ノンフィクション

犀川稔

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69話 本当の強さと優しさ

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 四人はリビングに入ると千隼と新山はソファに座り、佐々木と土間はダイニングチェアに腰を下ろした。
 なんとなく重い雰囲気が乗りかかる中、新山はガサゴソとコンビニの袋を漁り中からバナナオレと炭酸飲料を出した。バナナオレの口を開けるとストローを刺しそれを千隼に手渡すと千隼は嬉しそうに「ありがとう。」と新山に言った。
 そんな様子を目の前で見ていた土間は堪えきれずに「なんでそんなお前らは仲良いの?」と聞いた。千隼がなんと答えればいいかあたふたしていると新山は「付き合ってるから。」となんの躊躇もなく返した。
「は?...いやいや、今その冗談は全然笑えないし普通にデリカシーねぇわ。」
「いやデリカシーとか関係なく普通に。うん、付き合ってるからさ...仲いいも何も彼は俺の恋人なんだわ。」
 全く動じない新山の態度とそれを隣で見ていた千隼が徐々に顔を赤面にしたのを見て土間は新山が言っている事が事実なのだと悟り呆然とした。
「...ってなわけでお前の出る幕なしってわけよ。そんで下手な噂話流されて黙ってるほど俺も新山も気長くないってことね。」
「で、でも結局は男と付き合ってんだから男好きだって間違ってねぇだろ!男たらし込んで新山とベタベタしてるホモには変わりねぇじゃん!」
「......まるで負け犬の遠吠えだな。」
 土間が必死で言い返す中、毅然とした態度で新山が言葉を発した。
「...今お前なんっつった?もっかい言ってみろよ。」
「あぁ、何回でも言ってやるよ。脈ないってわかった瞬間、罵倒浴びせるってただの負け犬みたいだって言ったんだよ。ただ大変申し訳ないけど、俺も千隼も全然気にも留めてないしあーなんか言ってんな~くらいにしか思ってないよ。見てよ、こんなお前が必死に熱弁してる中、呑気にバナナオレ飲んじゃってるんだよ。可愛すぎでしょ。」
 そう言われて目を向けた土間は、全く気にすることなくキョトンとした顔でストローを吸っている千隼を見て何も言えずにプルプル震えていた。
「......え、何。なんでみんなしてこっち見てんの?怖いんだけど...。」
「いや、今この場合一番怖いのはどう考えてもそう平然とバナナオレ飲んで寛いでるお前だわ。」
 笑いながら佐々木がそう口を挟むと、千隼は「おれが言いたいことは兄貴と新山さんが言ってくれるだろうかないいかなって...。」とヘラヘラしながら答えた。そして少し時間を置いてからテーブルにバナナオレを置くともう一度口を開いた。
「それにこの状況、三対一ってどう考えても土間そっちが不利でしょ。だからおれは何も言わないよ。それでも二対一だからどうかなーとは思うけどさ。」
 千隼の発言に佐々木と土間は驚いた顔を見せたけれど新山だけは薄く笑みを浮かべて千隼の事を温かい眼差しで見つめていた。
 そんな千隼を見て諦めがついたのか土間は千隼に向かってあの時から好きだったことと自分の恋愛対象が男だと言う事を伝えた。
「おれは元より同性が好きだったわけじゃないからなんとも言えないけど......でも今の恋人が...好きです。だから気持ちには応えられないです、ごめんなさい。」
 簡潔かつ冷静な千隼から返答に土間は潔く引きその後、過去の過ちを含め噂を流したり周囲の人に千隼の事を聞きに回ったりした事を謝罪した。
「...まじでもうこれっきりにするから。千隼くん、最後に話聞いてくれてありがとう。佐々木と新山も...もし今後どっかで見かけたとしてもスルーで大丈夫だから、悪かったな。」
 序盤の威勢はどこかに消え、切なそうな声でそう言うと先に帰ろうと土間は立ち上がった。しかし千隼は「え、なんで?」と土間に聞いた。
「なんでって...?」
「いや...おれに対しての話はまぁまぁ分かったとして兄貴と新山さんへの話ははてなすぎる...。今までのことも含めて和解したんだしこれで万事解決ちゃんちゃん!で終わりの案件じゃないの?なんでそんな最期の別れみたいな流れになってる?」
 千隼の話に土間が困惑していると耐えきれず佐々木と新山は声を出して笑った。
「あ~...マジでおもろいわ。そうそう、俺の愚弟こういうやつなんよ。」
「うん、これだから千隼くんは最強なのよね~。」
 笑いながら佐々木と新山がそう言うと「全然褒められてない気がするんだけど...。」と千隼は臍を曲げながらぶつぶつと呟いた。
 佐々木はスッと立ち上がりと土間の前に立った。
「ってことらしいんで。これからも友人枠として宜しく頼みますわ!」
 そう口を開きながら佐々木が手を差し出すと土間は唇を噛みながらその手を取って握手をした。何度も「ありがとう。」と言う言葉を発するとそれを聞いた新山も徐に立ち上がり佐々木の隣に立った。
「....正直言うと俺は一ミリも許せてないけど。でもまぁ俺のお姫様がこう言ってる限りマジでちゃんとイヤイヤだけど仲良くするわ。責任取って今後、俺の機嫌取ってね」
「...新山......。」
 便乗してそう話した新山のことを潤んだ瞳で見ると土間は三人に頭を下げた。

 その後まもなくして先に土間が帰ると気が抜けたように千隼は「はぁ~!」と大きく息を吐いた。
「緊張したぁ...時間は経ってると言えどトラウマの相手と面と向かって話すってめっちゃ精神使うわ。なんか甘いもの食べたくなってきた。」
 ソファで伸びをした千隼はそう言いながら両足をばたつかせた。
「そんな相手にあーまで言えるお前の神経が俺は一番理解できねぇけどな。」
「おい、俺の千隼くんのこと悪く言うな。可愛い天使、若しくはいい子って言えや。」
「マジでお前もお前で頭逝ってんな。このくそ生意気なガキのどこに褒める要素があんだよ、信じらんねぇな。」
 馬鹿にしたように佐々木は冷蔵庫を漁りながら言うと、ソファにいる千隼に向かってシュークリームを投げた。
「お、ありがと!兄貴もたまには使えるね。」
「...それ返せ。おい新山、これのどこが天使だって?あ?」
「その笑顔、言葉プライスレス。」
「......キショいな。」
 呆れたようにそう吐き捨てると佐々木は風呂が沸いている事を二人に伝え「先に入れよ。」と言い二階に上がっていった。
「...さ、俺はそろそろ帰ろうかなー。」
「え。新山さん泊まんないの?」
「泊まってほしいの?俺は全然どっちでもいいけ...」
「一緒に寝たい。」
「よしゃ、泊まるわ。」
 そんな流れでお泊まりが即決すると、新山が近くのコンビニに替えの下着を買いに行っている間に千隼は先にお風呂に入った。

 あと数日で迎える冬休み。
 その前に新山たちの学校では休みの間に考えておくようにと手渡された手紙があった。
 その見出しには「進路希望調査」とそう大きく書かれていた。
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