1 / 71
~転生の章~ 『元服編』 享禄元年(一五二八年)
第1話 ここはどこ?
しおりを挟む
「なあ宗太、昨日の特番見た?」
学校に行く通学路で歴史好きの友人信也が、朝の挨拶も早々に聞いて来た。
信也の言っている特番は、昨晩放送された『桶狭間の戦い』を特集した番組のことだと思われる。
もちろん見たと答える宗太も少し興奮気味である。
一緒に登校していた友人の友江も、見た見たとその顔は非常に嬉しそうだった。
桶狭間の戦いはなぜ起こったか?
色々な説を紹介していたが、太原雪斎が亡くなったのが痛恨だったと結論付けていた。
その後、松平元康がどのような活躍をしていたのかが語られた。
最後は、織田信長の巧妙な心理戦に引っかかり、油断していた今川義元が打ち取られた。
たいたいそんな内容の番組だった。
宗太、信也、友江は幼馴染で、いつも三人で遊んでいる。
母親の話によると、ベビーカーに乗って公園に連れて行ってもらったのが最初の出会いらしい。そこからとなると十六年の付き合いという事になる。
くだらない事で笑い合い、もちろんくだらない事で喧嘩もしてきた。
最初に戦国史にハマったのは宗太だった。
二人ほど運動神経の良くない宗太は、よく本を読んでいた。
その中に織田信長の伝記があった。それをきっかけに豊臣秀吉、徳川家康と興味が広がり、気が付けば東西の名将に詳しくなった。
その後宗太は戦国時代のゲームにハマりこんだ。
最初は織田家ではじめ、気が付けば誰も知らないような大名でプレーするようになっていた。
するとすぐに信也が同じゲームにハマった。
二人で天下を統一しようと言って、宗太が伊予西園寺、信也は丹波波多野でプレーしたなんて事もあった。
気が付けばそれ以来、二人は明けても暮れても戦国時代の話ばかりしている。
そんな二人に友江は少し置いてけぼりになっていた。
そこで他の女の子たちと遊ぶとならないのが、友江の不思議なところである。
友江は二人の会話を辛抱強く聞く事で、徐々に戦国時代に詳しくなっていった。今ではすっかり同じレベルで三人で話ができるようになっている。
「実際あそこで今川義元が討たれなかったらさ、今川家ってどうなってたんだろうな?」
信也のその疑問は、大昔から多くの人が抱いていた疑問だっただろう。
歴史に『たら、れば』は無い。だからこそそこには夢幻の妄想の余地がある。
友江は女性であり、そこはそれなりに夢というものがある。
「家格の関係でそれなりに有利な事があったと思うんだよね。だから、上洛くらいはできたんじゃないかな」
その意見に信也は真っ向から反対だった。
「俺は、仮に織田家に勝利できたとして、恐らく美濃の斎藤家には勝てなかったと思うんだよ。結局織田が斎藤になっただけで途中で頓挫していたはず」
そう信也は言った。
だが、「義龍死後の斎藤家の体たらくを考えたら、ありえないでしょ」と友江が笑い出す。
「宗太はどう思う?」
友江がそう言って宗太の方に顔を向けた。
私に賛同してくれるよねという無言の圧を強く感じる。
歩道の信号が青に変わり、横断歩道を四分の一ほど歩いた時だった。
キキキッというタイヤの軋む音が周囲に鳴り響いた。
宗太が何かを言おうとしたその先に、白の高級車が猛スピードで交差点をこちらに曲がってくるのが見えた。
運転席の老人は携帯電話でどこかに電話をしているらしい。
どう考えても交差点を曲がろうという速度ではない。
あっ……
助手席の老婆と目が合う。
車は三人を捕らえてガードレールに押し付け、さらにそのまま歩道に乗り上げブロック塀に激突。
どういうわけか痛みを感じない。
宗太は不思議な感覚に襲われていた。
痛いのではなく感覚が無い。
隣を見ると友江が白目をむいて口から血を吐いている。
信也は完全に意識が無いらしく、ぐったりしている。
車はそんな状況でまだ前進しようとしている。
車内の老夫婦はエアバッグで覆われ姿が見えない。
……息ができない。
徐々に意識が遠くなっていくのを感じる。
宗太は全身から力が抜けていくのを感じた――
****
真っ白な風景の後、三人で遊んでいた日々の事を幼い頃から順に思い出した。
この思い出は何だろう?
