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キャンピングカーで始める異世界スローライフ
第10話「自意識過剰」
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「恥ずかしいよ。助ける必要なんかなかったわけだ」
思わず自虐の言葉が漏れた。
「……」
ルミは「そんなことないですよ」とは言ってくれず、じっと俺の目を見つめていた。
「余計なことをしてしまったか」
この台詞が口から出た後に、言うべきじゃなかったとは思った。
彼女は、ここに死ににきたと言っていた。それが本当なら邪魔をした形になる。
だが、それでも、止めなきゃいけないんだと俺は思っている。すくなくとも目の前で死ぬのは辞めてほしい。
純粋じゃあないな――結局、俺は目覚めが悪くなるのが嫌なだけなのだろう。
「ハンゾーさんは、本当になにも知らずにこの場所に来られたのですね?」
「えっ、それはどういう意味なんだい?」
疲れで俺の頭が回らないことを抜きにしても、彼女の説明が足りていないのはハッキリしている。
「早くこの場を離れましょう」
いまさら急にどうしたのだろうか。
「なぜ?」
「この場所には普段、動物も魔物も寄り付きません、もちろん人間も……」
ルミはブルファングの亡骸に目を向けた。
「あの子が、ここに来たのはわたしのせいです」
ここまでくると自意識過剰では説明がつかない、なにか理由があるんだろう。
そう考え始めたときだった。
「ん? なんだっ?」
ガサガサとなにかが動く音が聞こえてきた。
「囲まれていますね……」
唸り声も聞こえてくる。
野犬か、狼か……鳥の鳴き声も聞こえる。
辺りを見回すと、木々の間を横切る、生き物の影が見えた。
「わたしはこの場所に残ります。ハンゾーさんは早く……きゃっ!」
「お嬢ちゃんの戯言に付き合っていられるかっ!」
彼女を抱きかかえ、エクラに乗った。
見た目よりは重い気がした。着やせするタイプなのだろうか。
そもそも俺が運動不足だけなのかもしれん。
「だめです! わたしといると困ったことになります!」
車から出せと、ルミは騒いだ。
自分の手でドアを開けようともしていたが、ロックが掛かっていて、開けかたがわからない様子だった。
ガチャガチャとドアの取っ手を鳴らしている。
仮に鍵を開けられたとしても、羽交い締めにして、車内に押し込むつもりだった。
「落ち着くんだ! 運転してこの場から離れるからっ! その後は好きにしてくれていい!」
出せ出さないの攻防は十分くらい続いただろうか。外の様子が少し変わっていた。
「うん? いなくなっていないか?」
「え……そんな、どうして……」
ルミが倒したブルファングの仲間が数頭。他にも黒くてデカい野犬(狼かもしれん)、熊、元いた世界では見かけたことのない魔物、などなど。
たくさんの生き物が、円陣を組むようにエクラを取り囲み、ジリジリと近づいて来ていた。
だからこそ、運転して立ち去りたかったのだが、それらの姿が無くなっている。
遠くを見ると、動物たちがトボトボ歩いているのが見えた。
来た道を戻っていくようだった。
「ほっ……諦めたか……助かったな」
俺の安堵を横目に、ルミは言った。
「こんなこと初めてです……」
備え付けのテーブルには、同じく備え付けのソファーが添えられている。
組み替えれば簡易のベッドにも変わるやつだ。俺はそこに腰かけながら言った。
「どういうことだ?」
「ハンゾーさんは、わたしのこと好きになっていませんか?」
「自意識過剰っ!!」
ケツがソファーに触れる前に、俺は立ち上がった。
「おい! バカみたいな美人で若いからってなんでも思いどおりになると思ってないか⁉」
堰を切ったように文句が溢れ出た。
美人に恨みがあるわけじゃあないが、皆がこんなんだったらどうしようという焦りが交じる。
「にげろっ! と言っているのに逃げないし! 軽々しく死のうとかしてんじゃない!!」
ルミはビックリした表情でコチラをみている。
当然だ、怒っているんだから。驚かせることが目的だと思ってくれてもいい。
「座ってもよいですか?」
「どうぞっ! 茶でも入れてやるっ!」
対面のソファーにルミは腰を下ろした。
俺は茶を入れるために、キッチンスペースに向かった。といっても一歩二歩移動しただけだが。
「わたしは皆を惹きつけるのです」
もうツッコんでやらん。そろそろ美人はこんなんばっかりだと、大きなレッテルを貼ろうと思う。
「魔王ヴェルファイアの呪いだと聞いています。その呪いによって……わたしは人や魔物を強く惹きつけるそうです……」
「魔王きたぁ! いよいよ異世界だなっ!!」
「異……世界?」
ルミは、またしても小首を傾げた。
そんなことよりも、魔王とか呪いの話を聞かせてほしい。
「魔王ってなんだい!? 呪いの詳細は!?」
興奮気味に、茶の入ったマグカップを差し出した。彼女は「ありがとうございます」と受け取った。
「わたしの祖先に、魔王を打ち倒した勇者がいるのです」
ゆ、ゆ、ゆ、勇者だって。そりゃ、そうですよね、魔王とセットですものね。
俄然に興味が沸いてきた俺は、それで、それでと、彼女を急かした。
「呪いは一族を苦しめてきましたが。直系の長男長女に最も強く作用するのです」
「ほうほう! つまりキミは長女なのかい? 俺も長男だから、その苦労は分かるよ」
彼女はまた「ありがとうございます」と微笑んで、続けた。
「ですから、わたしを狙い魔物の襲撃が多発します……そして、周りの方々もわたしを好きになってしまうので、わたしを守るために多くの犠牲を……」
ルミは俯き、肩が震え、一滴の涙がこぼれた。
話がおもーーーーーーーーいっ!
