ノンフィクション

犀川稔

文字の大きさ
67 / 87

55.5話 修復

しおりを挟む
「......で?結局なんだったの、振られたやつ?」
 ちょうどそのタイミングで食べ物が運ばれてくると熱々のドリアをフーフーしながら千隼は食べた。
 そんな千隼のことを流し見すると「そんなことだったらよかったのにな。」と内田はボソッと呟いた。
「いやいや、それは不謹慎すぎだろ。応援するって決めたなら最後までそうしてやれよ。」
 内田の話に失笑しながら千隼が顔を上げると、真面目な顔で内田が言い放った。
「そうだよな、本当......本人も驚いただろうよ。まさか告白したその日に...その場でそいつにレ◯プされるなんて思ってもなかったんだろうから。」
 その言葉を聞いて千隼は言葉を失った。正確にはなんと言い返せばいいのか分からなかった。呆然として動きを止める千隼を見て内田が苦笑いを浮かべた。
「まぁそうなるよな。俺だってあの日、本人から聞いた時そんな顔してたと思うよ。それとタチの悪い冗談であってくれとも思った。」
 場をしらけさせないためかできる限り明るく振る舞おうとする内田の意を汲み、千隼はなんとか取り繕って口を開いた。
「......今その子どうしてんの?」
 千隼の質問に内田は携帯を出していじり出すと、しばらくしてから「音楽聴いてるらしい。」と言った。
「...は?」
「だから音楽聴いてるってさ。二回も言わすなや。」
「いやそうじゃなくてさ...いやあってるんだよ。あってるけど、その間の話ぶっ飛ばし過ぎだろ。今に至るまでの過程をおれは聞いてんのよ。」
 真面目な顔で話す千隼に笑いを隠せず内田が口角を緩めながら返した。
「冗談よ。流石に場が冷え切ってたから茶化しただけ。......まぁそりゃしばらくは俺を含めて向こうも切り替えられなかったしL◯NEで話しててもお通夜だったけど、向こうから気持ちをリセットしたいって言い出してそれからは前と同じように接するようになったよ。恋愛はとうぶんしたくないとは言ってたけどね。」
 千隼は内田とその女子の心情を読み取り何とも言えない表情を浮かべた。
 そんな過去があったことを知らずに自分が今まで無神経に新山のことを相談したり惚気たりしていたことを悔やみ唇を噛んだ。それと同時にもう一人の友人である有馬まで付き合い出したことを知りどう思ったのかと千隼は心を痛めた。しかしそんなことを考える千隼を読み薄く笑みを浮かべると千隼の食べていたドリアに手を付けた。
「...あー、ドリアも案外いけるな。ま、こっちのパスタの方が美味いけどな。」
 ヘラヘラと笑いながら話す内田を見て少しばかり安心した千隼はカトラリーケースからフォークを出すと内田のパスタを少し食べた。
「......その...そんな最低なことをした相手は今何してるのかね。今もそんな悲惨なこと繰り返してるのかな。」
 暗い顔をしながらボソッとそう呟いた千隼に内田は少し躊躇しながら「元気にしてるよ。」と返した。
「なんでそう言い切れんだよ。つか少しは...と言うかかなり反省しててくれないとお前もその子も気晴れないだろ。」
「まぁ...。反省はしてるっぽいよ。1ヶ月くらい前にそいつからL◯NE来たらしい。んで会って直接謝罪を受けたんだってさ。...これはあとから本人に聞いた話だけど、レ◯プって言っても完全に無理矢理だったわけじゃないんだって。そいつは嫌なら逃げてもいいって言ってたらしい。でも彼女の方が我慢して相手すれば付き合ってもらえるかもって過信してたんだとさ。結局相手は初経験をもらうのが好きなだけのヤ◯チンだったってオチなんだけどね。」
 その話を聞いた千隼はふと数ヶ月前に自分が佐々木に言った噂話とよく似た境遇だと思った。そしてそれと同時にその相手の男の存在を思い出しハッとした表情を浮かべた。
「......待って。ごめん......え、もしかして...え。そう言うこと?」
 千隼の反応を見て察しがついたのか内田もまた同じような顔をして「そう言うこと。」と返した。
「あー...まじか。え、それって有馬も知ってるやつ?」
「いや、過去にそいつがそう言うことしてたやつだって言うのは本人から聞いて知ってるっぽい。ただその被害者が俺の好きなやつだって言うのは多分知らないよ。」
 千隼は頭を抱えながら「まじか。」と言うと大きなため息を漏らした。
「でも当人同士はもう腹割って話して過去をどうこう言うのはやめようって決めて切ったらしいから大丈夫だよ。今更モヤモヤするようなこと打ち明けた俺が100悪いけど、本人は話してスッキリしたかもだけど俺は消化できずにずっとモヤってたからさ。それで聞いて欲しかっただけなんだよ。巻き込んで悪い。」
「いやそれは全然いいけどさ...内田的にはそれでいいの?向こうはいまだに付き合う気はないんでしょ?」
 思い出したように少し冷めたドリアに再び手を付け出した千隼が食べながら話すと内田は柔らかい表情をしたまま首を縦に振った。

