段はおればかり話を聞いてもらっている立場だから、どんな内容であれおれも内田のために貢献してやりたいとそう思った。

「...とりあえず突然呼び出して悪い。言おうか悩んだことではあるんだけど、さすがに身が重すぎて留めておけんかったわ。」
 先に着いていた千隼の席向かいに座ったや否や憂鬱そうな表情を浮かべて店員の持ってきた水を飲んだ内田。そんな内田に何があったのかと千隼が聞くと「まずはなんか頼もう。」と内田はそそくさとメニューを手に取った。メニューを見ている目が泳いでいて明らかに冷静じゃない内田にため息を吐くと「注文したら洗いざらい話してもらうよ。」と千隼は念を押して言った。

「......で?話とやらは?」
 店員に注文を伝えると千隼が早々に口を開いた。歯切れが悪そうに悩みながらしどろもどろする内田に「男なら腹を括って話せ。」と千隼が喝を入れると諦めたように内田は話を始めた。
「いや、まじで...こんな偶然あるんだって思ったのが率直な俺の感想ね。んでもってこの話をお前に言うのもどうかとは思うんだけどちょい聞いてほしいんだわ。あと聞いた上で、過去の話だし本人ももうできるだけ思い出さないようにしたいって言ってるから偏見なく聞いてほしい、それを約束してくれんなら話すよ。」
 長すぎる前置きと共にもったいぶる内田に「わかったから、いいから話せよ。」と半笑いをしながら千隼が言うと内田は一度大きく深呼吸をしてから話を始めた。

 内田には好きな人が存在した。
 その相手はたまたま立ち寄った本屋で本当にたまたま同じ参考書に手を伸ばした時に手が触れ合った相手だと言う。その女子生徒とはその日を境によく顔を合わせるようになり相手から連絡先の交換をお願いされて連絡を取り合う仲ような仲になったのだと言う。それが中学の時の話だった。仲を深め出したある日、ふと話題は恋愛トークになりお互いに好きな相手のタイプを言い合った。内田は話をしていくうちにその子が好きになっていたから遠回しにその子の好きなところを言っていた。その言葉の裏には「相手も自分のことが好きであってほしい。」と言う願い込めてのものだったけれど、その願いはすぐに崩れた。どうやらその子には同じ中学に好きな男子がいたらしい。苦い失恋をしながらも影でその子を応援しようと思った内田はその後も彼女からの相談に親身になって乗っていた。そしてバレンタイン当日の朝、学校の前に会いたいと言われた内田が会いにいくと、
 その子から、小さな可愛らしい箱に入った手作りのチョコレートを渡されたらしい。突然の不意打ちにドキッとした内田に彼女は言った。
「今日、ずっと言ってた好きな先輩に告白しようと思ってるの。だから先輩に渡す前にそれ...味がおかしくないか内田くんにも食べてみてほしいの。」
 そう言われた内田は内心とても落ち込んだけれど彼女にためと思いその場で箱をあげると中に入っていた小さなガトーショコラを口に運んだ。
「んっ、美味い!大丈夫、ちゃんと美味しいよ。」
 すぐに笑って感想を言った内田に彼女は安心した表情を浮かべ「良かった。」と肩を撫で下ろした。勇気付けるように彼女の背中を押した内田の甲斐もあり、彼女は自信を持ち本命のチョコレートを持ってその後学校に向かったのだと言う。
 しかし内田は今でもこの時の自分の言動を酷く後悔していた。

 次に内田が彼女と話をしたのは、数週間空いてからだった。
 1日と空けずにきていた連絡がバレンタインの日を境に途絶え、内田はそれを不審に思っていた。
「もしかしたら告白が成功して付き合ったから他の男とは連絡をやめたのかも。」
「なんらかの事情があって連絡が取れないだけかもしれない。」
 色々考え自分からメッセージを送ることを控えていたある日、一本の彼女からの連絡を見て内田は血相を変えた。
「わたし、もうダメかもしれない。」
 そのメッセージを目にした内田は一目散に彼女の家の前まで走って向かった。

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