三人で遊んでいる映像の後で、覚えの無い映像が流れた。
一人の和装の男性が木刀を構えてこちらを見ている。
自分も木刀を持ち、その男性に打ちかかって行くのだが、軽くかわされてしまった。
それでも諦めず何度も打ちかかった。
するとそのうちの一打がかなり良い太刀筋だったらしく、その男性は必死に木刀で避けようとした。
その勢いで眉間にもろに一打を受け地面に倒れ込んだ。
誰の思い出なのだろう?
少なくとも自分の思い出では無さそうだが――
****
――気が付くと布団の上に横になっていた。
もしかしてあの交通事故から助かったのだろうか?
右手の感覚はある。
左手の感覚もある。
両脚の感覚もある。
目に入る映像は木の板の張られた天井。そこからして病院では無さそうである。
ここはいったい?
体が萎えて上手く動かせず横になっていると、近くで女性の悲鳴のような声が聞こえた。
女性は恐る恐るといった感じでにじり寄ってきて、顔を覗き込んできた。
おばさんといったら失礼なくらいの年齢の女性。
髪をかき上げて後ろで結っている。和装ではあるが少し薄汚れていて細い帯で縛っている。その帯には前掛けのような布が差し込まれている。
時代劇の撮影か何かだろうか?
自分の姿を見ると、その女性は大慌てで部屋から出て行った。
「殿様! 奥方様! 明星丸様がお目覚めになられました!」
学校に行く通学路で歴史好きの友人信也が、朝の挨拶も早々に聞いて来た。
信也の言っている特番は、昨晩放送された『桶狭間の戦い』を特集した番組のことだと思われる。
もちろん見たと答える宗太も少し興奮気味である。
一緒に登校していた友人の友江も、見た見たとその顔は非常に嬉しそうだった。
桶狭間の戦いはなぜ起こったか?
色々な説を紹介していたが、太原雪斎が亡くなったのが痛恨だったと結論付けていた。
その後、松平元康がどのような活躍をしていたのかが語られた。
最後は、織田信長の巧妙な心理戦に引っかかり、油断していた今川義元が打ち取られた。
たいたいそんな内容の番組だった。
宗太、信也、友江は幼馴染で、いつも三人で遊んでいる。
母親の話によると、ベビーカーに乗って公園に連れて行ってもらったのが最初の出会いらしい。そこからとなると十六年の付き合いという事になる。
くだらない事で笑い合い、もちろんくだらない事で喧嘩もしてきた。
最初に戦国史にハマったのは宗太だった。
二人ほど運動神経の良くない宗太は、よく本を読んでいた。
その中に織田信長の伝記があった。それをきっかけに豊臣秀吉、徳川家康と興味が広がり、気が付けば東西の名将に詳しくなった。
その後宗太は戦国時代のゲームにハマりこんだ。
最初は織田家ではじめ、気が付けば誰も知らないような大名でプレーするようになっていた。
するとすぐに信也が同じゲームにハマった。
二人で天下を統一しようと言って、宗太が伊予西園寺、信也は丹波波多野でプレーしたなんて事もあった。
気が付けばそれ以来、二人は明けても暮れても戦国時代の話ばかりしている。
そんな二人に友江は少し置いてけぼりになっていた。
そこで他の女の子たちと遊ぶとならないのが、友江の不思議なところである。
友江は二人の会話を辛抱強く聞く事で、徐々に戦国時代に詳しくなっていった。今ではすっかり同じレベルで三人で話ができるようになっている。
「実際あそこで今川義元が討たれなかったらさ、今川家ってどうなってたんだろうな?」
信也のその疑問は、大昔から多くの人が抱いていた疑問だっただろう。
歴史に『たら、れば』は無い。だからこそそこには夢幻の妄想の余地がある。
友江は女性であり、そこはそれなりに夢というものがある。
「家格の関係でそれなりに有利な事があったと思うんだよね。だから、上洛くらいはできたんじゃないかな」
その意見に信也は真っ向から反対だった。
「俺は、仮に織田家に勝利できたとして、恐らく美濃の斎藤家には勝てなかったと思うんだよ。結局織田が斎藤になっただけで途中で頓挫していたはず」
そう信也は言った。
だが、「義龍死後の斎藤家の体たらくを考えたら、ありえないでしょ」と友江が笑い出す。
「宗太はどう思う?」
友江がそう言って宗太の方に顔を向けた。
私に賛同してくれるよねという無言の圧を強く感じる。
歩道の信号が青に変わり、横断歩道を四分の一ほど歩いた時だった。
キキキッというタイヤの軋む音が周囲に鳴り響いた。
宗太が何かを言おうとしたその先に、白の高級車が猛スピードで交差点をこちらに曲がってくるのが見えた。
運転席の老人は携帯電話でどこかに電話をしているらしい。
どう考えても交差点を曲がろうという速度ではない。
あっ……
助手席の老婆と目が合う。
車は三人を捕らえてガードレールに押し付け、さらにそのまま歩道に乗り上げブロック塀に激突。
どういうわけか痛みを感じない。
宗太は不思議な感覚に襲われていた。
痛いのではなく感覚が無い。
隣を見ると友江が白目をむいて口から血を吐いている。
信也は完全に意識が無いらしく、ぐったりしている。
車はそんな状況でまだ前進しようとしている。
車内の老夫婦はエアバッグで覆われ姿が見えない。
……息ができない。
徐々に意識が遠くなっていくのを感じる。
宗太は全身から力が抜けていくのを感じた――
****
真っ白な風景の後、三人で遊んでいた日々の事を幼い頃から順に思い出した。
この思い出は何だろう?