 その後は内田が話題を変えたことから千隼も特に聞き返すこともなくそれに応えるように自分もたわいもない話を内田にした。
 二時間弱で店を出ると、駅に向かって二人は歩きだした。
 店を出る前に「今から帰る。」と送った連絡に新山から「迎えに行く。」と返ってきていたのを見て千隼が嬉しそうにニヤニヤしていると、それを見た内田は「幸せそうだな。」と笑って言った。
 その発言に先ほどの話を聞いてしまったからか、返事に困っていると内田は明るい顔をして口を開いた。
「...高校卒業したら俺も彼女できる予定だからさ。そん時はもう盛大に祝福しろよ。」
「え...どういうこと?」
 内田の発言に困惑していると内田は笑って話した。
「実を言うと、そのことがあってから何回かそいつに告白してんだわ。でも決まって毎回まだ誰かと付き合うのが怖いって言われててさ。でもある時、高校卒業しても好きでいてくれたらその時は付き合って欲しいって向こうから言ってくれたんだ。だから俺はその時が来るのをずっと待ってるつもりだよ。」
 そう話した内田は澄んだ瞳で清々しく言った。そして駅に着いた時改札の中の壁際で新山が千隼の帰りを待っているのを見つけてクスッと笑った。
「ま、そういうことことで~。たまには恋愛相談受ける側も新鮮で良いもんでしょ?また気が向いたらそっち役やってよ。それまでは君らの惚気でも何でも聞いてやるつもりだからさ...もちろんお前も有馬もどっちもの、な。」
「お、おう...もちろん!また学校でな。」
 駅前のバス停にバスが着いたのを見て内田は「俺はバスだから、じゃあね。彼氏と仲良くな。」と言って駆け足でバス停に向かっていった。そんな内田を見届けると千隼は駅の方に身体を向けまた歩き出した。改札に入るとすぐに新山が立っているのを見つけて駆け寄った。
「ごめんお待たせ。ここまで迎えに来てくれたんだ...ありがと。」
 心なしか家を出ていく時よりも晴れた顔つきで話す千隼を見て安心した表情を浮かべた新山は「全然大丈夫よ。」と言って千隼の頭を撫でた。
「お友達くんは大丈夫だった?」
「あー、うん...一応ね。色々話聞いたけどとりあえず解決?できたっぽい。個人的な内容だから言えなくても申し訳ないけど...。」
「ん、そかそか。解決したんならよかった。全然いいよ。ちゃんと口固くしてて千隼くんえらいえらい。」
 子供を褒めるように言う新山に「子供扱いしないで!」と千隼がへそを曲げると新山は無邪気に笑った。

 そのまま二人はまた一緒に、佐々木家に向かって帰っていった。



------------------------------------------------------------------

※補足

こちらの話は“フィクション”の「15話 意外な繋がり」を読んでいただけると、より話の理解が深まる回となっております。

合わせてよろしくお願い致します。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【柳原学園】いやいや、俺は『俺様生徒会長』だから

西園 斎
BL
家の都合で『俺様』を演じてる生徒会長が、生徒会やら風紀やら教師やらから好かれるお話。 演技俺様会長総受け(愛され)/後固定CP *10年以上前の作品を、やや加筆修正していきます

ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!

はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。 ******** 癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー! ※ちょっとイチャつきます。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...