キャンピングカーで始める異世界スローライフ

まけない犬

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キャンピングカーで始める異世界スローライフ

第8話「ルミレーゼ・ド・クラリオン」

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 当初の予定では、アスパラガスとジャガイモを添えるだけの予定だった。
 でも、ふたり分には足りないと思って、冷凍パスタをチンして嵩増かさましをした。

 宗教的に牛肉は大丈夫なのかと、一応は確認してみた。
 命を頂く感謝と祈りを欠かさなければ問題ないと、彼女は皿を受け取った。

「うまぁ……」

 空腹は最高の調味料というが、腹が減ってなくても美味ったと思う。
 一組しか用意のなかったナイフとフォークは、彼女に渡してある。
 異世界の住人である彼女にとって、使い慣れたものがよいだろうと思ったからだ。
 俺は割り箸を使って食べている。箸だろうが、フォークだろうが、味は変わらない。

「おいしいです。ウチのシェフが作ってくれる料理と遜色ありません」

 長い祈りを経て、ようやく口をつけた彼女の器は、冷めきっているんじゃないかと思った。気にしすぎのようだった。
 シェフがどうとかって話は深く考えないとして、表情をみるかぎり、お世辞を言っている様子はない。

 独身の一人暮らし。自炊もこなしてるわけだから、料理が苦手なんてことはない。
 とはいえ、簡単なものしか作らないし、料理上手だと言えるほどではないと思う。

 しかし、喜んでもらえて素直にうれしくなる。
 ビールの一本でも飲みたくなって、その用意もあるにはある。だが、どう見ても未成年の彼女の手前で、一杯始めるわけにはいかないだろう。

 酒が入れば口も滑らかになるだろうし、そうしたいのだが、やめておこう。
 当たり障りのない会話をすればいいだけだろう。こんなところになにをしにきたのか、とかね。

 俺と同じくキャンプだろうか。シスターは森の中で修行的ななにかをしなきゃならないとか、あるんだろうか?

 まてよ、ここは異世界だ。冒険のために森に足を踏み入れる、そんなことがあっても不思議ではないではないか。
 俄然がぜん、興味が沸いてきた俺は、口を開いた。

「えっと……」

 そういえば名前が解らない。

「申し遅れました。ルミレーザ・ド・クラリオンと申します。ルミと呼んで頂ければ」

 彼女……ルミは、屈託のない笑顔を向けて言った。
 察しもいい、礼儀も弁えている様子だ。名前も何というか仰々しいぎょうぎょうしいし、よいところのお嬢様って見立ては間違ってないだろう。

 だったら、なんで俺を突き落としたのだろうかと、さきほどの出来事を思い出しそうになった。
 いまさら蒸し返しても仕方がないと思って、考えないことにした。

「ルミちゃ……」

 ちゃんづけはイヤらしく聞こえそうだ。あえて、呼び捨てることにした。

「ルミはこんな場所になにをしにきたの? キャンプとか? 散歩とか?」

 俺の質問に、彼女はすこし驚いたような表情を見せた。
 だが、すぐにフッと笑みをこぼすと、言った。

「わたしは死ににきました」
「なんでだよっ!!」

 まだ食べかけだった皿をひっくり返しながら、俺は立ち上がった。

「冗談にしちゃわらえねーぞ!?」

 ルミは、困ったような表情を浮かべた。

「そんな、冗談ではありません」
「なおさら笑えねーよっ!」

 こんな森のなかで、その台詞は信憑性しんぴょうせいがありすぎる。

「キミみたいな若い子がなんでそんなことを言うんだよ!」

 人には人の理由がある、人それぞれだ。
 他人が立ち入っちゃならない領域もある。

 ただし、こうなっちまっては話は変わってくるんだ。
 聞いちまった俺にも責任が生まれちまうし、聞かせてしまった彼女にもそうだ。

「わたしが生きていると皆が不幸になってしまうのです」

 ルミは、すこしムッとしたような、悲哀のような、そんな表情で言った。

「自意識過剰過ぎるだろ!」

 とんだ悲劇のヒロインが現れたやがったな。

「キミの人生は、キミのものだし、迷惑なんてお互いさまだろう? そんな理由で、死んでどうするんだ!」

 いま俺はこれ以外の言葉を持っていないし、間違っているとも思わない。

「……」

 彼女はなにも答えずに、ただ、深い悲しみを瞳の奥に秘めて……ジッと……俺を見つめた。

「そうですね。ハンゾーさんの仰るとおりかもしれません……ですが、それでも、わたしは――」

 プギャアアアアアーーッ‼

 彼女がなにかを言いかけたとき、辺りに獣の叫びが響き渡った。

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