三人で遊んでいる映像の後で、覚えの無い映像が流れた。
一人の和装の男性が木刀を構えてこちらを見ている。
自分も木刀を持ち、その男性に打ちかかって行くのだが、軽くかわされてしまった。
それでも諦めず何度も打ちかかった。
するとそのうちの一打がかなり良い太刀筋だったらしく、その男性は必死に木刀で避けようとした。
その勢いで眉間にもろに一打を受け地面に倒れ込んだ。
誰の思い出なのだろう?
少なくとも自分の思い出では無さそうだが――
****
――気が付くと布団の上に横になっていた。
もしかしてあの交通事故から助かったのだろうか?
右手の感覚はある。
左手の感覚もある。
両脚の感覚もある。
目に入る映像は木の板の張られた天井。そこからして病院では無さそうである。
ここはいったい?
体が萎えて上手く動かせず横になっていると、近くで女性の悲鳴のような声が聞こえた。
女性は恐る恐るといった感じでにじり寄ってきて、顔を覗き込んできた。
おばさんといったら失礼なくらいの年齢の女性。
髪をかき上げて後ろで結っている。和装ではあるが少し薄汚れていて細い帯で縛っている。その帯には前掛けのような布が差し込まれている。
時代劇の撮影か何かだろうか?
自分の姿を見ると、その女性は大慌てで部屋から出て行った。
「殿様! 奥方様! 明星丸様がお目覚めになられました!」
11
あなたにおすすめの小説
仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか
サクラ近衛将監
ファンタジー
レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。
昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。
記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。
二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。
男はその未来を変えるべく立ち上がる。
この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。
この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。
投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。
勇者パーティのサポートをする代わりに姉の様なアラサーの粗雑な女闘士を貰いました。
石のやっさん
ファンタジー
年上の女性が好きな俺には勇者パーティの中に好みのタイプの女性は居ません
俺の名前はリヒト、ジムナ村に生まれ、15歳になった時にスキルを貰う儀式で上級剣士のジョブを貰った。
本来なら素晴らしいジョブなのだが、今年はジョブが豊作だったらしく、幼馴染はもっと凄いジョブばかりだった。
幼馴染のカイトは勇者、マリアは聖女、リタは剣聖、そしてリアは賢者だった。
そんな訳で充分に上位職の上級剣士だが、四職が出た事で影が薄れた。
彼等は色々と問題があるので、俺にサポーターとしてついて行って欲しいと頼まれたのだが…ハーレムパーティに俺は要らないし面倒くさいから断ったのだが…しつこく頼むので、条件を飲んでくれればと条件をつけた。
それは『27歳の女闘志レイラを借金の権利ごと無償で貰う事』
今度もまた年上ヒロインです。
セルフレイティングは、話しの中でそう言った描写を書いたら追加します。
カクヨムにも投稿中です
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~
仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
断罪済み悪役令嬢に憑依したけど、ネトゲの自キャラ能力が使えたので逃げ出しました
八華
ファンタジー
断罪済みの牢の中で悪役令嬢と意識が融合してしまった主人公。
乙女ゲームストーリー上、待っているのは破滅のみ。
でも、なぜか地球でやっていたオンラインゲームキャラの能力が使えるみたいで……。
ゲームキャラチートを利用して、あっさり脱獄成功。
王都の街で色んな人と出会いながら、現実世界への帰還を目指します!
マルチバース豊臣家の人々
かまぼこのもと
歴史・時代
1600年9月
後に天下人となる予定だった徳川家康は焦っていた。
ーーこんなはずちゃうやろ?
それもそのはず、ある人物が生きていたことで時代は大きく変わるのであった。
果たして、この世界でも家康の天下となるのか!?
そして、豊臣家は生き残ることができるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる