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第二章
誤解と葛藤と
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アリア視点
※
焼き菓子、しかもクッキーなんて似たような見た目だと思う。
思う、のだが――テーブルにあるクッキーは以前、エドガーが『聖女のクッキー』だと言っていたものと同じに見えた。
「そのクッキーが、何か?」
聞き覚えのある声に、私の肩が跳ねた。
私が肩越しに振り返ると、そこにはイザベルがいて――以前、恋敵だと撥ね付けたので気まずいが、黙っていたらいたでクッキーに何か文句があるのかと誤解されそうだ。いや、アリアが悪く思われるのはこちらの態度もあるので当然だが、他の生徒達も食べているクッキーなので悪い誤解を与える訳にはいかない。
「……あの、このクッキーは聖女様が焼いたものですか?」
「え? 修道院で作っているので、昔は手伝いもしましたが……寄り添いを始めてからは、私は手伝っていませんよ?」
「修道院で……トラピス〇クッキー、みたいな?」
「ええ、そうですね」
つい、バリバリの前世ワードを出してしまったが、以前にも『とぅるらぶ』と言っているので問題ないだろう。と言うか、エドガーの言っていた『聖女のクッキー』と言うのは、ス〇ラおばさんの、みたいなブランド名なんだろうか?
「……あぁ、もしかしてエドガー様ですか? あの方は『聖女のいる修道院で買ったクッキー』を、紛らわしく言うんですよね……定期的に購入してくれる、ありがたいお客様なんですが」
「はぁ」
あっさりとしたイザベルの言葉に、私はそう返すことしか出来なかった。何と言うか、解ってしまえばあまりにも簡単なことで脱力してしまったのだ。
(どうせ縮めるんなら『修道院のクッキー』にすれば良いのに……馬鹿! でも、そこがバ可愛い!)
ついつい萌えてしまったが、すぐにそれどころではないと気づいて青ざめる。伯爵家令嬢が元侯爵家令嬢であり、聖女と呼ばれて国に認められている存在に喧嘩を売ってしまったのだ。
(……でも、クッキーは勘違いでも、あれだけカッコ可愛いエディ君なんだから……いや、だけど私の嫉妬で家や両親に迷惑をかける訳には……うぅ……)
謝罪をしなければ、と思ったけれど、まだイザベル恋敵説が完全に消えた訳ではないのでどうしても口が動かない。
そんな私をしばし見つめ、次いで何故かキョロキョロと辺りを見回した後、イザベルが顔を近づけてきて私にだけ聞こえるくらいの小声で言ってきた。
「内緒にしてくれますか?」
「え? あ、はい」
「……私、護衛騎士のラウルさんが好きなんです。お互い修道院に所属しているので、結ばれることはないですが」
「え? 誰?」
その言葉に、私は驚いてそんなことを口走りイザベルを見返した。
※
焼き菓子、しかもクッキーなんて似たような見た目だと思う。
思う、のだが――テーブルにあるクッキーは以前、エドガーが『聖女のクッキー』だと言っていたものと同じに見えた。
「そのクッキーが、何か?」
聞き覚えのある声に、私の肩が跳ねた。
私が肩越しに振り返ると、そこにはイザベルがいて――以前、恋敵だと撥ね付けたので気まずいが、黙っていたらいたでクッキーに何か文句があるのかと誤解されそうだ。いや、アリアが悪く思われるのはこちらの態度もあるので当然だが、他の生徒達も食べているクッキーなので悪い誤解を与える訳にはいかない。
「……あの、このクッキーは聖女様が焼いたものですか?」
「え? 修道院で作っているので、昔は手伝いもしましたが……寄り添いを始めてからは、私は手伝っていませんよ?」
「修道院で……トラピス〇クッキー、みたいな?」
「ええ、そうですね」
つい、バリバリの前世ワードを出してしまったが、以前にも『とぅるらぶ』と言っているので問題ないだろう。と言うか、エドガーの言っていた『聖女のクッキー』と言うのは、ス〇ラおばさんの、みたいなブランド名なんだろうか?
「……あぁ、もしかしてエドガー様ですか? あの方は『聖女のいる修道院で買ったクッキー』を、紛らわしく言うんですよね……定期的に購入してくれる、ありがたいお客様なんですが」
「はぁ」
あっさりとしたイザベルの言葉に、私はそう返すことしか出来なかった。何と言うか、解ってしまえばあまりにも簡単なことで脱力してしまったのだ。
(どうせ縮めるんなら『修道院のクッキー』にすれば良いのに……馬鹿! でも、そこがバ可愛い!)
ついつい萌えてしまったが、すぐにそれどころではないと気づいて青ざめる。伯爵家令嬢が元侯爵家令嬢であり、聖女と呼ばれて国に認められている存在に喧嘩を売ってしまったのだ。
(……でも、クッキーは勘違いでも、あれだけカッコ可愛いエディ君なんだから……いや、だけど私の嫉妬で家や両親に迷惑をかける訳には……うぅ……)
謝罪をしなければ、と思ったけれど、まだイザベル恋敵説が完全に消えた訳ではないのでどうしても口が動かない。
そんな私をしばし見つめ、次いで何故かキョロキョロと辺りを見回した後、イザベルが顔を近づけてきて私にだけ聞こえるくらいの小声で言ってきた。
「内緒にしてくれますか?」
「え? あ、はい」
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