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地獄のような日々
第6話 同じもの
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ジルが魅了の魔法をかけられて、半年が経った。その間も、ずっとリリアは魅了の魔法を解く方法を見つけるために奮闘していた。
けれど、見つからなかった。
そもそも、魅了の魔法などというものはない。口々に言う魔女達の言葉が正しいと示すかのように国で一番大きな図書館にさえも、「魅了の魔法」という記述がみられる歴史的書物はなく、恋愛小説や、童話集の中でしかその記述は見られなかった。
「お嬢様……今日こそ、何かお食べになってくださいませ」
銀の盆を持った世話役のメイドがサイドテーブルに置いたのは、スープとパン。一見して貧相な食事と思われても仕方のないそれらは、今のリリアが一日をかけてやっと食べられる量の食事だった。
それほどまでにリリアの食は細くなっていた。元々、触れれば折れてしまいそうなほど細かった腰は、もはや触れずとも折れてしまいそうなほど細くなり、手足は細枝そのもの。薔薇色に染まっていた頬は青白く、纏う空気は重たく暗い。
リリアはしばらくぼおっと運ばれてきたスープを眺め、ようやく銀のスプーンを手にした。
けれど、開け放たれた窓から小鳥の囀るようなミラの笑い声が聞こえてきて、やっと手にしたスプーンを落としてしまう。
「ジル様……。ミラのために花束を?嬉しい……でも、いいのかしら。お姉様を差し置いて……こんな素敵な花束をミラが貰ってしまって」
「いいんだよ。他でもない君にこの花束を送りたかったんだ」
「でも……」
「もらってはくれないのかい?」
「いいえ!そんな……大切に致します」
楽しそうな会話。よせばいいのに、リリアはどうしてもジルの優しい顔が見たくなって……窓辺へ駆け寄ってしまう。
「そうしてくれると嬉しいよ」
ジルは穏やかに笑い、ミラの髪を優しく梳いた。その仕草は、ジルがよくリリアにしていたもの。ミラに向ける慈愛に満ちた瞳も、リリアに向けられていたものだった。
(……ジル……)
優しい笑顔も。穏やかな声も。優しい手も。向けられる温かな愛情も。慈愛に満ちた瞳も。今までリリアに向けられていたもの全てが、今は、そっくりそのままミラに向けられている。
「……愛しているよ、ミラ。君だけだ。君だけを永遠に愛すると誓うよ」
聞こえてきたその言葉に、リリアの心臓はドクリと嫌な音を立てた。その言葉は以前、ジルがリリアに送った言葉。リリアが何よりも大切にしていたジルからの求婚の言葉だった。
『……愛しているよ、リリア。君だけだ。君だけを永遠に愛すると誓うよ』
照れ臭そうな顔をしていたジル。けれど見つめてくる瞳はどこまでも真剣で……。
『──……僕と結婚してくれるかい』
続いた言葉に、リリアはもちろん『はい』と答えた。
もしかしたら、ジルはリリアへ送った言葉と同じように……ミラへ求婚するのかもしれない。
そんな嫌な考えが頭を過った。けれど、予想に反してそれ以上ジルの言葉が続くことはなく、ミラの媚びるような甘い声が聞こえてくる。
「ジル様、本当に?魅了の魔法を掛けられたからそんなことを言っているのではない?」
「違うよ、ミラ。例え魔法が解けたとしても君を愛することを誓うよ」
延々と続く2人の甘いやりとり。
(魅了の魔法が解けたとしても……ジルはもう私のことを愛さないかもしれない)
脳裏を過った暗い考えに、リリアは慌てて頭を振り、己を叱咤する。
(あと1年と半年……。ジルのことはちゃんと信じていたい)
信じていれば叶うとは思わない。けれど、ジルだって好きで魅了の魔法にかかったわけではないのだから。少なくとも、ジルを疑うことだけはしてはいけない。
