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密接
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その後、クロエとオーベルは馬車でリブレ国へと向かった。何でも、カルバ自身は外交官としてエスカーダを離れないが、エスカーダ国で入手した生地や宝石、絵画などを、定期的に国に送っているらしい。
「代わりに、リブレ国からも高価な品を届けますから……だから、御者がローラン伯の馬車だと示せばそれで済みます。荷台に俺達が乗っていても、気にされることはありません」
「成程な」
以上、数台の馬車のうちの一台で、高価な品々に囲まれてのクロエとオーベルの会話である。
ちなみにクロエはリブレ国、その王都に着くのに十日近くかかるとのことで、カルバに頼んでエスカーダの男物の服であるシャツとズボンを用意して貰った。変装と言うよりは、動きやすいからだ。長い髪も高く結い上げ、束ねている。
「流石に、女の髪を切る訳にはいかないからな」
「リブレ国だけじゃなく、エスカーダ国でも未婚の女性は髪を下ろして、その美しさを競いますからね。ジャンヌ嬢の髪は、令嬢だと言うのに満足に手入れされていなかったようですから……リブレ国に着いたら、俺が磨き上げますね」
「えっ? お前がか?」
カルバの執事だとは聞いていたが、今のクロエは女性である。だから護衛は頼むとしても、身の回りのことは別に女性がつくと思っていたのだが。
「ええ、俺がです……トオルさんのことですから、いずれは認められると思うんですが……あの人たらしのせいで、最初のうちは毒を盛られたり、暗殺者を放たれたりすると思うんですよね」
「人たらしって……義父上のことか?」
呼び方については、笑顔でカルバに「義父と呼ぶように」と言われた。別に反対する理由もないので頷いたが、オーべルが何だか微妙な顔をした。
「ええ。トオルさんが、もっと幼かったら良かったんでしょうが……リブレ国での貴族女性は、たとえ夫や婚約者がいても『憧れの君』としてアイツを想ってますし。男は、陛下のお気に入りであるアイツに逆恨みしてますから、嫌がらせでトオルさんのことを狙いますよ」
「げ」
美丈夫だと思ったが、それだけではなくあの言動や笑みなどで男女構わず、それこそオーべルの言う通りたらしているらしい。成程、本当の子供ならともかく養女なら、さぞ気に入らないことだろう。
「お前は護衛でもあるんなら、銃や他の武器も持ち歩けるんだよな? なら、助かるか……いや、待て? 着替えや身の回りはともかく、風呂は無理だろう? ああ、浴室の前で待っていてくれるのか?」
「それだと、もしもの時に庇えないでしょう? 約束したから、手は出しませんよ」
「……お前、すごいな」
この世界の成人は、十八歳だという。
十七歳であるオーベルは、かろうじて未成年だが──それでも、ほぼ成人男性だ。そしていくら十代前半とは言え、凹凸の出てきたこの体に対してそう言えるとは。
「あなただって、自分の体には欲情しないでしょう?」
「まあ、それは……って、この体はお前のじゃないぞ?」
「今はね」
「この体は、ジャンヌのものだ」
そう言って流し目を向けてくるオーベルに、両腕で自分の体を抱き締めるように隠し、歯を剥いて威嚇したクロエだったが──リブレ国に到着し、オーべルに言われた通りに命を狙われたら文句など言えなかった。それこそ、彼がいてくれないと一瞬たりとも気が抜けないのだ。
……それでもカルバの指示通りに学び、体を鍛え、社交界や茶会に参加するようになっていくうちに、命を狙われることは少なくなっていったが。
その頃にはオーべルに裸を見られることも、化粧や着付けをされることも全く抵抗がなくなったのである。
「代わりに、リブレ国からも高価な品を届けますから……だから、御者がローラン伯の馬車だと示せばそれで済みます。荷台に俺達が乗っていても、気にされることはありません」
「成程な」
以上、数台の馬車のうちの一台で、高価な品々に囲まれてのクロエとオーベルの会話である。
ちなみにクロエはリブレ国、その王都に着くのに十日近くかかるとのことで、カルバに頼んでエスカーダの男物の服であるシャツとズボンを用意して貰った。変装と言うよりは、動きやすいからだ。長い髪も高く結い上げ、束ねている。
「流石に、女の髪を切る訳にはいかないからな」
「リブレ国だけじゃなく、エスカーダ国でも未婚の女性は髪を下ろして、その美しさを競いますからね。ジャンヌ嬢の髪は、令嬢だと言うのに満足に手入れされていなかったようですから……リブレ国に着いたら、俺が磨き上げますね」
「えっ? お前がか?」
カルバの執事だとは聞いていたが、今のクロエは女性である。だから護衛は頼むとしても、身の回りのことは別に女性がつくと思っていたのだが。
「ええ、俺がです……トオルさんのことですから、いずれは認められると思うんですが……あの人たらしのせいで、最初のうちは毒を盛られたり、暗殺者を放たれたりすると思うんですよね」
「人たらしって……義父上のことか?」
呼び方については、笑顔でカルバに「義父と呼ぶように」と言われた。別に反対する理由もないので頷いたが、オーべルが何だか微妙な顔をした。
「ええ。トオルさんが、もっと幼かったら良かったんでしょうが……リブレ国での貴族女性は、たとえ夫や婚約者がいても『憧れの君』としてアイツを想ってますし。男は、陛下のお気に入りであるアイツに逆恨みしてますから、嫌がらせでトオルさんのことを狙いますよ」
「げ」
美丈夫だと思ったが、それだけではなくあの言動や笑みなどで男女構わず、それこそオーべルの言う通りたらしているらしい。成程、本当の子供ならともかく養女なら、さぞ気に入らないことだろう。
「お前は護衛でもあるんなら、銃や他の武器も持ち歩けるんだよな? なら、助かるか……いや、待て? 着替えや身の回りはともかく、風呂は無理だろう? ああ、浴室の前で待っていてくれるのか?」
「それだと、もしもの時に庇えないでしょう? 約束したから、手は出しませんよ」
「……お前、すごいな」
この世界の成人は、十八歳だという。
十七歳であるオーベルは、かろうじて未成年だが──それでも、ほぼ成人男性だ。そしていくら十代前半とは言え、凹凸の出てきたこの体に対してそう言えるとは。
「あなただって、自分の体には欲情しないでしょう?」
「まあ、それは……って、この体はお前のじゃないぞ?」
「今はね」
「この体は、ジャンヌのものだ」
そう言って流し目を向けてくるオーベルに、両腕で自分の体を抱き締めるように隠し、歯を剥いて威嚇したクロエだったが──リブレ国に到着し、オーべルに言われた通りに命を狙われたら文句など言えなかった。それこそ、彼がいてくれないと一瞬たりとも気が抜けないのだ。
……それでもカルバの指示通りに学び、体を鍛え、社交界や茶会に参加するようになっていくうちに、命を狙われることは少なくなっていったが。
その頃にはオーべルに裸を見られることも、化粧や着付けをされることも全く抵抗がなくなったのである。
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