ノンフィクション

犀川稔

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56話 愛美の悩み事

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 おれは今、新山さんの家にいる。
 もっと正確に言えば、一人で新山さんの部屋で待機している。

 こうなったのも数時間前。新山さんの家でつい先日発売された漫画の新刊を読んでいた時、突如として新山さんの携帯が鳴った。
 電話の内容は新山さんやおれの兄貴が今でも親しくしている中学の頃の先輩が仕事中の事故で入院をしたと言うものだった。
 その見舞いにこれから行くからお前も来ないかと誘いの連絡で新山さんは話の途中から会話をスピーカーにしおれにも聞こえるようにしてくれていた。おれの兄貴にも同様に伝えたようだったけれど兄貴は「新山が行くなら俺も行く。」と言ったそうだった。
 正直、ただの遊びの誘いなら当たり前に断ってほしいと言っていただろうけれど事情が事情なだけにおれは口パクで「行ってきていいよ。」と新山さんに言った。それを見た新山さんはおれにジェスチャーで「ありがとう。」と言うと、新山さんは部屋着を着替えて電話を切るなり兄貴に電話をして行くことを伝えていた。
 そんな新山さんの横でおれもノコノコと帰り支度を整えていたら新山さんに止められた。
「え、なんで帰んの。今日泊まってく約束だったじゃん。」
「いやそうだけど...事情変わったし新山さんも今日は忙しいだろうから帰るよ。また今度泊まりに来てもいい?」
「いやいや、居てよ家に。...これおれんちの鍵だから。どっかでかけるなら出入りするのに好きに使って。できるだけ早めに引き上げて帰るから待ってて欲しい。」
 そう言っておれの頬にキスをすると、新山さんは部屋から出て行った。
 一人でポツンと部屋に残されるとどうしようかと千隼は悩んだ。
 好きにしていていいとは言われたものの、やはり人の家。限度はあるし、何より今の現場を新山さんの家族が知れば気まずい以外に何ものでもない気がする。
「......とりあえず新山さんの部屋で大人しくしてるのがいいかもなぁ。」
 独り言のようにそう呟くと千隼は棚にあった先ほどまで読んでいた漫画を全巻引っ張り出し、一巻からまた読み返した。

 そんなことをしていると二時間があっという間に溶けていた。ダラダラと過ごすことも意外とエネルギーを使うもので、小腹が空いてきた千隼は部屋のテーブルに置かれいる新山が置いて行った家の鍵の目をやった。
「......少しだけ...ちょっとだけコンビニ行ってこようかな。」
 服は新山から借りた部屋着のままでポケットに携帯と財布、そして新山から渡された家の鍵を持ち部屋を出ると鍵を締めてコンビニに向かった。
 飲み物と軽いお菓子を一個や二個買うつもりだったのに、気づくと色々買ってしまっていた。
「甘やかしのスペシャリストで有名なあの新山さんでさえ多分この量は夕飯入らなくなるからって止めるだろうなぁ。」
 そんなことを考えながらゆっくりと家に向かっていると、新山さんの家の近くにある公園の中で話をする女の子であろう二人組を見かけ千隼は足を止めた。
 そのうちの一人が千隼が見ている事に気づきハッとした表情を浮かべた後で千隼に向かって手を振った。「誰だろう。」と思い少し中に入り近寄った千隼はその人物が新山の妹である愛美だったことを知り慌てて手を振り返した。
 そして邪魔をしたらいけないと、すぐに公園から立ち去ると真っ直ぐに新山の家に帰った。

 部屋に戻った千隼はコンビニの袋をテーブルに置きベットに寄りかかるようにして座り込むと買ってきたバナナジュースの口を開けてストローを差し込み、ポテチの封をパーティー開けするとワクワクしたような顔でポテチを口に運んだ。
 そんなことをしていると玄関の方からガチャっと鍵の空く音が聞こえ「誰か帰ってきたのかなぁ。」と千隼が他人行儀に考えていると、その足音はパタパタと近づいてきてまもなくして新山の部屋のドアがノックされた。
「あっ、えっと...入ってます...。」
 気まずそうに千隼がそう返事をすると部屋のドアが開けられ、その空いた隙間から愛美がひょこっと顔を出した。
「千隼くん~...ちょっと相談聞いて欲しい!」
 顔を見るなり大きなため息を吐く愛美に驚きながらも千隼がどうしたのかと聞くと愛美は「ちょっと待ってて。」と言って一旦部屋から出て行った。そして部屋着に着替え冷蔵庫からお茶を持ってくるとまた新山の部屋に戻ってきた。

「......って感じなの~。ねぇどうしたらいいと思う!?やっぱり脈なしかな...千隼くん的にどう思う~?」
 当たり前のように千隼の隣に座ると千隼の買ってきたポテチとチョコレート、じゃが◯こを平然とポリポリと食べる愛美に面白おかしくなり千隼が思わず笑うと愛美は「もう真面目に答えてよ!」と頬を膨らした。
「ごめんごめんっ!なんというか...なんか面白くてつい...。えっと、その...好きな人の話だよね?いつくらいから好きなの?」
「そう~!えー...どうだろう。もう二年近くなるかなぁ...。今の学校もその子がそこ行くって言ってたから決めたくらいだし、できるだけ意識して欲しくてほぼ毎日一緒に登下校もしてるんだけど全然!向こうはただの仲良い友達って思ってるくらいだと思う...。」
 ため息を吐きながらわかりやすく暗い顔をする愛美を宥めると千隼は必死に言葉を選んで話をした。
「うーん...正直おれは男女の間に“純粋な友情だけ”っていうのはないって思ってる人だからさ。だから毎日一緒に学校行ったりしてるならそれはもう相手も少なからず愛美ちゃんに好意はあると思うけどなぁ...。その人の性格を知ってるわけじゃないからあんまりはっきりは言えないけど男の人は割とそういう感じだと思う、かな。」
 辿々しく千隼がそう自分の意見を述べると、愛美は「違うの。」と小さな声で言った。
「違う...?」
「うん...だから...その...。私も千隼くんたちと同じ感じなの。」
「おれたちと同じ...ん?どういう事?」
 話の意味が理解できず千隼が首を傾げていると愛美は自分の携帯の画面を千隼に見せた。
「これは...体育祭の写真?愛美ちゃんも隣に写ってるお友達も可愛いね。」
「うん...それ......私の好きな人。」
「......え?」
 思いもよらない愛美の発言に千隼が驚嘆していると愛美は耳を赤くして「だから困ってるの~。」と伸ばしていた足をばたつかせた。
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