ノンフィクション

犀川稔

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59話 嫉妬深い彼氏と淡白なおれ

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 数日考え込んだ結果、おれは正直に新山さんに話すことにした。と言っても、今更どう話を掘り返せばいいのか悩みまたそれから数日が経過していた。
 そんな風に過ごしていたからか、おれの挙動不審を見兼ねた新山さん自らが「ちょい座って話でもしようか。」とおれに提案してくれた。
 それに乗っかるようにして新山さんのバイト前にバイト先の近くにあったファストフードに立ち寄った。
 バニラシェイクとポテトを二個ずつ買って席に戻って来た新山におれは口を開いた。
「ごめん...おれ夏の間、学校の着替えの時体育着のナカに何も着ずにそのまま着てた。だから終わって着替えの時も全然上裸になってたし誰も見てないだろうし暑いしいいやって思ってた。正直に言えずにいてごめん。」
 思いがけない千隼の発言に一瞬驚いた表情を浮かべた新山はすぐに笑みを浮かべると千隼の頭を優しく撫でた。
「それ...ずっとなんて言おうか悩んでたの?」
「うん......あの、前の泊まりの時そう言う話になったじゃん?そん時から罪悪感で死にそうになっててもういっそ墓場まで持って行こうかとも思ったんだけどバレた時、修羅場るのが怖くて白状することにした。」
 申し訳なさそうにプルプリ震えながら目線を逸らして話をする千隼に「大丈夫だよ。」と柔らかい声で言った新山はストローを刺してシェイクを千隼に渡した。
「いや、むしろそんな考え込ませちゃってごめんだわ。うん...まじでごめんね。全然大丈夫...うーん、正直大丈夫...ではないけどもう今はしてないんでしょ?ならいい。俺の気知った上でまだしてたらそれは物申したいけど今はちゃんとしてくれているなら大丈夫。ってかそれで悩んでたこと自体が可愛すぎね。」
 温かい温もりを感じるような物言いをする新山を見て安心したのか肩に力を抜くと千隼は大きく息を吐いた。
「良かった~...また怒らせるかと思った。」
「いや怒んないよ。そんな俺って千隼の中でキレやすい人って認識なの?」
「んー...人のキレる沸点って分かりにくいじゃん。今までもそれで失敗してきて後味悪い別れ方してきたしいつそうなるのか分からん世の中すぎて恐ろしいわ。」
 安心した反動でそんなことをペラペラと話す千隼の言葉を聞いた新山がピクッと動きを止めると「今までって...元カノのこと?」と低い声で聞いた。その返しに「マズイ。」と悟った千隼がパッと新山に目を移すと時既に遅く、新山の表情は暗く蔑んでいた。
「あー...えっと、違くて。今のは完全に失言。ごめん.......そう言う意味で言ったんじゃなくて」
「......そう言う意味でしかないでしょ。今この場でその話持ってくんのは強すぎ。普通に分かって言ってんのかと思ったわ。」
「っ!そんなわけない!おれが言いたかったのは今まで付き合ってきた人は確かにそうだったけどでも新山さんは...」
「まだそれ言う?もういいって。だるすぎ。」
 何を言っても逆効果のその状況に千隼が動揺し黙り込むと、新山は千隼に気を留めずポテトを食べ切りシェイクを飲み干し立ち上がった。
「じゃ...俺バイト行くから。それ食べたら帰りなね。バイト終わって時間あれば連絡するわー。」
 素っ気なくそう言い放つと新山は店を出て行った。
 そんな新山の後ろ姿を見届けた千隼は新山の姿が見えなくなるとテーブルに突っ伏してため息を吐いた。
 ...最悪だーまたやらかした。おれはただ新山さんは他の人とは違うってことを言いたかっただけなのに普通にイラつかせちゃったしマジで伝え方って難しすぎる。
 気怠そうな面持ちで顔を上げた千隼はカバンから携帯を出しL◯NEを開いた。
 新山からの連絡はなし。
「...まぁ、そりゃぁそうだよな。」
 吐いても吐いても終わらないため息を何度も吐きふと店の外をガラス越し見ると、そこには有馬と高瀬先輩の姿があった。
 物珍しく思い二人の様子を観察すべくポテトをパパッと食べ切り飲みかけのシェイクを持って店を出た。
 楽しそうに話しながら歩く有馬たちの数メートル後ろを尾けるようにして追っていると二人は人気のない路地裏に入って行った。
 ここまで来てようやく自分のしていることの気持ち悪さを自覚し我に返り、来た道を通って大通りに戻って行った。その最中に後ろからトントンと肩を叩かれて驚きながら振り返るとそこには赤城の姿があった。
「あれ、赤城先輩。」
「うん。なんで君がここにいんの、新山待ち?」
 その問いかけに答えられずにいると、なんとなく状況を理解した赤城が「俺これから佐々木んち行くとこだけど一緒に行く?」と千隼に聞いた。それに対して千隼が小さく頷くと二人が駅に向かってゆっくりと歩き出した。

