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キャンピングカーで始める異世界スローライフ
第9話「祈り」
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「カバ……!? いや、猪か……!?」
あとに聞いた話だが、エルグランデにおいて動物と魔物の区別は曖昧らしい。
神の使いとされる動物が、地域によっては害獣であるように、人の都合次第だそうだ。
おおむね、人間の手に負えない獣が魔物と呼ばれるし、生息域が魔界だとしてもペットとして高値が付くやつもいる。
「ブルファングです。この場所には魔物は寄り付かないはずなのに……」
この牛みたいにデカい猪は、間違いなく魔物として区分されるだろう。
口から突き出し、大きく湾曲した牙が……ヤバい。人間なんて紙くずみたいに引き裂いてしまうに違いない。
「わたしに惹かれてやってきたんですね」
「ホントに自意識過剰じゃないか⁉ 生肉としてってことか!?」
混乱している。そんなツッコミ入れてる場合じゃないだろう。
美人は皆に好かれると思いこんでいる……とか、考えてる場合でもないんだ。
「とにかく逃げないとっ!」
「落ち着いてください。無闇に動くとあの子を興奮させてしまいます」
馬みたいに立って前脚をバタつかせ、犬みたいに地面をガリガリ掘ってる。
動物を、別の動物で例えるのはセンスがないが、いまの俺にはそれが精いっぱいだ。
巨体に似合わないつぶらな瞳が、真っ赤に充血している。
興奮させるなというが、手遅れなんじゃないだろうか。
いまにも牙を剥いて、飛びかかってきそうだ。
「ブルファアアアッ!!」
「ひいっ!」
ブルファングが吠えた。俺は腰を抜かした。
「安心してください。あの子の目的はわたしです」
無様に座り込む俺の前に、ルミは立った。
恐ろしい魔物から、俺を庇っているように見える。
目線を合わせるために彼女は腰を折っていて……顔が近い。
その視線は優しくて……揺れる金髪から甘い香りがする。
途端に自分が情けなく感じた。
「ブルアアアアアッ!!」
水面を揺らす咆哮が近づいて来る。
ドスドスと地面も揺れて、背中に悪寒が走った。
ルミは振り向き、迫り来る猪と対峙した――
「ばかやろうっ!」
咄嗟の判断だったと思う。
なにも考えていなかった。考えていたらこんな行動とっちゃいない。
車に跳ねられるような衝撃を受けた。
子供の頃に一度だけ交通事故にあったことがある。
自転車に乗っていて、見通しの悪い路地での出来事だった。俺自身は無傷だったものの、前輪はぐにゃりと曲がって悲惨だった。
だが、あのときとは桁が違う。
「うわぁああ!」
「ハンゾーさん!」
押しのけたことでルミは転んだ。
俺はその何倍もの距離を転がっていく。砂利や木片が体に食い込むのを感じた。
「大丈夫ですか!」
ルミが駆け寄ってくる。
長いスカートが邪魔になるのか、両手でつまみあげながら。
その所作すらも気品に溢れているが、なんでそんな格好で森に来たんだ?
「なんだこれっ⁉」
腕がぐにゃりと曲がってる。
もちろん、曲がっちゃいけない部分から、曲がっちゃいけない向きに。
「いってぇえええっ!!」
折れていると気づいた瞬間に、強い痛みが襲って来た。
脂汗か、冷や汗か、とちらかわからないが、とにかく大量に噴き出した。
「あああ、折れています!」
「知ってるよ!」
これだけ痛いなら、死んではないってことだ、それだけはよかった。
「ブルアアアアアッ!!」
なにもよくない。
猪が地面を踏み鳴らしながら、方向転換している。
もう一発ぶちかまそうとしているのは明白だ。
「くそっ! 逃げろ! 逃げるんだ!」
俺らが死ぬまで、何度だって繰り返すだろう。猪突猛進というくらいなのだから。
「おい! 逃げるんだ!」
「……」
ルミは動かない。動いちゃくれない。
俺が逃げるまで、自分も逃げるわけには……なんて、考えてそうな顔をしている。
なんだそれ。俺だってそうだ。順番なんてどうだっていいだろう。
「くそ! 逃げるぞっ!」
俺は立ち上がり、ルミの手を引いた。
折れた腕に激痛を感じるが、なんというか……情報として感じている、みたいな感触だった。
絶体絶命のピンチで、アドレナリンが全開なんだろう。
俺は、俺の底力に驚きつつも、辺りを見回した。
「逃げるってどこに⁉」
開けた場所だ、隠れる場所なんてない。
森に逃げ込むか、湖に飛び込むか……いずれにしろ、距離が遠い。
「ブルッ! ブルブル!」
無理だ。ブルファングの速度を振り切ることはできない。
俺かルミのどちらかが囮になるくらいしないと無理だ。
だがもう、俺はルミの手を掴んでいる。
いまさら手を離すことはできやしない。
ブッ、ブッブーーーー!!