魅了の魔法が解けた時『あなたのこと、信じていたわ』と笑顔でジルに伝える。
今はただ、その日が来ることを願うことだけが、リリアに出来る唯一のことだった。
けれど、見つからなかった。
そもそも、魅了の魔法などというものはない。口々に言う魔女達の言葉が正しいと示すかのように国で一番大きな図書館にさえも、「魅了の魔法」という記述がみられる歴史的書物はなく、恋愛小説や、童話集の中でしかその記述は見られなかった。
「お嬢様……今日こそ、何かお食べになってくださいませ」
銀の盆を持った世話役のメイドがサイドテーブルに置いたのは、スープとパン。一見して貧相な食事と思われても仕方のないそれらは、今のリリアが一日をかけてやっと食べられる量の食事だった。
それほどまでにリリアの食は細くなっていた。元々、触れれば折れてしまいそうなほど細かった腰は、もはや触れずとも折れてしまいそうなほど細くなり、手足は細枝そのもの。薔薇色に染まっていた頬は青白く、纏う空気は重たく暗い。
リリアはしばらくぼおっと運ばれてきたスープを眺め、ようやく銀のスプーンを手にした。
けれど、開け放たれた窓から小鳥の囀るようなミラの笑い声が聞こえてきて、やっと手にしたスプーンを落としてしまう。
「ジル様……。ミラのために花束を?嬉しい……でも、いいのかしら。お姉様を差し置いて……こんな素敵な花束をミラが貰ってしまって」
「いいんだよ。他でもない君にこの花束を送りたかったんだ」
「でも……」
「もらってはくれないのかい?」
「いいえ!そんな……大切に致します」
楽しそうな会話。よせばいいのに、リリアはどうしてもジルの優しい顔が見たくなって……窓辺へ駆け寄ってしまう。
「そうしてくれると嬉しいよ」
ジルは穏やかに笑い、ミラの髪を優しく梳いた。その仕草は、ジルがよくリリアにしていたもの。ミラに向ける慈愛に満ちた瞳も、リリアに向けられていたものだった。
(……ジル……)
優しい笑顔も。穏やかな声も。優しい手も。向けられる温かな愛情も。慈愛に満ちた瞳も。今までリリアに向けられていたもの全てが、今は、そっくりそのままミラに向けられている。
「……愛しているよ、ミラ。君だけだ。君だけを永遠に愛すると誓うよ」
聞こえてきたその言葉に、リリアの心臓はドクリと嫌な音を立てた。その言葉は以前、ジルがリリアに送った言葉。リリアが何よりも大切にしていたジルからの求婚の言葉だった。
『……愛しているよ、リリア。君だけだ。君だけを永遠に愛すると誓うよ』
照れ臭そうな顔をしていたジル。けれど見つめてくる瞳はどこまでも真剣で……。
『──……僕と結婚してくれるかい』
続いた言葉に、リリアはもちろん『はい』と答えた。
もしかしたら、ジルはリリアへ送った言葉と同じように……ミラへ求婚するのかもしれない。
そんな嫌な考えが頭を過った。けれど、予想に反してそれ以上ジルの言葉が続くことはなく、ミラの媚びるような甘い声が聞こえてくる。
「ジル様、本当に?魅了の魔法を掛けられたからそんなことを言っているのではない?」
「違うよ、ミラ。例え魔法が解けたとしても君を愛することを誓うよ」
延々と続く2人の甘いやりとり。
(魅了の魔法が解けたとしても……ジルはもう私のことを愛さないかもしれない)
脳裏を過った暗い考えに、リリアは慌てて頭を振り、己を叱咤する。
(あと1年と半年……。ジルのことはちゃんと信じていたい)
信じていれば叶うとは思わない。けれど、ジルだって好きで魅了の魔法にかかったわけではないのだから。少なくとも、ジルを疑うことだけはしてはいけない。
魅了の魔法が解けた時『あなたのこと、信じていたわ』と笑顔でジルに伝える。
今はただ、その日が来ることを願うことだけが、リリアに出来る唯一のことだった。
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