俺は途端に後悔した。
自意識過剰だとか、美人だから我が物顔するんじゃねーぞ、とか。失礼なことを言い過ぎた。
苦労がわかるだって?
俺の苦労なんて、妹にアイス喰われたとか、お兄ちゃんだから我慢しなさいと言われた、くらいでしかないじゃないか。
この娘は苦しんでいたんだ。自分のために人が死ぬことに……。
「ですが、ハンゾーさんは違いますっ!」
彼女は涙を隠そうともせず、俺を見上げた。
「わたしに平気で怒ってきますし! 罵倒してくる! 呪い関係なく心配してくださってる気がしてっ!」
心がいてぇ! 罵倒まではしてなくない?
それにたぶん、そんなんではない。俺は俺のために、見殺しにしたくなかっただけだ。
キミのために、命を懸けた人たちに顔向けなんてできるもんじゃあない。
そのことを説明したいが、上手く言葉が出ない。
「それに不思議です……この……建物? に入った瞬間に、あの子達はわたしに興味を無くしました……こんなの初めてです」
なるほど……そういう文脈での言葉だったのか。
うーん、たぶん、その理由ってアレだよなー……アレしかないんじゃないだろうか。
「別に話しちゃってかまわないよな……」
「えっ……なんです?」
俺の独り言にルミが反応した。
だとしたら、もう言っちまうしかないだろう。
「よくわからないが……俺が転生者であることは関係あるかい?」
厳密には俺ではなくエクラであり、転生車なのだが。
「転生者!?」
彼女は分かりやすいほどに目を輝かせた。
「いきなり転生者って言ってもわからないよな……」
「いえ! わかりますっ! ハンゾーさんは転生者だったのですね!」
思いのほか、大きいリアクションに俺のほうが驚いた。
それから彼女は転生者について、教えてくれた。
過去に何人もの転生者がいたこと。いまも噂にはこと欠かないこと。
そして、エルグランデに変化が起きるとき、必ず転生者の存在があること。
「本来、この世界の住人ではなかったハンゾーさんに、魔王の呪いは届かないんです! きっとそうです!」
安直な考えだとは思った。しかし、否定する材料もなかった。
この娘は美人だなぁ、付き合ったら幸せそうだよなぁ、とかそんなことは当たり前に思う。
だがしかし、年も離れていて、しがないおっさんとはとてもじゃないが釣り合うもんじゃない。
元いた世界でそんなこと口にしてみろ。あのブルファングみたいに灰になるまで炎上する。
つまり、いまのところ、この娘に恋愛感情なんてない。
惹かれてというのは、恋愛的な意味だけではないんだろうなとは思うが、そういった感情すらもない。
そんなことよりもエクラだ。
外にいるときは魔物が寄ってきて、車内に入ったら離れていった。
エクラに因果関係があるのは明らかだろう。
例えば、彼女が魔物を惹きつけるフェロモンを無意識に出していて、エクラの車内ではそれが外に漏れない、とかな。
「……試してみるか?」
彼女が外に出て魔物が寄ってきたら、ハッキリするかもしれない。
そんなことを考えてつい口走ってしまった。
「?」
ルミはマグカップを両手で包み込み、温かそうに喉を潤している。
薄いリップは引いてそうだが、化粧っ気のない顔に、涙の筋が残っている気がした。
「いや……なんでもない気にしなくていいんだ。茶菓子でも出すよ」
余計なことを考えずに、いまはゆっくりしよう。
そもそも、俺も外に出たくはないし、扉を開けたいとすらも思わない。
外に置き去りになったままの椅子をどう回収したものか。
ギャレーにある戸棚を空けながら、そんなことを考えていた。
思わず自虐の言葉が漏れた。
「……」
ルミは「そんなことないですよ」とは言ってくれず、じっと俺の目を見つめていた。
「余計なことをしてしまったか」
この台詞が口から出た後に、言うべきじゃなかったとは思った。
彼女は、ここに死ににきたと言っていた。それが本当なら邪魔をした形になる。
だが、それでも、止めなきゃいけないんだと俺は思っている。すくなくとも目の前で死ぬのは辞めてほしい。
純粋じゃあないな――結局、俺は目覚めが悪くなるのが嫌なだけなのだろう。
「ハンゾーさんは、本当になにも知らずにこの場所に来られたのですね?」
「えっ、それはどういう意味なんだい?」
疲れで俺の頭が回らないことを抜きにしても、彼女の説明が足りていないのはハッキリしている。
「早くこの場を離れましょう」
いまさら急にどうしたのだろうか。
「なぜ?」
