灰かぶり君

渡里あずま

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指輪狂想曲1

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刃金×出灰。本編完結後の話ですので、未読の方はご注意下さい。



 初めてデートをした埠頭に今日、おれは出灰を連れてきた。最初から予定に入っていたんで、今日の出灰は準備させていたマフラーに手袋、帽子でモコモコしていて可愛らしい。
 そしておれは出灰に、小さな箱を差し出した。

「ありがとうございます……開けて良いですか?」

 律義な問いかけに頷くと、出灰は手袋を外してリボンと包み紙をそっとはがし蓋を開けた。
 それから、中身を――シンプルなプラチナの指輪を見て、いつも通りに固まって無言になった。
 出灰は基本、あまり喜怒哀楽を見せない。だが驚くとこういうリアクションになるのである意味、解りやすい。

(……ついに、ここまで来た)

 そんな反応を嬉しく思いながら、おれは内心で拳を握り、ここまで――出灰の十八歳の誕生日までの、長い道のりを思い返していた。



 出灰は基本、自分のことをあれこれ言わない。だが一方で、こちらから聞けばある程度は答えてくれる。

「誕生日ですか? 二月十七日です」

 そんな訳で、おれは早々に出灰の誕生日を聞き出していた。
 聞いた当初は、単純に誕生日を祝おうと思っていたし実際、卒業前には一緒に飯やケーキを食った。あいにく、関東圏では珍しい雪が降ってしまったんで、それ以上は出来なかったが――今では、それもありだったと思う。

(キスも指輪も、男としては一大イベントだからな)

 そんな訳でおれは来年二月、十八歳になった出灰に指輪を送ろうと思った。
 指のサイズは把握済だ。そして、買いたい指輪も見つけたんだが――問題は、おれ達二人の指輪を買う費用である。

「親からの金じゃなく、自分で稼いだ金でってかぁ……健気だね、キング!」
「……内藤。名前で呼べって、言ってるだろうが」

 にこにこ、にこにこ。
 大学での授業の後、ファーストフード店に呼び出した内藤の言葉に、おれは何度目か解らない制止をかけた。
 高校の時ならともかく、一般社会で呼ばれるのには抵抗がある。

「それなら、前みたいにバイト紹介するよ! キングだったら、またすぐ稼げるって……」
「……気持ちはありがたいんだが。前のバイトは、やめておく」

 ため息混じりに答えたのは、内藤がキング呼びをやめないからではなく、バイトの紹介先についてだ。
 前にバイクを買う時に頼み、確かに稼げるのは解るのだが。

「つき合っている相手がいるのに、ホストクラブで働く訳ないだろうが」
「えー? クイーンって、その辺気にしなさそうじゃない?」
「『おれ』が気にするんだ」

 そう、出灰なら仕事は仕事と割り切るだろうが――おれは、本命がいるのに女を相手になんてしたくない。まあ、元々前のバイトの時も惚れさせて貢がせる一方だったが。
 ちなみに、内藤の家は芸能プロダクションをやっているが、同時にホストクラブやキャバクラを経営している。何でも父親が、かつてのカリスマホストなんだそうだ。

「本当、本気なんだねぇキング」
「……悪いか」
「いーや? むしろ、クイーンには感謝してる」

 強いだけじゃなく、キングは優しくて面白くなったからね。
 そう言うと、青いままの頭を傾げてにっこりと内藤は笑った。

「元々、あった資質だとは思うけど。クイーンと会って、表面化したって言うか……ねぇ? ホストが駄目ならモデルとかやらない? 俺、マネージャーやるから」
「却下」
「わーっ、解った! 見た目で売るのはやめるからっ」

 稼げそうだが、気の乗らない話ばかり紹介されるのに、おれはため息をついて席を立とうとした。
 と、おれの本気を悟ったのか内藤が慌てて止めてくる。

「……じゃあ、こう言うのはどう?」

 そして、座り直したおれに内藤が提案してきたのは――派手に一気には稼げないが、ようやく首を縦に振れる仕事だった。
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