令嬢の復讐代行者

渡里あずま

文字の大きさ
10 / 30

謀略

 三年学んで、イリヤは『リブレ国大使の養女』としてエスカーダへ戻った。そして数日後、新学期が始まると共に卒業までの一年を王立学園で過ごすことになる。
 王立学園には寮もあるが入るのは下級貴族や、イリヤと違って王都に別宅のない留学生。そして、最近は数が増えたという平民である。

「『真実の愛』に憧れた者達らしいですね」
「……くだらないな」
「ただ、母親は首席だったらしいですが……ラウラ嬢は、十位前後らしいですね?」

 風呂から上がったイリヤの銀髪を、オーべルがしっかり拭いて整える。かつて、オーべルが磨き上げると言っていたイリヤの髪は、言葉通り絹糸のような見栄えや手触りになっていた。
 髪だけではない。肌も、鍛えたせいもあって育った胸や引き締まり、くびれのある腰も。あとマッサージ効果か、化粧をしなくても目尻が上がり、顔も凛とした美人風になっていた。これなら髪の色のおかげもあるが、誰もイリヤとジャンヌが同一人物だとは思わないだろう。
 ……そこまで考えて、オーべルにされるがままになりながらイリヤは答えた。
 ちなみに、オーベルの情報はカルバ経由で入手したもので、イリヤも知ってはいる。

「ああ。あれは、母親とは事情が違うのと……計算だろう?」
「計算ですか」
「母親は奨学生だったから、三位以内に入らないと退学だったが……ラウラは、公爵家の娘だからそんなことはない。あと、おそらくだが王太子は可愛いタイプが好きみたいだったから……好みに、合わせたんじゃないかな」

 昔はジャンヌも今のイリヤとは違って可愛かったが、とにかく手をかけられていなかったので地味だしみすぼらしかった。だからこそより可愛らしく、それでいて勉強もそれなりに出来るラウラに心変わりしたのだと思う。

「だった……過去形、ですか?」

 そこでイリヤの言葉に引っかかったのか、オーペルが髪を拭くのをやめて問いかけてくる。
 それに鏡越しに目をやり、リブレ国風の白い襦袢姿のイリヤは肩を竦めた。

「ガキならともかく、男なら可愛い以外にも目がいくだろう? アイツ、この前会った時にこの胸見てたしな」
「……ああ」

 イリヤの言葉に、オーベルも思い出したのか声が低くなる。ジャンヌの体と考えると申し訳ないが、前世アラサー男性だった身としては理解出来てしまうので苦笑しか出ない。

「一応、俺以外にも『駒』は用意しているが……俺にハマってくれるのが、一番なんだよな」
「多分、うまくいくと思いますよ? アイツの父親も、王妃がいるくせに俺の母親に手出しましたし」
「そうだったな」

 リブレ国で、オーベルの母の絵姿を見たことがあるが──確かに、エスカーダ王妃とは系統が違う美女だった。だからこそ、お忍びで城下街に行った国王に目をつけられて通われ、子供が出来たとは言え他国民の娼婦が王宮に招かれたのだから。

「まあ、俺か『駒』かはともかく、食いついてきたらせいぜい振り回してやるさ」
「匙加減を間違えて、手を出されないで下さいよ?」
「当然だ。ジャンヌの体を、アイツに必要以上に触れさせてたまるか」
「それなら安心です」

 そう言って肩を竦めるイリヤに、オーベルは濡れた髪を拭くのを再開した。

あなたにおすすめの小説

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪

鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。 「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」 だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。 濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが… 「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」

【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。 しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。 自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。 夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか? 迷いながらもユートリーは動き出す。 サスペンス要素ありの作品です。 設定は緩いです。 6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

婚約破棄されましたが、私はもう必要ありませんので

ふわふわ
恋愛
「婚約破棄? ……そうですか。では、私の役目は終わりですね」 王太子ロイド・ヴァルシュタインの婚約者として、 国と王宮を“滞りなく回す存在”であり続けてきた令嬢 マルグリット・フォン・ルーヴェン。 感情を表に出さず、 功績を誇らず、 ただ淡々と、最善だけを積み重ねてきた彼女に突きつけられたのは―― 偽りの奇跡を振りかざす“聖女”による、突然の婚約破棄だった。 だが、マルグリットは嘆かない。 怒りもしない。 復讐すら、望まない。 彼女が選んだのは、 すべてを「仕組み」と「基準」に引き渡し、静かに前線から降りること。 彼女がいなくなっても、領地は回る。 判断は滞らず、人々は困らない。 それこそが、彼女が築いた“完成形”だった。 一方で、 彼女を切り捨てた王太子と偽聖女は、 「彼女がいない世界」で初めて、自分たちの無力さと向き合うことになる。 ――必要とされない価値。 ――前に出ない強さ。 ――名前を呼ばれない完成。 これは、 騒がず、縋らず、静かに去った令嬢が、 最後にすべてを置き去りにして手に入れる“自由”の物語。 ざまぁは静かに、 恋は後半に、 そして物語は、凛と終わる。 アルファポリス女子読者向け 「大人の婚約破棄ざまぁ恋愛」、ここに完結。

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。 ゲームにはほとんど出ないモブ。 でもモブだから、純粋に楽しめる。 リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。 ———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?! 全三話。 「小説家になろう」にも投稿しています。

婿入り条件はちゃんと確認してください。

もふっとしたクリームパン
恋愛
<あらすじ>ある高位貴族の婚約関係に問題が起きた。両家の話し合いの場で、貴族令嬢は選択を迫ることになり、貴族令息は愛と未来を天秤に懸けられ悩む。答えは出ないまま、時間だけが過ぎていく……そんな話です。*令嬢視点で始まります。*すっきりざまぁではないです。ざまぁになるかは相手の選択次第なのでそこまで話はいきません。その手前で終わります。*突発的に思いついたのを書いたので設定はふんわりです。*カクヨム様にも投稿しています。*本編二話+登場人物紹介+おまけ、で完結。

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。