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しおりを挟む結局、その後一度もラドヤードと顔を合わせるともなく二人の婚姻は無効となった。
そのことに関してウェスペル家から異議を唱えられることもなく、あっさりと両者は無関係に戻った。
揉めなくて良かったことに違いないのだが、イリスはなんだか本当に自分の存在が絨毯にくっついた猫の毛ほどの価値もないようでモヤモヤした。
『本当にこの4年間は私にとって一体なんだったんだろう』
アニスと共にルーチェンス家に帰って来たイリスは今後の身の振り方について考えると憂鬱になった。
「どうしたんですか?イリス様」
「これからどうすればいいのかわかんないの」
イリスはため息をついた。
「学校ったってさ、私と同じ年の子達は高等科でしょ?とても勉強についてはいけないわ。
かといって今更何歳も年下の子達と机を並べる覚悟もないし」
「イリス様の美貌があれば嫁入り先には困らないんじゃないですか?」
「・・・私にはちゃんとした家の奥様業が務まる力量はないわ。
そういう教育は受けてないもの」
「これから頑張ればいいのでは?」
「・・・この前から何回かお茶会に呼ばれて出席したじゃない?
誰とも全然話が合わないの。
別に意地悪されたわけではないのよ。
・・・だけど、なんだか疎外感があって居心地が悪かったわ」
「4年分なんて、すぐに取り返せますって!」
アニスは励まそうと明るく言った 。
「・・・ううん、違うの。何て言えばいいか分からないけど、『努力して見返そう!』とか、そういう気分にならないの。
なんか居心地悪いっていうか、私の居場所はここじゃないっていうか」
「田舎の畦道でスカンポ齧ってましたからね」
アニスがいたずらっぽく笑う。
「でも、あの立ちションを目撃して以来、道端に生えているものを口に入れるのは怖くなったわ」
「私たち、危険な遊びをしていたんですね」
へへへ、と笑って、
「まあ、面倒なことは後で考えることにして、とりあえずお菓子でも食べようか」
と一服することにした。
「妻として受け入れられなかったのは分かるわよ。
意に沿わぬ結婚をさせられて頭に来てたんだろうなって、それも分かる。
だけどさ、それを言うなら私だって被害者じゃない?
しかも8才も年下のチビ」
アニスは菓子を頬張りながらウンウンと頷いている。
「田舎に閉じ込めるのは構わないけど、せめて最低限の教育くらい手配してくれても良かったんじゃないかなあ~って」
「毎日ほっつき歩いて楽しかったですけどね」
「子供だもん。遊んでても何も言われなければ遊ぶよね。
家庭教師を雇うお金がもったいないなら地元の子供が通う学校に行かせるとかさ。
ほんの少しでも私のことを考えてくれる気持ちがあったら、それくらいのことしてくれるよね?」
イリスはポップコーンを掴んで口に放りこんだ。
そしてスカートにこぼれたカスを床にはたき落として手のひらをスカートで拭いた。
「・・・わかってんの。自分のせいだって。
賢い子なら他人に言われなくたって分かるもんね。
自分に必要なものは何か。
自分はどうするべきか。
・・・でも、私は気づかなかった」
「仕方ないですよ」
「・・・違うの。
もし地元の学校に行くことを希望していたら、私達二人で通ってたでしょ?
私は自分だけでなくアニスからも教育の機会を奪ったんだわ。
ダメな主人よ」
アニスは落ち込む主人の両手を握った。
「イリス様はダメなご主人なんかじゃありません!
きっとイリス様の進む道は見つかりますから」
二人はポップコーンでベタベタした手を握り合って、
「これからも一緒よ!」
と誓った。
再興したルーチェンス家の為に社交は必要、という兄に連れられてイリスは夜会にやって来た。
踊れないのにうっかりダンスに誘われたりしたらかなわない。
イリスは目立たないように端っこでうろうろしていた。
それでも入れ替わり立ち代わり男達がダンスの誘いにやってくる。
足首を痛めているから、と誤魔化してちょっとずつ移動する。
移動先で遭遇した飲食コーナーには色彩豊かな見るからに美味しそうな料理やお菓子が並んでいて、心惹かれたイリスはいくつか摘まんでみたけれど、
『確かに美味しいけど、私にはポップコーンや農家のおばちゃんが作ってくれた揚げパンの方が口に合うな』
いよいよ退屈でこの場にいるのが苦痛になってきた頃、
一人の男が真っ直ぐイリスに向かって歩いて来た。
ゲゲゲっ。あれはラドヤード!
目を潤ませ色香を漂わせて歩くラドヤードに周囲のご婦人方は釘付け。
みなさ~ん、騙されないでぇ~。そいつは不誠実な男だよ~。
男はイリスの前まで来ると、
「お嬢さん、また会えましたね」
と微笑んだ。
『あー土手で立ちションしてた人ですね』
「貴女にもう一度会いたくて 我の心は昼の太陽に焼かれ 夜の星の光に射ぬかれた」
ポエマーかよ。
「自己紹介しても?」
イリスは仕方なく頷く。
「ウェスペル子爵家、嫡男ラドヤードと申します」
知ってるけどな。
「お名前を伺っても?」
花のように柔らかな微笑みを浮かべたイリスは女神のように美しく、ラドヤードの心臓ははね上がった。
「ルーチェンス伯爵の長女、イリスと申します。16才ですわ」
「・・・・・」
この顔!!アニスにも見せたかったわ~!
これって、これって、もしかして、
ざまぁ
ってヤツじゃない?
ざまぁ!!
やった!やったよアニス!私、勝った!
何に勝ったのかはわかんないけど、勝った気がする。
きっとそんなに心配しなくても、なんだかんだ言って、これからもうまくやっていけるんじゃないかな。
アニス、今から帰るから待っててね。
(おしまい)
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凄く楽しかったです🤣
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これぞ『ざまぁ』だと私も嬉しくなりました😌
ばあやになって、お嬢様、大変よろしゅうございましたね✨
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