「ブルファッ!?」
大きなクラクションが鳴って、ハイビームがブルファングを照らした。
驚いたのか、その場で跳ねて足をバタつかせた。
「エクラ!?」
光はエクラのフロントライトから伸びていた。
そして、手招きでもするかのように、ワイパーがウィンウィンと揺れている。
「こっちに来いって言ってるのか!?」
なんで車がひとりでに。なんてことは今は考えないでおこう。
車内に逃げ込むのはよい考えだ。そのまま運転して、この場から立ち去ることもできる。
「こっちだ!」
「ハンゾーさん!?」
急いでエクラに駆け寄った。
扉を開けようと腕を伸ばしたが、折れて曲がっているほうだったから上手く掴めなかった。
「こっちじゃないっ!」
折れてない腕でドアを開け、車内に滑り込む。
「キミも乗れっ! はやくっ!」
「でも……」
ルミは扉の前で立ち止まっている。
戸惑っている様子だ、異世界に車はないのだろうか。
しかし、そんな場合じゃないだろう。
「馬車みたいなものだよっ! はや――」
はやくしろと言い終わる間もなく、強い衝撃が車内を揺らした。
ブルファングが俺とルミの間に割って入ってきた。長い助走からの頭突きを見舞ってきた。
「うわぁ!」
「きゃあっ!」
俺は車内で転がり、備えつけのテーブルで頭を打った。
痛い。だが、折れた腕はもっと痛かった。
「ルミっ!」
ドタバタと、寄りかかるものを探しながら立った。
彼女の無事を確かめる為に、窓に目をやる。
キャンピングカーはこういう場合に不便だ、外の様子が掴みにくい。
車内からはルミの姿を捉えることはできなかった。
恐る恐る半開きになったドアから顔を出した。
「ルミ! なにしてるんだっ! こっちに来るんだ!」
彼女はブルファングと顔を見合わせながら、車からジリジリと遠ざかっていった。
「わたしは大丈夫です」
俺の叫びに、ルミは笑顔で答えた。
大丈夫って、何がだ?
「おいっ! ルミっ! こっちだって言っているだろ!!」
苛立ちで口調が荒くなる。
言い方が悪かったことが原因だとは思えないが、返事は無かった。
ルミは、俺とエクラから距離を取っていく。
被害がこちらに及ばないように、ブルファングを引き離そうとしている。そんな風に見えた。
――カッチ、カッチ、カッチ
「エクラ!?」
ハザードランプが点滅した。
「なんだっ? 座れって言ってるのか!?」
フロントガラスの向こう側で、ブルファングがあと脚を使って地面を削るのが見える。
ガリガリという音がする。突進前の予兆に違いない。
「なんだってんだよっ!」
俺はドライバーシートに飛び乗った。
キーはつけたままだった。急いで回した。
グォオオンッ!
一発で点火した。エクラのエンジンが唸りをあげる。
「ブルアアアアアアッ!!」
ブルファングも吠えた。
「あなたでは無理かもしれません」
ルミは、祈りを捧げるように両手を組んでいた。
その目に恐怖はなく、むしろ、悲しみの色を帯びていた。
蹄が土を抉り、巨体がロケットのように飛び出した。
二本の牙で抉るような角度で、ブルファングは前に進んだ。
「祈ってる場合かよっ!」
折れた腕では、ハンドルを握れない。
アクセルに体重を乗せ、肩口で抱き着くようにハンドルを回す。
内臓がおいていかれるような感覚を覚えた。
三トン越えの車体とは思えない加速で、エクラは奔った。
グォオオオオオン――――――ドゴォーンッ!!