「この場所には普段、動物も魔物も寄り付きません、もちろん人間も……」
ルミはブルファングの亡骸に目を向けた。
「あの子が、ここに来たのはわたしのせいです」
ここまでくると自意識過剰では説明がつかない、なにか理由があるんだろう。
そう考え始めたときだった。
「ん? なんだっ?」
ガサガサとなにかが動く音が聞こえてきた。
「囲まれていますね……」
唸り声も聞こえてくる。
野犬か、狼か……鳥の鳴き声も聞こえる。
辺りを見回すと、木々の間を横切る、生き物の影が見えた。
「わたしはこの場所に残ります。ハンゾーさんは早く……きゃっ!」
「お嬢ちゃんの戯言に付き合っていられるかっ!」
彼女を抱きかかえ、エクラに乗った。
見た目よりは重い気がした。着やせするタイプなのだろうか。
そもそも俺が運動不足だけなのかもしれん。
「だめです! わたしといると困ったことになります!」
車から出せと、ルミは騒いだ。
自分の手でドアを開けようともしていたが、ロックが掛かっていて、開けかたがわからない様子だった。
ガチャガチャとドアの取っ手を鳴らしている。
仮に鍵を開けられたとしても、羽交い締めにして、車内に押し込むつもりだった。
「落ち着くんだ! 運転してこの場から離れるからっ! その後は好きにしてくれていい!」
出せ出さないの攻防は十分くらい続いただろうか。外の様子が少し変わっていた。
「うん? いなくなっていないか?」
「え……そんな、どうして……」
ルミが倒したブルファングの仲間が数頭。他にも黒くてデカい野犬(狼かもしれん)、熊、元いた世界では見かけたことのない魔物、などなど。
たくさんの生き物が、円陣を組むようにエクラを取り囲み、ジリジリと近づいて来ていた。
だからこそ、運転して立ち去りたかったのだが、それらの姿が無くなっている。
遠くを見ると、動物たちがトボトボ歩いているのが見えた。
来た道を戻っていくようだった。
「ほっ……諦めたか……助かったな」
俺の安堵を横目に、ルミは言った。
「こんなこと初めてです……」
備え付けのテーブルには、同じく備え付けのソファーが添えられている。
組み替えれば簡易のベッドにも変わるやつだ。俺はそこに腰かけながら言った。
「どういうことだ?」
「ハンゾーさんは、わたしのこと好きになっていませんか?」
「自意識過剰っ!!」
ケツがソファーに触れる前に、俺は立ち上がった。
「おい! バカみたいな美人で若いからってなんでも思いどおりになると思ってないか⁉」
堰を切ったように文句が溢れ出た。
美人に恨みがあるわけじゃあないが、皆がこんなんだったらどうしようという焦りが交じる。
「にげろっ! と言っているのに逃げないし! 軽々しく死のうとかしてんじゃない!!」
ルミはビックリした表情でコチラをみている。
当然だ、怒っているんだから。驚かせることが目的だと思ってくれてもいい。
「座ってもよいですか?」
「どうぞっ! 茶でも入れてやるっ!」
対面のソファーにルミは腰を下ろした。
俺は茶を入れるために、キッチンスペースに向かった。といっても一歩二歩移動しただけだが。
「わたしは皆を惹きつけるのです」
もうツッコんでやらん。そろそろ美人はこんなんばっかりだと、大きなレッテルを貼ろうと思う。
「魔王ヴェルファイアの呪いだと聞いています。その呪いによって……わたしは人や魔物を強く惹きつけるそうです……」
「魔王きたぁ! いよいよ異世界だなっ!!」
「異……世界?」
ルミは、またしても小首を傾げた。
そんなことよりも、魔王とか呪いの話を聞かせてほしい。
「魔王ってなんだい!? 呪いの詳細は!?」
興奮気味に、茶の入ったマグカップを差し出した。彼女は「ありがとうございます」と受け取った。
「わたしの祖先に、魔王を打ち倒した勇者がいるのです」
ゆ、ゆ、ゆ、勇者だって。そりゃ、そうですよね、魔王とセットですものね。
俄然に興味が沸いてきた俺は、それで、それでと、彼女を急かした。
「呪いは一族を苦しめてきましたが。直系の長男長女に最も強く作用するのです」
「ほうほう! つまりキミは長女なのかい? 俺も長男だから、その苦労は分かるよ」
彼女はまた「ありがとうございます」と微笑んで、続けた。
「ですから、わたしを狙い魔物の襲撃が多発します……そして、周りの方々もわたしを好きになってしまうので、わたしを守るために多くの犠牲を……」
ルミは俯き、肩が震え、一滴の涙がこぼれた。
話がおもーーーーーーーーいっ!
