令嬢の復讐代行者

渡里あずま

文字の大きさ
13 / 30

合縁

 レーヴを屋敷に招いたイリヤは、ハウハの商いについて話をした。レーヴの故郷で作られているらしいが今回、ハウハを加工して売ろうと決めた時、親は頼らず自分で農家に声をかけて仕入れ先を手に入れたそうだ。

「そうなの……」

 相づちを打ちながら、イリヤはふむ、と考えた。
 幸い、ハウハの買い取りや加工はカルバから定期的に、そして無駄に多い『おこづかい』で問題なく支援出来る内容だった。そしてイリヤは、レーヴに話を聞きながら気になったことを尋ねた。

「それなら、こうしてあなたに話を通せば良いのね? あなたのお父様や、お兄様ではなく」
「は、はい……少なくとも、売り上げが出るまでは」
「そう……あと、リブレ国で売って貰うとして。王太子妃お墨付きなら、エスカーダ国でも売りたい?」
「……いえ、先程のはとにかく目を引きたかっただけですので。リブレ国だけで、十分です」

 そこまで話を聞き、笑っているが気まずそうに目線を揺らしたり伏せたりレーヴを見て──イリヤはもう一度、ふむ、と考えた。それからチラ、とオーベルを見ると再びレーヴに目をやって言った。

「レーヴは、家族が好きか?」
「えっ……?」

 この部屋にはイリヤとオーベル、そしてレーヴしかいない。
 だから、素の言葉遣いで話すイリヤに驚くのはレーヴだけだった。けれど、その内容に少し考えてレーヴはイリヤに答えた。

「いえ。好きではありません……育てて貰ったことには、感謝していますが。食べ物を腐らせると解っていても止めず、逆に私を止めようとしたり。商いになるのではと言った私がリブレ国に行くと言ったら、少しは痛い目を見ろと一人で送り出されました。他の家族も同様です。まあ、下手に使用人がいてイリヤ様と縁が出来たことを知られたくないですが!」
「そうか」
「ええ。あ、この際、言いますが王太子妃も好きではないですよ? そりゃあ見た目は可愛いですが、仮にも婚約しているのに他の男も拒まず、侍らせて……本当に優しいなら、私が父や周りに責められていたら庇いません? 彼女の優しさは男性、しかも美形や権力者に媚びる為のものですっ」
「……ハハッ!」

 開き直り、随分とぶっちゃけた相手にたまらずイリヤは笑い声を上げた。女子供だからと押さえつけられて育ったらしいレーヴは、随分と面白いし賢い。黙って利用することも考えたが、腹を割って話した方が良い気がした。

「好きではないんなら……嫌いなら、いっそ家族と縁を切るか? その方が、余計な横槍を入れられずに済みそうだ。あと、実は俺は王太子妃達に復讐したいんだが……協力してくれるか?」
「勿論! 詳しい話を聞かせて下さい! あと、私と家族の絶縁を手伝ってくれるなら……私には、この身一つのみ。何でもしますから、どうか私をあなたの駒にして下さい!」
「……若い娘さんが、そんな軽々しく言うんじゃない。俺の話を、ちゃんと聞いてからにしないと駄目だぞ?」
「何て、お優しい……」
「……チッ。面倒そうなヤツが誑し込まれやがった」

 あまりにも無防備な発言に、イリヤはついつい年上と言うか親父目線で言ってしまった。
 そんなイリヤ、ではなく優しい言葉をかけられて目を輝かせるレーヴを見て、オーペルは舌打ちを隠さず言うのだった。



 その後、ジャンヌについてと前世について話しても、レーヴの態度は変わらなかった。
 そんなレーヴに、親や兄達家族と円満に縁を切る為にと、イリヤが提案したのは『リブレ国の商人の養女になる』ことだった。平民だが、下手な下級貴族より裕福だ。もっともその商人はカルバよりも年上で、レーヴと並ぶと祖父にしか見えないだろう。

「マトモな親や家族なら、養女って名目で愛人にするつもりかって止めるだろう。俺としてはエロジジィじゃなく紳士で、単に跡継ぎを探してるだけだから紹介したいんだが……どうする?」
「お受けします」

 イリヤの言葉にそう答えて、レーヴがにっこりと笑う。

「お気遣い、ありがとうございます。父達より、私の伝手をうまく使ってくれそうですし……逆に、諸手を挙げて賛成すると思いますから! 色々スッキリして、良いと思いますっ」
「ハッ……」

 すっかり吹っ切れ、家族を切り捨てているレーヴにイリヤも笑った。
 そしてレーヴの言った通り、あっさりとレーヴはカルバのお抱え商人であり、イリヤも世話になっている『ノアイユ商会』の商会長の養女となり──一年前、楽隠居希望の養父から地位を譲られ、商会長となったのである。ちなみに家を出る時、念の為にと前商会長が義娘の為、多額の手切れ金を渡しているので実家の家族は歯噛みしつつも近づいてはこない。

