灰かぶり君

渡里あずま

文字の大きさ
49 / 96

策略と思惑と2

しおりを挟む
「……随分と、ふざけた連中だな」
「刃金さん、皆さん、気持ちは嬉しいですけど落ち着いて下さい」

 昼休み、文化祭のことを話しに行ったらFクラスが一瞬で殺気立った。良かった、先に話しておいて――黙ってて後からバレたらもっと面倒になるところだった。

「一日頑張れば、それで済む話ですから。やらなきゃやらないで、また文句つけられるでしょうし」
「だけど、クイーン!」
「全く、女の腐ったような奴らだぜっ」
「同感だが……確かにおれ達が動いたら、余計に出灰の迷惑になるな」
「「「…………」」」

 不満そうな面々も、刃金さんの言葉を聞いて大人しくなった。
 まあ、これで嫌がらせがなくなるとも思えないけど、やらないよりはマシだ。
 そんなことを考えていたら、自分の席に座っていた刃金さんが笑顔で膝を指差した。
 それに俺は、キャッチャーからのサインに応えるピッチャーみたいに首を横に振る。
 すると刃金さんは、今度は隣の空いている席を指差したんで、俺は頷いてそこに座った――毎回断るんだから、まず自分の膝に座らせようとするの、諦めてくれないかな?

「このクラスは、文化祭では何をやるんですか?」

 今のやり取りを見つめる……ガッカリしている?(内藤さんは笑ってるけど)連中から話を反らす為、俺はそう尋ねた。

「控え室」
「……? 誰のですか?」
「おれらの」

 何でも白月の文化祭には六月末のせいか、あるいは金持ちイケメン狙いか、近隣の高校生や大学生が大勢くるらしい。その為、外部からの目を気にして風紀委員の見回りも、いつも以上に厳しくなるそうだ。
 とは言え、寮でサボることも出来ないのでFクラスの出し物は毎年『控え室』にして、教室にこもっているらしい。

「出灰のケーキが食えないのは、残念だけどな」
「「「だよなー」」」

 昼休みは限られている。そんな訳で、サンドイッチを食べながら聞いていた俺の頭を刃金さんが撫で、他一同がうんうんと頷いた。そっか、出歩けないんならSクラスにケーキ食べに来るのも無理か。

「よければ、試作品とか持ってきますか?」

 当日は、ホールケーキを切り分けて出すつもりだ。練習でいくつか作ってみるつもりなんで、皆に持ってきてもいいだろう。
 そう思って言った俺を、不意に刃金さんが抱きしめる。Fクラスにどよめきが走ったが、刃金さんは離れない。

「……刃金さん?」
「…………」
「キング、そんなにクイーンのさしいれ貰えるの、嬉しかったのー?」
「黙れ」

 内藤さんがからかうように言うと短い、だけど随分と低い迫力のある声で刃金さんが制した。そっか、嬉しかったんだ。
(可愛いな)
 年上の、しかも不良達をまとめてるような人に言うことじゃないだろうけど……こういうのが、ギャップ萌えって言うんだな、うん。

「そんなに喜んで貰えるなら、試作品じゃなく刃金さん用に作りますよ? あんまり、甘くない方がい……っ!?」

 そこで言葉が途切れたのは、不意に抱きしめてくる腕に力がこもったからだ。と、耳元でボソリと刃金さんが言う。

「……そうやって甘やかしてると、いつか痛い目見るぞ」

(うん、まあ、今ちょっと痛いって言うか苦しいけど)
 ただ、刃金さんが言うのはそう言うことじゃないんだろうし――俺は俺で、言い分がある。

「さっきのは特別扱いで、甘やかすならこうです」
「っ!?」
「出来ないことが多いんで、出来ることはしたいです……駄目ですか?」

 好きだって気持ちに、同じ気持ちで応えられない。キス以上の行為を受けられないし、返せもしない。
 だけど、たとえば今みたいに頭を撫でてみたり、食べたいものを作ったりとか――嫌いな訳じゃないって、俺も少しは示したいんだけどな。
(こういうのも『八方美人』とかになるのかね?)
 恋愛の意味で好かれるのって本当、難しい。そう思い、こっそり俺がため息をついた時だった。

「駄目じゃねぇ……けど、妙なことされそうになったらおれを呼ぶか、最悪、相手を殺す気でかかれよ?」
「……はい」

 それは過剰防衛じゃないかって思ったけど、刃金さんはそれだけ言って俺に頭を撫でられてくれたから――内心、許してくれたことにホッとしながら、俺は安心して貰う為に返事をした。

「キングー? こいつらにはちょーっと、目の毒だよー?」

 内藤さんに言われて、ここがFクラスだったのを思い出す。そして周りの面々は、刃金さんのイケメンオーラにやられたのか、赤くなって目を逸らしてた。



「全く。早速、面倒に巻き込まれて」
「……はぁ」

 放課後、会長の親衛隊に先週、ごちそうして貰ったお礼をしに行ったら――開口一番、隊長にため息をつかれた。
 多分、文化祭のことだろう。随分と早耳だな。

「はぁ、じゃない! クラスの出し物だと僕達、手伝えないんだからっ」
「あの、それはお気持ちだけで十分で」
「親衛隊は、Sクラスに入れないのっ……その決まりがなかったら、ちょっとは手伝ってやらなくもないのに!」
「……ありがとうございます」

