人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま

文字の大きさ
52 / 113
第一章

歩み寄りには、共通の話題から

しおりを挟む
 こうして母親、それから使用人達の協力を得て、エマは月に一回、修道院に来るようになった。
 ちなみにエマが寄り添い部屋にいる間はと言うと、母のミアは焼き菓子作りや夕食の支度を手伝ったりしている。慰問と言うと普通は見学までだが、屋敷では自分で料理やお菓子作りが出来ない。だからそれを気兼ねなく出来ることを、ミアはとても喜んでいるそうだ。
 そして、話は前後するのだが。
 一か月前。王宮での勉強会を数回済ませたエマは、今日のようにやって来て日本語で私に言った。

「無礼にならない程度に、地を出した……と言うか、イザベル様の話をしてきました」
「……えっ?」
「ユリウス様以外は、イザべル様に会っているので……話を聞きたいと言ったら、喜んで話してくれました」
「えっ、待って?」
「イザベル様の話を聞けた上、皆様とも距離が近づけて有意義な時間を過ごしました!」
「あ、はい」

 にこにこ、にこにこ。
 壁でエマの顔は見えないが、めちゃくちゃ笑顔で言っているのが伝わって、私はそうとして答えられなかった。
 そんな私に、エマは攻略対象達との歩み寄りについて話してくれた。



 イザベル様と会い、母親に頼んで父親から慰問の許可を得て。
 一週間後。エマは再び、王宮へと向かった。そしてユリウス様達攻略対象の前で、前回同様カーテシーをして――前回と違い、声をかけられないので黙っていることにした。身分が下の者から、上の者に声をかけるのは無礼とされている。
 しばらくの沈黙の後、ユリウス様から「今日は、大丈夫か?」と尋ねられた。それに答える形で、わたしは口を開いて話し出した。

「ありがとうございます。大丈夫です。先日は、失礼致しました……改めて、今日からよろしくお願いします」
「……体が弱いなら、無理に来るべきではないのでは?」
「ケイン様」

 そんなわたしにそう言ったのは、ユリウス様――ではなく、ケイン様だった。ユリウス様を差し置いてなのも驚いたが、先週以上に突き放した感じなのも驚いた。流石に、アルス様が窘めるようにケイン様の名前を呼ぶ。

(まあ、でも、ケイン様は元々、典型的な貴族だし……だから、攻略するまでは半分平民のヒロインにツンツンだし)

 逆にそのツンから、次第にヒロインだけに見せるデレのギャップがたまらなかったので気にはならない。
 先週はゲームとの相違点に驚いたが、そもそもイザベル様がゲームと色々違うので、今ではとても納得出来る。

「お気遣い、感謝します……あの、皆様はお姉さまのことをご存じなんですよね?」
「えっ……?」
「ええ、まあ」
「知ってるぞ!」
「……私は、会っていない」
「じゃあ、殿下はわた……私と一緒に、お姉さまの話を聞いて下さいますか? 別々に暮らしているので、少しでもお姉さまのことを知りたいのです」

 そして共通な話題で距離を縮めたいのと、イザベル様(推し)の話を聞きたいのとで――わたしは前半はユリウス様に、それから後半はアルス様、ケイン様、エドガー様にそう言った。
 ……結果、自己紹介の代わりにわたし達はイザベル様の話をして交流を深めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。 (私って一体何なの) 朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。 そして―― 「ここにいたのか」 目の前には記憶より若い伴侶の姿。 (……もしかして巻き戻った?) 今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!! だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。 学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。 そして居るはずのない人物がもう一人。 ……帝国の第二王子殿下? 彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。 一体何が起こっているの!?

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

イリス、今度はあなたの味方

さくたろう
恋愛
 20歳で死んでしまったとある彼女は、前世でどハマりした小説、「ローザリアの聖女」の登場人物に生まれ変わってしまっていた。それもなんと、偽の聖女として処刑される予定の不遇令嬢イリスとして。  今度こそ長生きしたいイリスは、ラスボス予定の血の繋がらない兄ディミトリオスと死ぬ運命の両親を守るため、偽の聖女となって処刑される未来を防ぐべく奮闘する。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...