「やあ、イリヤ嬢! ……と、そちらは? 私はユージン・ド・エスカーダだ。この学園の生徒会長を務めている」

 職員室に行くと、まだ授業開始まで時間があった為か王太子であるユージンがいた。実際に行ったことはないが、ジャンヌの知識だと授業や始業式の前にホームルームのような時間があるらしい。その時、イリヤ達が紹介されるのだが、その前にラウラを連れずに会いにきたらしい。もっとも初対面ではないとは言え、いきなり名前呼びかとは思ったが。
 ちなみにユージンが気にかけたのはレーヴであり、イリヤ達が引きつれているオーベル達使用人ではない。あと昔、一度ウナム国で会っている筈だが実の家族に抑圧されていた時と、義父に磨かれて本人すら知らなかった魅力を花開かせたレーヴでは、そもそも同一人物だとは思えないかもしれない。

「レーヴ・ノアイユと申します、殿下。ウナム人でございます。リブレ国で学んでおりましたが、イリヤ様がエスカーダに来ると聞いて一緒に学びたいと思って留学してまいりました」
「そう……ノアイユ? もしかして、リブレ国のノアイユ商会の者か?」
「はい。商会長だった義父に引き取られました」
「ローラン伯もだが、リブレ国は心優しい者が多いな……ところで何故、我が国に出店しない?」
「申し訳ございません。新規事業が、やっと軌道に乗りまして……そういう意味でも、エスカーダ国にて色々と学ばせていただこうと思っております」

 レーヴの過去形での答えには気づかず、自分が聞きたいことを言ってくる。それに、申し訳なさそうに右頬に手を添えると、レーヴはしれっと言った。

(嘘ではないな。昔、思った通り『ハウハのシロップ漬け』だけじゃなく、ウナム風の衣装はリブレ国で令嬢や貴族夫人達のティーガウンとして好評だ)

 とは言え、平民のせいか内情に興味がなさそうだが──いや、しかし出店を希望しているのなら、商会長が代替わりしたことくらい知っておけとは思う。

「そうか! レーヴ嬢、私は先に教室に行くが色よい返事を期待している! イリヤ嬢も、またな!」

 もっとも、ユージンは自分の都合の良いように勘違いし声が弾んだので、イリヤもレーヴ同様に教えないことにした。そして、勝手にノアイユ商会の扱う品々が手に入ると思ったのか、意気揚々と戻るユージンにイリヤ達は教師達に気づかれないようにしつつも、白い目を向けるのだった。

あなたにおすすめの小説

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪

鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。 「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」 だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。 濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが… 「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」

【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。 しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。 自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。 夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか? 迷いながらもユートリーは動き出す。 サスペンス要素ありの作品です。 設定は緩いです。 6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

婚約破棄されましたが、私はもう必要ありませんので

ふわふわ
恋愛
「婚約破棄? ……そうですか。では、私の役目は終わりですね」 王太子ロイド・ヴァルシュタインの婚約者として、 国と王宮を“滞りなく回す存在”であり続けてきた令嬢 マルグリット・フォン・ルーヴェン。 感情を表に出さず、 功績を誇らず、 ただ淡々と、最善だけを積み重ねてきた彼女に突きつけられたのは―― 偽りの奇跡を振りかざす“聖女”による、突然の婚約破棄だった。 だが、マルグリットは嘆かない。 怒りもしない。 復讐すら、望まない。 彼女が選んだのは、 すべてを「仕組み」と「基準」に引き渡し、静かに前線から降りること。 彼女がいなくなっても、領地は回る。 判断は滞らず、人々は困らない。 それこそが、彼女が築いた“完成形”だった。 一方で、 彼女を切り捨てた王太子と偽聖女は、 「彼女がいない世界」で初めて、自分たちの無力さと向き合うことになる。 ――必要とされない価値。 ――前に出ない強さ。 ――名前を呼ばれない完成。 これは、 騒がず、縋らず、静かに去った令嬢が、 最後にすべてを置き去りにして手に入れる“自由”の物語。 ざまぁは静かに、 恋は後半に、 そして物語は、凛と終わる。 アルファポリス女子読者向け 「大人の婚約破棄ざまぁ恋愛」、ここに完結。

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。 ゲームにはほとんど出ないモブ。 でもモブだから、純粋に楽しめる。 リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。 ———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?! 全三話。 「小説家になろう」にも投稿しています。

婿入り条件はちゃんと確認してください。

もふっとしたクリームパン
恋愛
<あらすじ>ある高位貴族の婚約関係に問題が起きた。両家の話し合いの場で、貴族令嬢は選択を迫ることになり、貴族令息は愛と未来を天秤に懸けられ悩む。答えは出ないまま、時間だけが過ぎていく……そんな話です。*令嬢視点で始まります。*すっきりざまぁではないです。ざまぁになるかは相手の選択次第なのでそこまで話はいきません。その手前で終わります。*突発的に思いついたのを書いたので設定はふんわりです。*カクヨム様にも投稿しています。*本編二話+登場人物紹介+おまけ、で完結。

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。