俺は途端に後悔した。
自意識過剰だとか、美人だから我が物顔するんじゃねーぞ、とか。失礼なことを言い過ぎた。
苦労がわかるだって?
俺の苦労なんて、妹にアイス喰われたとか、お兄ちゃんだから我慢しなさいと言われた、くらいでしかないじゃないか。
この娘は苦しんでいたんだ。自分のために人が死ぬことに……。
「ですが、ハンゾーさんは違いますっ!」
彼女は涙を隠そうともせず、俺を見上げた。
「わたしに平気で怒ってきますし! 罵倒してくる! 呪い関係なく心配してくださってる気がしてっ!」
心がいてぇ! 罵倒まではしてなくない?
それにたぶん、そんなんではない。俺は俺のために、見殺しにしたくなかっただけだ。
キミのために、命を懸けた人たちに顔向けなんてできるもんじゃあない。
そのことを説明したいが、上手く言葉が出ない。
「それに不思議です……この……建物? に入った瞬間に、あの子達はわたしに興味を無くしました……こんなの初めてです」
なるほど……そういう文脈での言葉だったのか。
うーん、たぶん、その理由ってアレだよなー……アレしかないんじゃないだろうか。
「別に話しちゃってかまわないよな……」
「えっ……なんです?」
俺の独り言にルミが反応した。
だとしたら、もう言っちまうしかないだろう。
「よくわからないが……俺が転生者であることは関係あるかい?」
厳密には俺ではなくエクラであり、転生車なのだが。
「転生者!?」
彼女は分かりやすいほどに目を輝かせた。
「いきなり転生者って言ってもわからないよな……」
「いえ! わかりますっ! ハンゾーさんは転生者だったのですね!」
思いのほか、大きいリアクションに俺のほうが驚いた。
それから彼女は転生者について、教えてくれた。
過去に何人もの転生者がいたこと。いまも噂にはこと欠かないこと。
そして、エルグランデに変化が起きるとき、必ず転生者の存在があること。
「本来、この世界の住人ではなかったハンゾーさんに、魔王の呪いは届かないんです! きっとそうです!」
安直な考えだとは思った。しかし、否定する材料もなかった。
この娘は美人だなぁ、付き合ったら幸せそうだよなぁ、とかそんなことは当たり前に思う。
だがしかし、年も離れていて、しがないおっさんとはとてもじゃないが釣り合うもんじゃない。
元いた世界でそんなこと口にしてみろ。あのブルファングみたいに灰になるまで炎上する。
つまり、いまのところ、この娘に恋愛感情なんてない。
惹かれてというのは、恋愛的な意味だけではないんだろうなとは思うが、そういった感情すらもない。
そんなことよりもエクラだ。
外にいるときは魔物が寄ってきて、車内に入ったら離れていった。
エクラに因果関係があるのは明らかだろう。
例えば、彼女が魔物を惹きつけるフェロモンを無意識に出していて、エクラの車内ではそれが外に漏れない、とかな。
「……試してみるか?」
彼女が外に出て魔物が寄ってきたら、ハッキリするかもしれない。
そんなことを考えてつい口走ってしまった。
「?」
ルミはマグカップを両手で包み込み、温かそうに喉を潤している。
薄いリップは引いてそうだが、化粧っ気のない顔に、涙の筋が残っている気がした。
「いや……なんでもない気にしなくていいんだ。茶菓子でも出すよ」
余計なことを考えずに、いまはゆっくりしよう。
そもそも、俺も外に出たくはないし、扉を開けたいとすらも思わない。
外に置き去りになったままの椅子をどう回収したものか。
ギャレーにある戸棚を空けながら、そんなことを考えていた。
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