「~~~~~ッ!!」
人身事故もこんな感触なのだろうか。
ゾッとするような考えが脳裏を過った。派手な音の割に、対した衝撃がなかったからだ。
ルミを襲う巨大な猪の横っ面に、キャンピングカーでの体当たり。
軌道が逸れるどころじゃない、直角に折れ曲がるように吹き飛んでいった。
「はやく乗ってくれっ! 逃げるんだっ!」
俺は滑り落ちるように、車外に出た。
「ハンゾーさん!」
ルミは吹き飛ぶブルファングを目で追っていたが、そのあとすぐにこちらに駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
「いまのところはな! だがすぐにそうじゃなくなるっ!」
「腕、やはり折れています」
「わかっているよ!」
グズグズしないでほしい。
ブルファンゴを仕留めてる自信はない。早くこの場から立ち去りたかった。
「動かずそのままで大人しくしていてください」
こいつは、さっきからなんなんだ。
逃げろ、逃げなきゃと、俺はずっと言っているのに――
「ドロル・レミッスス――」
ルミは何かを口ずさんだ……詩? 違う、これは祈りだ。
「――カロ・サネトゥル・アニマ・パケム……癒しの光をっ!」
折れた腕に添えられた彼女の掌から、黄金の光が溢れた。
森に差し込む木漏れ日よりも、強く、色濃く、暖かかった。
「動きますか?」
「えっ? うそだろ? 痛くない……折れてもない。治っている?」
「……癒しの祈りです」
「異世界すぎるだろっ!」
もう少し気の利いたことを言いたかった。
だが、それ以外に例えようがなかったんだ。
「異……世界……?」
わけが分からないと、ルミは小首を傾げた。
こんな至近距離で、その仕草はやはり反則ではないかと思う。
しかも、美人でシスターで、ヒーラーってなにか狙っているのかとすら思う。
異世界の住人に、転生がどうこうって話をしていいのだろうか。
そんな疑問が過るが、悠長にしている時間などないことを思い出した。
「ルミ! 話はあとだ。車に乗ってくれ! 逃げるぞっ!」
立ち上がり、彼女の肩に手を置いたのだが、キョトンとした表情を向けられた。
この期に及んで、そのリアクションはなんだ。しゃらくさい。
無理矢理にでも連れて行く。俺は彼女の手を引こうとした。
「ブ……ブ……ブルファアアアアアッ……!」
跳ね飛ばしたブルファングが、ヨロヨロと立ちあがってくる。
そんな気はしていた。エクラをぶつける瞬間に、俺はブレーキを掛けた。
日和った俺が悪い――だが、立ってくるなよ。これが魔物って奴か。
「ルミ! はやくっ!」
急かす俺に、やはり彼女は優しく微笑んだ。
「あなたを巻き込んでしまった以上、責任を取らないといけません」
「はぁ?」
俺の疑問を他所に、彼女はまたも振り向き、一歩前に出た。
「ルミ――」
「大丈夫です」
ルミは俺の言葉を遮るように、右手をスッと上げた。
「ノクティ・フィネム・ディク――」
まただ、あの祈りだ。
バリッ……バリバリバリバリバリッ!!
雲ひとつない青空だが、雷が落ちた。
彼女の小さな体から迸る雷光が、右手に収束していく。
「――ルクス・ドミニ・ウンブラス・デレト――」
たわわに実った胸を天に向け、大袈裟に見えるほどに彼女は振りかぶった。
野球の投手というよりは、やり投げのフォームに近い。
光の奔流が風圧となって、ヴェールから金髪がこぼる。スカートもはためき肌が露わになる。
修道服の下には、純白のストッキングにガーターベルト。それらと同じく純白の下着だった。
普段であれば目を奪われるような光景だろうが、如何せん、いまはそれ所ではない。
ド派手な電撃が空間に迸っているのだが、この場にいてもいいのだろうか。
感電してしまうのではと、足が竦んだが、光は意思を持ち、俺を避けているようにも見えた。
「――強き光をっ!」
ルミは腕を振り抜いた。
「ブギャアアアアアッ!!」
断末魔は一瞬だった。
光速――かどうかは分からないが、彼女が光の槍を投げた直後に終わっていた。
閃光が、ブルファングを焼いた。
「……す、すごい……」
ルミの背中に視線を移しながら言った。
肉と空気が焦げる匂いが鼻を刺す。
「……」
ルミは振り向くことなく、胸の前で両手を組んだ。
そのまま、消し炭と化したブルファングの元に歩みを進め、立ち止まり、祈りを捧げた。
あとに聞いた話だが、エルグランデにおいて動物と魔物の区別は曖昧らしい。
