令嬢の復讐代行者

渡里あずま

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絶望

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 夜の闇。深い森の中を、ジャンヌは走って──追われていた。知らない、けれどジャンヌを迎えに来てくれた祖父母を、斬り殺した男達から必死で逃げていた。

(何故、どうして……っ)

 馬車を襲った強面の男達のことを最初、ジャンヌ達は盗賊だと思ったが──装飾品などを奪う前に、祖父母は殺された。そして今、ドレスこそ着ているが特に装飾品など身に着けてないジャンヌを、執拗に追ってきている。これではまるで、金品ではなく自分達を殺すことが目的のようだ。
 ……そして、何故と思うのはもう一つある。

(何故、私は逃げているのかしら?)

 確かに、祖父母のように斬り殺されることは怖いと思う。
 けれど、今の自分には生きることも辛い。
 唯一、自分の味方だった母は死んだ。そして、婚約を破棄されて──成人前の十四歳で、新しい婚約者である異母妹のいる屋敷にいるしかない自分に絶望した。そんなジャンヌを、母方の祖父母が迎えに来てくれたがその祖父母も殺されてしまった。
 それなのに何故、こうして自分は逃げて、生きようとしているのだろうか?

“逃げるんだ、ジャンヌ!”
“あなたは、あなただけは……っ”

 そこで思い出したのは、自分を庇って逃がそうと、前に出て男達に立ち塞がった祖父母のことだった。
 先程、亡き母のことを『唯一』と称したが、今日初めて会ったばかりの祖父母も、自分を大切に思ってくれていた。

「ごめんなさい、お爺様。お婆様……っ」

 ……そんな祖父母も殺されてしまったが、それでも、最期の言葉だからこそ泣きながらもジャンヌは走っていた。しかし、その足が不意に止まる。

「っ!」
「へへ、もう逃げられないぜ」

 森が途切れた先にあったのは、足元のはるか下に川の流れる谷だった。
 逃げられなくなり立ち尽くすジャンヌは、追いついたらしい男達の声にハッとして振り向いた。三人の男達。そのうちの一人が、ふと訝し気に眉を顰めた。

「ん? お前の髪……?」

 髪が何だと言うのか。母と同じ栗色の髪は、貴族らしくないとよく言われたが、こんなならず者達にまで馬鹿にされるのか。
 腹が立って咄嗟に睨みつけたが、そんなジャンヌに怯むことなく祖父母の血に汚れた手が、無遠慮に自分の髪へと伸びてくる。

「ヒッ……!」

 その恐怖に悲鳴を上げ、たまらず気絶したジャンヌだったが──意識を手放す瞬間、逞しい腕にジャンヌは抱き留められたと感じた。そして、優しい男性の声が聞こえた。

『よく頑張ったな……大丈夫だ。あとは俺に任せろ』
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