「赤城先輩ってもし恋人さんに過去に付き合ってた人の話題出されたらどう思う?やっぱりイライラするもん?」
 電車に乗るまで無言を貫いていた千隼が突如として口を開くと片耳だけで音楽を聞いていたイヤホンを外しながら赤城は聞き返した。
「えー。内容によるけど...どう言う感じの話題?」
「うーん...それ聞かれるとちょいむずいけど、強いて言うなら今までの人はこうだったけど赤城先輩はこうだから好き~的な感じの比較...みたいな。」
「あー...。」
 その質問で粗方何があったか悟った赤城はイヤホンをケースにしまいながら口を開いた。
「そもそも俺そう言うのあんま好きくないんよね。なんて言うんだろ...周り落として相手上げる的な言い方?がいまいち良さ分からない。それ口に出して言ったところで誰も得なくね?自分は一瞬でも前の相手の嫌だったところ思い返すことになるし恋人からすると過去の恋人との比較ってだけでいい気しないでしょ。んだからそういうのは自分の中だけで浄化すればいいもんだと思ってる節はある。」
 赤城の話を聞いて千隼は顔色を曇らせた。そんな千隼に気を遣い「まぁ失敗は誰にでもあるべ。」と赤城がさりげなくフォローを入れたけれど千隼の表情が変わることはなかった。

 電車を降りると家までの道のりは重い雰囲気が流れていた。そんな状態を断ち切るべく赤城は自分が先日、恋人と別れる危機に陥ったと言う話を千隼に打ち明けた。それを聞いた千隼は最初はあまり反応をしなかったものの、恋愛で苦労しているイメージのなかった赤城が珍しく苦戦している内容を聞いてだんだん話にのめり込んでいった。
「......恋愛上級者の赤城先輩でも恋人さんと喧嘩...と言うか今の話だとすれ違いか、そういうのするんだね。」
 驚きながらも呆然と話を聞き終えた千隼がそう言うと赤城はクスッと笑って千隼に目を向けた。
「その恋愛上級者ってやつ。佐々木たちあいつらが勝手に言ってるだけであって、俺別にそんな恋愛上手くないよ。マジに揉める度に毎回相手に救われているしむしろ向こうのおかげで今の今まで一緒にいれてるまであるからね。...まぁあれよ。結局は相性の問題が一番でかいんじゃない?」
「相性...?」
 携帯を片手に誰かにメッセージを返す赤城のことを横から見ていた千隼が聞き返すと優しい顔つきで相手に連絡をした後で赤城が携帯をしまい話を続けた。
「うん。...全然、第三者目線の意見だからあんま当てにしてほしくはないけどさ。どちらかと言うと新山あいつは重めじゃん、愛が。でもそちらさんそうでもない感じでしょ?」
「...?いや、おれ新山さんのこと普通にめっちゃ好きだよ?」
「あ、いや。そういうんじゃなくてさ...んー、なんて言うのかな......。あー...例えばさ、あいつから朝起きたであろう時間から半日近く連絡なかったらどうする?」
 赤城の質問に困惑しながらも真面目に考えたあとで「どうするも何も寝てるのかなって思う。」と言い返した。
 それを聞いた赤城は「うん、だと思った。」と言ったのに対し意味を理解できずに千隼は首を傾げた。
「俺含め新山みたいな愛重めの嫉妬束縛男はその解釈だけじゃ終わらないんだよ。多分俺ならその場合、君らみたいに家近けりゃ全然家まで会いに行っちゃうだろうし相手の口から言い出さなかったらその半日何してたのか全力で詰めると思うよ...まぁ、そんなことして嫌われなくないんで、悟られないように細心の注意払って言うけどね。」
 サラッと話をする赤城に「新山さんもそうだったりするのかな。」と千隼が聞くと赤城は小さく頷いて「おそらくね。」とだけ言った。
 そしてどうしたらいいものか悩んでいるうちに家に着いた千隼はぼーっと考え込みながら家の中に入った。

 リビングで携帯を弄っていた佐々木と話を始めた赤城がソファに座ると千隼はわかりやすく落ち込んだように部屋の隅に座った。
 その様子を見て茶々を入れようとした佐々木の頭を軽く叩くと赤城はため息を吐いて千隼の前にしゃがみ込んだ。
「あー...えっとさ。あんだけ色々言ったあとで響かんかもだけどしょうがないことだから気にしすぎない方がいいよ。あいつも寝りゃ忘れるべ。無理にあいつの恋愛観に合わせる必要はないからね、マジで。それすると逆に拗れるし疲れるだけだから、って言うのはとりあえず伝えておくわ。」
 そう言って笑いを堪えて狼狽える佐々木を連れて赤城は二階に上がっていった。

 リビングに残された千隼は、今だに更新されない新山とのトーク画面をじっと眺めた。
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