神の使いとされる動物が、地域によっては害獣であるように、人の都合次第だそうだ。
おおむね、人間の手に負えない獣が魔物と呼ばれるし、生息域が魔界だとしてもペットとして高値が付くやつもいる。
「ブルファングです。この場所には魔物は寄り付かないはずなのに……」
この牛みたいにデカい猪は、間違いなく魔物として区分されるだろう。
口から突き出し、大きく湾曲した牙が……ヤバい。人間なんて紙くずみたいに引き裂いてしまうに違いない。
「わたしに惹かれてやってきたんですね」
「ホントに自意識過剰じゃないか⁉ 生肉としてってことか!?」
混乱している。そんなツッコミ入れてる場合じゃないだろう。
美人は皆に好かれると思いこんでいる……とか、考えてる場合でもないんだ。
「とにかく逃げないとっ!」
「落ち着いてください。無闇に動くとあの子を興奮させてしまいます」
馬みたいに立って前脚をバタつかせ、犬みたいに地面をガリガリ掘ってる。
動物を、別の動物で例えるのはセンスがないが、いまの俺にはそれが精いっぱいだ。
巨体に似合わないつぶらな瞳が、真っ赤に充血している。
興奮させるなというが、手遅れなんじゃないだろうか。
いまにも牙を剥いて、飛びかかってきそうだ。
「ブルファアアアッ!!」
「ひいっ!」
ブルファングが吠えた。俺は腰を抜かした。
「安心してください。あの子の目的はわたしです」
無様に座り込む俺の前に、ルミは立った。
恐ろしい魔物から、俺を庇っているように見える。
目線を合わせるために彼女は腰を折っていて……顔が近い。
その視線は優しくて……揺れる金髪から甘い香りがする。
途端に自分が情けなく感じた。
「ブルアアアアアッ!!」
水面を揺らす咆哮が近づいて来る。
ドスドスと地面も揺れて、背中に悪寒が走った。
ルミは振り向き、迫り来る猪と対峙した――
「ばかやろうっ!」
咄嗟の判断だったと思う。
なにも考えていなかった。考えていたらこんな行動とっちゃいない。
車に跳ねられるような衝撃を受けた。
子供の頃に一度だけ交通事故にあったことがある。
自転車に乗っていて、見通しの悪い路地での出来事だった。俺自身は無傷だったものの、前輪はぐにゃりと曲がって悲惨だった。
だが、あのときとは桁が違う。
「うわぁああ!」
「ハンゾーさん!」
押しのけたことでルミは転んだ。
俺はその何倍もの距離を転がっていく。砂利や木片が体に食い込むのを感じた。
「大丈夫ですか!」
ルミが駆け寄ってくる。
長いスカートが邪魔になるのか、両手でつまみあげながら。
その所作すらも気品に溢れているが、なんでそんな格好で森に来たんだ?
「なんだこれっ⁉」
腕がぐにゃりと曲がってる。
もちろん、曲がっちゃいけない部分から、曲がっちゃいけない向きに。
「いってぇえええっ!!」
折れていると気づいた瞬間に、強い痛みが襲って来た。
脂汗か、冷や汗か、とちらかわからないが、とにかく大量に噴き出した。
「あああ、折れています!」
「知ってるよ!」
これだけ痛いなら、死んではないってことだ、それだけはよかった。
「ブルアアアアアッ!!」
なにもよくない。
猪が地面を踏み鳴らしながら、方向転換している。
もう一発ぶちかまそうとしているのは明白だ。
「くそっ! 逃げろ! 逃げるんだ!」
俺らが死ぬまで、何度だって繰り返すだろう。猪突猛進というくらいなのだから。
「おい! 逃げるんだ!」
「……」
ルミは動かない。動いちゃくれない。
俺が逃げるまで、自分も逃げるわけには……なんて、考えてそうな顔をしている。
なんだそれ。俺だってそうだ。順番なんてどうだっていいだろう。
「くそ! 逃げるぞっ!」
俺は立ち上がり、ルミの手を引いた。
折れた腕に激痛を感じるが、なんというか……情報として感じている、みたいな感触だった。
絶体絶命のピンチで、アドレナリンが全開なんだろう。
俺は、俺の底力に驚きつつも、辺りを見回した。
「逃げるってどこに⁉」
開けた場所だ、隠れる場所なんてない。
森に逃げ込むか、湖に飛び込むか……いずれにしろ、距離が遠い。
「ブルッ! ブルブル!」
無理だ。ブルファングの速度を振り切ることはできない。
俺かルミのどちらかが囮になるくらいしないと無理だ。
だがもう、俺はルミの手を掴んでいる。
いまさら手を離すことはできやしない。
ブッ、ブッブーーーー!!
「ブルファッ!?」
大きなクラクションが鳴って、ハイビームがブルファングを照らした。
驚いたのか、その場で跳ねて足をバタつかせた。
「エクラ!?」
光はエクラのフロントライトから伸びていた。
そして、手招きでもするかのように、ワイパーがウィンウィンと揺れている。
「こっちに来いって言ってるのか!?」
なんで車がひとりでに。なんてことは今は考えないでおこう。
車内に逃げ込むのはよい考えだ。そのまま運転して、この場から立ち去ることもできる。
「こっちだ!」
「ハンゾーさん!?」
急いでエクラに駆け寄った。
扉を開けようと腕を伸ばしたが、折れて曲がっているほうだったから上手く掴めなかった。
「こっちじゃないっ!」
折れてない腕でドアを開け、車内に滑り込む。
「キミも乗れっ! はやくっ!」
「でも……」
ルミは扉の前で立ち止まっている。
戸惑っている様子だ、異世界に車はないのだろうか。
しかし、そんな場合じゃないだろう。
「馬車みたいなものだよっ! はや――」
はやくしろと言い終わる間もなく、強い衝撃が車内を揺らした。
ブルファングが俺とルミの間に割って入ってきた。長い助走からの頭突きを見舞ってきた。
「うわぁ!」
「きゃあっ!」
俺は車内で転がり、備えつけのテーブルで頭を打った。
痛い。だが、折れた腕はもっと痛かった。
「ルミっ!」
ドタバタと、寄りかかるものを探しながら立った。
彼女の無事を確かめる為に、窓に目をやる。
キャンピングカーはこういう場合に不便だ、外の様子が掴みにくい。
車内からはルミの姿を捉えることはできなかった。
恐る恐る半開きになったドアから顔を出した。
「ルミ! なにしてるんだっ! こっちに来るんだ!」
彼女はブルファングと顔を見合わせながら、車からジリジリと遠ざかっていった。
「わたしは大丈夫です」
俺の叫びに、ルミは笑顔で答えた。
大丈夫って、何がだ?
「おいっ! ルミっ! こっちだって言っているだろ!!」
苛立ちで口調が荒くなる。
言い方が悪かったことが原因だとは思えないが、返事は無かった。
ルミは、俺とエクラから距離を取っていく。
被害がこちらに及ばないように、ブルファングを引き離そうとしている。そんな風に見えた。
――カッチ、カッチ、カッチ
「エクラ!?」
ハザードランプが点滅した。
「なんだっ? 座れって言ってるのか!?」
フロントガラスの向こう側で、ブルファングがあと脚を使って地面を削るのが見える。
ガリガリという音がする。突進前の予兆に違いない。
「なんだってんだよっ!」
俺はドライバーシートに飛び乗った。
キーはつけたままだった。急いで回した。
グォオオンッ!
一発で点火した。エクラのエンジンが唸りをあげる。
「ブルアアアアアアッ!!」
ブルファングも吠えた。
「あなたでは無理かもしれません」
ルミは、祈りを捧げるように両手を組んでいた。
その目に恐怖はなく、むしろ、悲しみの色を帯びていた。
蹄が土を抉り、巨体がロケットのように飛び出した。
二本の牙で抉るような角度で、ブルファングは前に進んだ。
「祈ってる場合かよっ!」
折れた腕では、ハンドルを握れない。
アクセルに体重を乗せ、肩口で抱き着くようにハンドルを回す。
内臓がおいていかれるような感覚を覚えた。
三トン越えの車体とは思えない加速で、エクラは奔った。
グォオオオオオン――――――ドゴォーンッ!!
