キャンピングカーで始める異世界スローライフ

まけない犬

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キャンピングカーで始める異世界スローライフ

第7話「腹の虫」

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「はいコレ。マグカップは自分用しかなくてね。紙コップで申し訳ないけれど」

 なぜ申し訳ないと思わなければならないのだろう。
 余計な気遣いだ。コーヒーくらいスッと手渡すだけで良かったはずだ。

「ありがとうございます」

 黒を基調に豪華な刺繍ししゅうの施された修道服(シスターの服)は、値が張りそうだった。
 安物の俺とは違って、素材もよさそうで、質素とは程遠い出来に見えた。

 肌の露出はほとんどない。指先と顔の表面くらいだろう。
 腰まで流れるロングヘアも、いまは黒いヴェールに隠されている。

 すまん……少しだけうそをついた。
 胸の谷間と肩が大きく露出している。自慢の部位を強調するために、他の部分を隠してるのだろうか?

 付け加えておくと、小柄な娘にしては、あまりに大きな胸がアンバランスだ。
 しかも、たぶん……若い。おそらくJKくらいの年齢だろう。

 転生の女神様もドン引きするくらいの美人だったが、この娘も相当なもんである。
 都会に住んでいると、芸能人を見かけることがある。画面越しより、生身のほうが綺麗だと感じる。
 この娘は、その人たちに比べても飛びぬけている。

 異世界ってこんなのばっかりなんだろうか。

「異世界こわ……」

 これまで女性に縁のない人生だった。美人が怖いのである。

「なにかおっしゃられましたか?」

 俺は焚き火たきびの前に立って、バスタオルで髪を拭いている最中だ。

 椅子はひとつしかなかったから彼女に譲った。
 向かいに座った彼女が、上目遣いで見上げてくる。年甲斐としがいもなくドキドキしてしまった。

「いや、別になにも……」

 なにを話せばいいのかわからない。
 異世界転生して、美少女シスターに出会ったときに、ウケるトークのネタがあるなら誰か教えてくれ。

 異世界ライトノベルを、もっとたくさん読んでおけば良かった。
 できれば、金髪巨乳シスターがヒロインのやつ。たくさんあるだろ、その手の話。

「……」

 なぜか無言でこちらをジッとみている。
 口調や立ち振る舞い、眼差しにすらどこか品を感じる。

 暴力的なバストを除くと、どう見ても清楚せいそで、どう考えても「良家のお嬢様」という感じがする。

 シスターってのはみんなこんな感じなのだろうか、正直わからない。
 コンテンツとしてではない本物を、初めてみたからだ。

「あの、もしかして……失礼ですが……」

 なにやら、もじもじと、歯切れの悪い言葉が続いた。

「……なに?」
「怒っていらっしゃいますか?」

 漫画やアニメのキャラで、美少女になにをやられてもデレデレしちゃう男がいるだろう?
 あれは、嘘だと思う。すくなくとも俺は腹を立てている。

 湖に突き落とされ、溺れそうになった。
 岩場から少し離れただけで、急激に深くなっていて底に足はつかず、本当に死ぬかと思った。

「なんであんなことしたの?」

 怒ってないと言えるわけがない。
 エクラの備え付けシャワーを初めて使ってみたのに、なんの感動も得られなかったくらいだから。

 長生きを決意した瞬間に、溺死させられそうになったのだ。仕方がないだろう?

「あんなこととは?」

 両脚をそろえて少し斜めに、椅子に深く座り過ぎない。
 コップを両手で包みこみ、小首を傾げる。その所作が可憐すぎて困る。

「無自覚かよ⁉」

 あまりの可愛さに、怒りが霧散しそうになった。
 それが嫌で、大きく反応してみたのだが、よいフレーズは浮かばなかった。

「だから……なんで俺を突き落としたの?」

 余計なことを考えないようにしよう。腹立たしさが残ってるうちに事情を聞き出さないと。

「突き落とす? そんなつもりはありませんでしたっ!」
「いや、事実そうだったじゃないか?」
「それは……」

 彼女は心底困ったように、言葉を詰まらせた。

「えっと……お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ハンゾー」
「ありがとうございます。ハンゾーさん……あの、死のうとしてらっしゃいましたよねっ!」
「なんでだよっ!」

 即座に否定し、長生きを決意してたところだと付け加えた。

「そ、そうだったのですか! もうしわけありません! でも……」

 彼女は、目を見開き、すぐに謝ってくれた。
 だけど、歯切れは悪くて、なにかを言いたそうにしていた。

「……」

 言葉を待ってみたが、すぐには出てこなかった。
 会話のボールはまだこちらにあるらしい。投げ返す必要がある。

「あのさぁ……」

 グウウウ……

 口を開いた拍子に、腹が鳴った。

「えっ? あっ……」

 グウウウ……

 腹の虫は二匹いた。
 俺が鳴らしたタイミングと同時に、彼女も鳴らした。

 恥ずかしそうにうつむくシスターをみて、怒りは霧のように散っていった。
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