 上からの言い方だけど、それはもうデフォルトだし。何より、差し入れに持ってきたクッキーを食べながらなんで、ただ可愛いだけだ。
 だから俺がお礼を言うと、途端にワタワタし出した――これくらいで照れるなんて本当、普段苦労してるんだな。気の毒に。
 そこまで考えて、俺はあることを思いついた。

「すみません、お願いがあるんですが」
「「「何々っ?」」」
「今度、ここでオーブンと炊飯器使わせて貰えませんか?」
「「「……え?」」」

 身を乗り出してきたチワワ達が、俺の頼み事を聞いてきょとんとした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君が僕を好きなことを知ってる

大天使ミコエル
BL
【完結】 ある日、亮太が友人から聞かされたのは、話したこともないクラスメイトの礼央が亮太を嫌っているという話だった。 けど、話してみると違和感がある。 これは、嫌っているっていうより……。 どうやら、れおくんは、俺のことが好きらしい。 ほのぼの青春BLです。 ◇◇◇◇◇ 全100話+あとがき ◇◇◇◇◇

夜が明けなければいいのに(洋風)

万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。 しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。 そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。 長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。 「名誉ある生贄」。 それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。 部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。 黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。 本当は、別れが怖くてたまらない。 けれど、その弱さを見せることができない。 「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」 心にもない言葉を吐き捨てる。 カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。 だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。 「……おめでとうございます、殿下」 恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。 その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。 ――おめでとうなんて、言わないでほしかった。 ――本当は、行きたくなんてないのに。 和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。 お楽しみいただければ幸いです。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

目立たないでと言われても

みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」 ****** 山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって…… 25話で本編完結+番外編4話

誰かの望んだ世界

日燈
BL
 【完結】魔界の学園で二年目の学園生活を送るイオは、人知れず鶯色の本をめくる。そうすれば、必要な情報を得ることができた。  学園には、世界を構成するエネルギーが結晶化したといわれる四つの結晶石≪クォーツ≫を浄める、重要な家系の生徒が集っている。――遥か昔、世界を破滅に導いたとされる家系も。  彼らと過ごす学園生活は賑やかで、当たり前のようにあったのに、じわじわと雲行が怪しくなっていく。  過去との邂逅。胸に秘めた想い――。  二度目の今日はひっそりと始まり、やがて三度目の今日が訪れる。  五千年ほど前、世界が滅びそうになった、その時に。彼らの魂に刻まれた遺志。――たった一つの願い。  終末を迎えた、この時に。あなたの望みは叶うだろうか…? ――――  登場人物が多い、ストーリー重視の物語。学校行事から魔物狩り、わちゃわちゃした日常から終末まで。笑いあり涙あり。世界は終末に向かうけど、安定の主人公です。  2024/11/29完結。お読みいただき、ありがとうございました!執筆中に浮かんだ小話を番外編として収めました。

天の求婚

紅林
BL
太平天帝国では5年ほど前から第一天子と第二天子によって帝位継承争いが勃発していた。 主人公、新田大貴子爵は第二天子派として広く活動していた亡き父の跡を継いで一年前に子爵家を継いだ。しかし、フィラデルフィア合衆国との講和条約を取り付けた第一天子の功績が認められ次期帝位継承者は第一天子となり、派閥争いに負けた第二天子派は継承順位を下げられ、それに付き従った者の中には爵位剥奪のうえ、帝都江流波から追放された華族もいた そして大貴もその例に漏れず、邸宅にて謹慎を申し付けられ現在は華族用の豪華な護送車で大天族の居城へと向かっていた 即位したての政権が安定していない君主と没落寸前の血筋だけは立派な純血華族の複雑な結婚事情を描いた物語

【完結】恋愛初学者の僕、完璧すぎる幼馴染に「恋」を学ぶ

鳥羽ミワ
BL
志村春希は高校二年生で、同い年の幼馴染・須藤涼太のことが大好き。その仲良しぶりといったら、お互い「リョウちゃん」「ハルくん」と呼び合うほどだ。 勉強が好きな春希には、どうしてもひとつだけ、全く理解できないことがあった。それは、恋心。学年一位の天才でもある涼太にそのもどかしさを愚痴ったら、「恋」を教えようかと提案される。 仮初の恋人になる二人だけど、春希が恋を知ったら、幼馴染の友達同士のままではいられない。慌てる春希に「パラダイムシフトを起こそうよ」と提案する涼太。手を重ねて、耳元で囁く涼太。水族館デートに誘う涼太。あまあまに迫られて、恋愛初学者の春希が陥落しないはずもなく……。 恋を知ったら友達でいられない。でもこの思いは止められない。 葛藤する春希の隣で涼太だけが、この関係は両片思いだと知っていた。 幼馴染の溺愛恋愛ケーススタディ、開幕! 最後はもちろんハッピーエンド! ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうへ投稿しています

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

処理中です...