灰かぶり君

渡里あずま

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指輪狂想曲2

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「「「よろしくお願いしまーす」」」
「……ヨロシク」

 若干、棒気味にだが一応、仕事なんで挨拶を返す。途端に色めき立つ女達に内心、ため息をつきながらおれは全員、乗ったことを確認しハンドルを握った。
 ……内藤に紹介されたのは、キャバ嬢達を自宅に送るドライバーだった。
 高校を卒業する時に免許は取り、車も買ってあった。車は持ち込みなので車内が香水臭くなるのはともかく、学業第一(卒業後、会社を継ぐ為に)の身としては深夜に働けるのはありがたい。

(出灰には、バイクで会いに行けば良いし……毎日は働けねぇが、時給もまずまずだしな)

 出灰の性格を考えると、いくつも指輪を送っても恐縮してしまいそうだ。それなら一つをこだわって、素直につけて貰える方が嬉しいと思う。

(驚いて、固まるかな……あー、ギュッてしてぇ)

 指輪を渡した時の出灰を妄想し、後部座席からかけられる女どもの声を適当に流しつつ、おれは車を走らせた。



 俺がバイトを始めたのと同じ頃、出灰もバイトを始めた。
 あいつが始めたのは、元Fクラスの面々が働いている建築会社へのまかないで。Fクラスの連中だけじゃなく、社長や他の社員達の評判も上々で、おれとしても嬉しい限りだったが。

(なかなか会えなくなるのは、誤算だったな)

 そもそも白月は土日祝しか外出が出来なくて。生徒会役員な出灰は基本忙しいが、そこに隔週とは言え土曜日に仕事が入ると、次の日の日曜日は休ませてやりたいと思い――結果、月に二回会えれば良いくらいのペースになった。

(まあ、あいつもやりたいことが出来たしな)

 まかないのバイトを始めてしばらくした頃、出灰から調理師免許を取って弁当屋になりたいと言われた。
 大学と違って筆記試験がある訳じゃないらしいが、現在の成績で判断されるらしいんで、遊んでばかりもいられない。

(……ってのは、言い訳だな)

 送迎の待機中、そこまで考えておれは自嘲した。
 抱きしめたいとは思っていたし、会った時にそこそこスキンシップはしているが。
 ……出灰の誕生日を逃し、おれと出灰がそれぞれバイトを始めてから三ヶ月。
 七月現在、おれ達はまだキスもそれ以上もしていない。
 最初は、どうせなら指輪を渡す時にと思ってたが、こうして会えなくなってみると、会えた時に変にがっつくと『体だけ』と思われそうで、手が出せなくなっている。

(今時、中学生でもこんなピュアじゃねぇぞ……まあ、あいつはつき合うの自体初めてらしいから、これくらいでいいのか?)

 おれとしても、こういうつき合い方は初めてなんで正解かどうか解らない。
 ただ(あいつに限ってないとは思うが)怖がられたり、嫌われたりはしたくない。
 ……おれらしくない弱音は数日後、当の出灰によって粉々に打ち砕かれることになる。



 対応には迷うが、出灰には会いたい。とは言え、下手に二人っきりになったら、柄にもなく押し倒してしまうかもしれない。
 そんな訳でおれは飯を食った後、いつものように埠頭に来ていた。人気はないが、外ではあるんで何とか自制出来るって言う寸法だ。
 だが、しかし。

「……っ!?」

 一緒に海を見ていたら、いきなり隣にいた出灰からシャツの裾を掴まれた。
 驚き、見返したおれにしばしの沈黙の後、出灰が口を開く。

「駄目でしたか? 直接だと暑いし、手汗も気になるかと思ったんですが」
「いや、そうじゃなくて」
「……駄目、でしたか」
「違っ!」

 そう言って離れようとした出灰の右手を、おれは慌てて掴んだ。
 両手で包み込むようにしたおれの手と、おれの顔を交互に見返して、出灰が口を開く。

「……やっぱり、刃金さんだと自然ですよね」
「えっ?」
「俺、こういうスキンシップって、刃金さんに任せてましたけど……考えてみれば、刃金さんだけに任せるものじゃないですし。されて嬉しかったんで、少しでもお返し出来ればと思ったんです。あ、ぎこちないのは経験値不足なんで目をつぶって下さい」

 だから、駄目じゃないんなら良かったです。
 そう言うと、出灰はもう一度掴んだままのおれの手を見た。そして少し考えた後、おもむろにおれの手を自分の手ごと胸元へ、大切そうに引き寄せた。

「……っ!」

 可愛さに、胸を打たれもしたが――同時に距離を取っていたことで、出灰に色々と考えさせていたんだと痛感した。

「……悪い」
「刃金さん?」
「いや! 嫌とか心変わりとか、浮気じゃなく! ただ……隠し事はしてた」

 喜ばせようと思ってやったことで、逆に出灰を不安にさせるなんて冗談じゃない。
 だから、おれは(プレゼントの内容は控えたが)来年の誕生日へのプレゼントを考えていたこと、そしてそれまでは出灰に手を出さないようにしようと思っていたことを正直に打ち明けた。
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