「~~~~~ッ!!」
人身事故もこんな感触なのだろうか。
ゾッとするような考えが脳裏を過った。派手な音の割に、対した衝撃がなかったからだ。
ルミを襲う巨大な猪の横っ面に、キャンピングカーでの体当たり。
軌道が逸れるどころじゃない、直角に折れ曲がるように吹き飛んでいった。
「はやく乗ってくれっ! 逃げるんだっ!」
俺は滑り落ちるように、車外に出た。
「ハンゾーさん!」
ルミは吹き飛ぶブルファングを目で追っていたが、そのあとすぐにこちらに駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
「いまのところはな! だがすぐにそうじゃなくなるっ!」
「腕、やはり折れています」
「わかっているよ!」
グズグズしないでほしい。
ブルファンゴを仕留めてる自信はない。早くこの場から立ち去りたかった。
「動かずそのままで大人しくしていてください」
こいつは、さっきからなんなんだ。
逃げろ、逃げなきゃと、俺はずっと言っているのに――
「ドロル・レミッスス――」
ルミは何かを口ずさんだ……詩? 違う、これは祈りだ。
「――カロ・サネトゥル・アニマ・パケム……癒しの光をっ!」
折れた腕に添えられた彼女の掌から、黄金の光が溢れた。
森に差し込む木漏れ日よりも、強く、色濃く、暖かかった。
「動きますか?」
「えっ? うそだろ? 痛くない……折れてもない。治っている?」
「……癒しの祈りです」
「異世界すぎるだろっ!」
もう少し気の利いたことを言いたかった。
だが、それ以外に例えようがなかったんだ。
「異……世界……?」
わけが分からないと、ルミは小首を傾げた。
こんな至近距離で、その仕草はやはり反則ではないかと思う。
しかも、美人でシスターで、ヒーラーってなにか狙っているのかとすら思う。
異世界の住人に、転生がどうこうって話をしていいのだろうか。
そんな疑問が過るが、悠長にしている時間などないことを思い出した。
「ルミ! 話はあとだ。車に乗ってくれ! 逃げるぞっ!」
立ち上がり、彼女の肩に手を置いたのだが、キョトンとした表情を向けられた。
この期に及んで、そのリアクションはなんだ。しゃらくさい。
無理矢理にでも連れて行く。俺は彼女の手を引こうとした。
「ブ……ブ……ブルファアアアアアッ……!」
跳ね飛ばしたブルファングが、ヨロヨロと立ちあがってくる。
そんな気はしていた。エクラをぶつける瞬間に、俺はブレーキを掛けた。
日和った俺が悪い――だが、立ってくるなよ。これが魔物って奴か。
「ルミ! はやくっ!」
急かす俺に、やはり彼女は優しく微笑んだ。
「あなたを巻き込んでしまった以上、責任を取らないといけません」
「はぁ?」
俺の疑問を他所に、彼女はまたも振り向き、一歩前に出た。
「ルミ――」
「大丈夫です」
ルミは俺の言葉を遮るように、右手をスッと上げた。
「ノクティ・フィネム・ディク――」
まただ、あの祈りだ。
バリッ……バリバリバリバリバリッ!!
雲ひとつない青空だが、雷が落ちた。
彼女の小さな体から迸る雷光が、右手に収束していく。
「――ルクス・ドミニ・ウンブラス・デレト――」
たわわに実った胸を天に向け、大袈裟に見えるほどに彼女は振りかぶった。
野球の投手というよりは、やり投げのフォームに近い。
光の奔流が風圧となって、ヴェールから金髪がこぼる。スカートもはためき肌が露わになる。
修道服の下には、純白のストッキングにガーターベルト。それらと同じく純白の下着だった。
普段であれば目を奪われるような光景だろうが、如何せん、いまはそれ所ではない。
ド派手な電撃が空間に迸っているのだが、この場にいてもいいのだろうか。
感電してしまうのではと、足が竦んだが、光は意思を持ち、俺を避けているようにも見えた。
「――強き光をっ!」
ルミは腕を振り抜いた。
「ブギャアアアアアッ!!」
断末魔は一瞬だった。
光速――かどうかは分からないが、彼女が光の槍を投げた直後に終わっていた。
閃光が、ブルファングを焼いた。
「……す、すごい……」
ルミの背中に視線を移しながら言った。
肉と空気が焦げる匂いが鼻を刺す。
「……」
ルミは振り向くことなく、胸の前で両手を組んだ。
そのまま、消し炭と化したブルファングの元に歩みを進め、立ち止まり、祈りを捧げた。
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イノナかノかワズ
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助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
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