令嬢の復讐代行者

渡里あずま

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逢着

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 商人は、一品でも商品を扱えば商人だ。

「このハウハは、エスカーダ王太子妃ラウラ様が認めたもの! 今は乾燥させての販売となりますが、取り扱ってくれるならジャムなどにもしてお売りします!」

 だから二年半くらい前、異国からの品や商人を見るのに、オーベルと訪れた港で知り合ったレーヴは、あの段階で立派な商人だったとクロエは思う。



 今でこそ『ノアイユ商会』の商会長であるレーヴだが、初めて会った時はウナム国の子爵令嬢だった。
 ウナム国は、前世のイメージだと中東のような国だ。一年の夏季休暇でユージンとラウラ、そして彼らの友人達は一年生の時からエスカーダ国に留学している、第三王子の招きでウナム国を訪れた。ラウラ以外は男ばかりだったらしいが、ユージンの婚約者だということで特に問題にはならなかったらしい。

(こういうヌルいところがあるから、ゲームとか物語の世界じゃないかって思うんだよな)

 普通に考えて婚前旅行であり、複数の男性を侍らせるラウラは悪く言われると思う。しかしそうはならず、彼らは観光を満喫し、エスカーダへと帰る途中、休憩する為に寄ったレーヴの領地で出された果物──ハウハを、とても気に入った。
 そこまでは良かった。しかし彼らは、そのハウハをエスカーダ国で売ると言い出したのだ。

「これだけ美味しいなら、有名店がこぞって買いたがるわ!」
「それは良いな!」
「流石、ラウラ嬢だ! 荷馬車は、俺が用意しようっ」
「……あのっ、ハウハは柔らかいので! このまま運ぶのは、大変かとっ」

 盛り上がるラウラ達に、慌ててレーヴは言ったそうだ。件のハウハは確かに美味しいが、柔らかいし傷つきやすい。だからこそ、いくら美味しくてもこの辺りでしか食べられないのだと。
 しかし、そんなレーヴにラウラ達は、更には彼女の父までが冷ややかな目を向けた。

「七日もかからないのだから、大丈夫でしょう?」
「我らをそこまで愚かだと?」
「めでたい話に水を差すとは」
「愚かな娘で、申し訳ありません!」
「……誠に、申し訳ございませんでした」

 一同に責められ、レーヴは謝った。後継ぎの兄も、すでに伯爵家子息と婚姻している姉もいるので、父がレーヴに求めるのは目立たず大人しくし、同じ下級貴族に嫁ぐことだった。今回のように、思ったことを口にするとすぐ叱られ、こうして謝るよう言われてばかりいるのだが。
 ……案の定、数日後に第三王子経由で「ハウハが駄目になったので、この前の話はなかったことに」と連絡がきた。

(だから、言ったのに……でも)

 謝らせられたことはともかく、荷馬車にいっぱい載せたハウハを無駄にされたことに対して、悔しい気持ちは勿論ある。
 しかしそれよりも、大国の高貴な面々が気に入ったということにレーヴは引っかかった。そして、そのままではなく加工をすれば持ち出せるし、他国に売ることも出来るのではないかと思った。
 それ故、レーヴは父の反対を押し切り、ハウハを乾燥させると数日かけて単身、エスカーダではなくリブレ国の、商人が集う港へとやってきた。

「このハウハは、エスカーダ王太子妃ラウラ様が認めたもの! 今は乾燥させての販売となりますが、取り扱ってくれるならジャムなどにもしてお売りします!」

 呼びかけにラウラを持ち出したのは、別に彼女を敬っている訳ではない。逆に、せっかくのハウハを駄目にされたのでこれくらい役に立って欲しいと思ってさえいた。
 ウナム国の衣装に身を包み、試供品なのか手にした袋から乾燥した果物を持ち上げ、呼びかけをするレーヴに凛とした、美しい声がかけられた。

「そちらを、食べてみたいのだけれど……おいくら、かしら?」

 オーベルをつき従えたクロエは、レーヴにそう声をかけて近づいた。
 噂の的であるローラン伯の養女の登場に、遠巻きに見られていた商人達がざわつくが、クロエの登場にいっぱいいっぱいになったレーヴは後に「それどころではなかった」と語った。

「えっ!? あ、あの、これはお試しですので、料金などいただけません!」
「まあ、駄目よ? そうね……銀貨三枚で、どうかしら?」
「それじゃあ、ハウハ一個分です!」
「あら、でも乾燥させるのに、手間暇かかっているでしょう? それで、いただいていいかしら?」
「は、はい!」

 最初、自分が持っていたものを渡そうとしたが、すぐにハッと我に返って手にした袋を差し出したてきた。
 それに微笑み、袋から乾燥させた果物──レーヴの言う『ハウハ』を口にして、クロエは軽く目を瞠った。

(うまっ……これ、桃か?)

 この世界には高価だが砂糖はあるし、お菓子もある。しかし砂糖を使っていないようだが、この黄色い実のハウハは十分甘くて美味しかった。

(……それに、この衣装も)

 ゆるやかなシルエットに、華やかな刺繍。リブレやエスカーダの社交界では難しいだろうが、逆に令嬢や夫人の私的なお茶会やお泊り会などでは流行りそうだ。

(あと、この娘自身も……)

 夜の化身のような美貌と、メリハリのある豊かな肢体──仮に自分がユージンの好みに合わなかった場合、この娘が一緒にいればどうだろう?

「ジャムも良いけど、シロップ漬けなんてどう? あと、もっとこれを食べたいわ……話をしたいから、我が家に来てくれるかしら?」
「はい、ミューズ!」
「みゅ……?」
「気持ちは解るが……クロエ様に、妙な言葉を吹き込むな」

『ミューズ』とはウナム国で『女神』を意味し、他にも刺激や閃きを与える存在という意味もある。
 クロエの誘いに、意気揚々とレーヴは答え──クロエからは見えないが、背後からオーベルがレーヴを睨みつけている気がした。
 もっとも、レーヴはまるで堪えていないようだけれど。
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