53 / 113
第一章
ズレじゃなく、ズル
しおりを挟む
「アルス様からは、イザベル様に静かに話を聞いて貰うことで、己を見つめ直せたと……エドガー様からは、イザベル様に自分も気づいていなかった弱みを労って貰えたと。そしてケイン様からは、思い込みに目を曇らせずに周りを、自分を見ることを教えられたと」
「……大げさよ? 私はただ、話を聞いたたけ」
「そ!れ!が! アルス様達攻略対象に、響いたんです……わたしの推しカプは、ユリウス様×イザベル様一択なんですが。他の攻略対象から好かれるイザベル様を見て、新しい扉が開くかと思いました」
「あの、好かれるってお互い、子供だからね?」
「初恋は、子供の頃にするものです。逆に、イザベル様が皆さんの初恋泥棒になってくれたおかげで、わたしはユリウス様以外の方とは、多少親しくなっても友達止まりで終わってます」
壁の向こうでうっとりと呟くエマに、ついツッコミを入れてしまう。けれど、そんな私にキッパリ言い切ると、人のことを何だか酷い評価をして話を締め括った。
何だかな、と思いつつも私は別に気になっていたことを口にした。
「……親しくなれたの?」
主に猪だが、他の面々のエマへの当たりは褒められたものではなかったようだ。
幸か不幸か、当人はユリウスのことばかり考えて、そこのところは気にしていなかったようだが――私が先に暴風雨達に会ったことも関係していたようなので、少し責任を感じていたのだ。
「はい! ズルもしたので、完璧です!」
それから人聞きの悪いことを言うと、顔は見えないのに笑顔だと解る声で、その後のことを話してくれた。
※
アルス達のイザベルの話で、午前中は終わった。
エマもだが、アルス達が来る時は軽く食事をして、午後の授業をすることになっている。しっかり食べないのは、午後の授業もあるからだそうだ。それ故、野菜やハムを挟んだパンを食べている。
「たくさん食べると、眠くなりますものね」
「お、解るのか? 居眠りしたら、アルスにすごい怒られるから気をつけろよ」
サンドイッチと言わないように気をつけつつ(見た目はまんまだが)そう言うと、エドガーが笑いかけてきた。実感がこもっているので、居眠りをして怒られた前科があるのだろう。
微笑ましく思っていると、ユリウスがわたしに声をかけてきた。
「君が私達と一緒にアルスから学ぶのは、魔法についてとこの国や他の国の歴史についてだ……女子供には、退屈ではないか?」
……真顔で言っているので、意地悪ではないと思う。
そしてこの国では、女性は礼儀作法や手芸、ダンスなどは学ぶが、学問は貴族でも読み書きくらいしかやらない(平民だとそれすらしない)。それなのに王子の婚約者候補とは言え、女子供のエマに勉強など出来ないと思われたようだ。
とは言え、わたしにも言い分がある。
「……私が勉強するのは、どこまでもユリウス様についていく為です。何があっても傍にいる為には、色んなことが出来る方がいいですよね」
にこにこ、にこにこ。
何があってもと言ったのは、王太子だからではなく彼自身を想っていると伝える為だ。
それに、彼のトラウマ(庶子の異母兄が、ユリウスを王太子とする為に身を引いて城を出た)を考えると――愛情もだが、何かの策略で異母兄が現れたら王位を譲って国を出そうな気がする。
(そうなっても、付いていきますからね! ユリウス様!)
内心で気合いを入れていると、ユリウス様は青い瞳を大きく見開いて――次いで、戸惑ったように視線を揺らしてわたしを見た。
推しキャラの素の表情を見られたのに、わたしは万歳三唱するのを必死に堪えた。
「……大げさよ? 私はただ、話を聞いたたけ」
「そ!れ!が! アルス様達攻略対象に、響いたんです……わたしの推しカプは、ユリウス様×イザベル様一択なんですが。他の攻略対象から好かれるイザベル様を見て、新しい扉が開くかと思いました」
「あの、好かれるってお互い、子供だからね?」
「初恋は、子供の頃にするものです。逆に、イザベル様が皆さんの初恋泥棒になってくれたおかげで、わたしはユリウス様以外の方とは、多少親しくなっても友達止まりで終わってます」
壁の向こうでうっとりと呟くエマに、ついツッコミを入れてしまう。けれど、そんな私にキッパリ言い切ると、人のことを何だか酷い評価をして話を締め括った。
何だかな、と思いつつも私は別に気になっていたことを口にした。
「……親しくなれたの?」
主に猪だが、他の面々のエマへの当たりは褒められたものではなかったようだ。
幸か不幸か、当人はユリウスのことばかり考えて、そこのところは気にしていなかったようだが――私が先に暴風雨達に会ったことも関係していたようなので、少し責任を感じていたのだ。
「はい! ズルもしたので、完璧です!」
それから人聞きの悪いことを言うと、顔は見えないのに笑顔だと解る声で、その後のことを話してくれた。
※
アルス達のイザベルの話で、午前中は終わった。
エマもだが、アルス達が来る時は軽く食事をして、午後の授業をすることになっている。しっかり食べないのは、午後の授業もあるからだそうだ。それ故、野菜やハムを挟んだパンを食べている。
「たくさん食べると、眠くなりますものね」
「お、解るのか? 居眠りしたら、アルスにすごい怒られるから気をつけろよ」
サンドイッチと言わないように気をつけつつ(見た目はまんまだが)そう言うと、エドガーが笑いかけてきた。実感がこもっているので、居眠りをして怒られた前科があるのだろう。
微笑ましく思っていると、ユリウスがわたしに声をかけてきた。
「君が私達と一緒にアルスから学ぶのは、魔法についてとこの国や他の国の歴史についてだ……女子供には、退屈ではないか?」
……真顔で言っているので、意地悪ではないと思う。
そしてこの国では、女性は礼儀作法や手芸、ダンスなどは学ぶが、学問は貴族でも読み書きくらいしかやらない(平民だとそれすらしない)。それなのに王子の婚約者候補とは言え、女子供のエマに勉強など出来ないと思われたようだ。
とは言え、わたしにも言い分がある。
「……私が勉強するのは、どこまでもユリウス様についていく為です。何があっても傍にいる為には、色んなことが出来る方がいいですよね」
にこにこ、にこにこ。
何があってもと言ったのは、王太子だからではなく彼自身を想っていると伝える為だ。
それに、彼のトラウマ(庶子の異母兄が、ユリウスを王太子とする為に身を引いて城を出た)を考えると――愛情もだが、何かの策略で異母兄が現れたら王位を譲って国を出そうな気がする。
(そうなっても、付いていきますからね! ユリウス様!)
内心で気合いを入れていると、ユリウス様は青い瞳を大きく見開いて――次いで、戸惑ったように視線を揺らしてわたしを見た。
推しキャラの素の表情を見られたのに、わたしは万歳三唱するのを必死に堪えた。
56
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します
みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが……
余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。
皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。
作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨
あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。
やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。
この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる