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しおりを挟む「どうすればいいの?」
きっと数時間の内にラドヤードは邸に帰ってくるだろう。
やっともうすぐ自由になれるのに・・・。
あっ!と言ったアニスが手をポンと打った。
「ブスになればいいんですよ」
「どういうこと?」
「一目惚れってことは、イリス様の性格とか人間性とか、趣味志向とか、中身はどうでもいい、見た目だけに惹かれたわけです」
「最低なヤツ・・・知ってたけど」
「ならば、イリス様をブスにすれば興味を失くすんじゃないでしょうか」
なるほど。
そんなわけでメイク・ダウン作戦が始まった。
イリスは名家のお嬢である。しかし、本格的な教育が始まる頃に家は没落し貧乏になった。
加えて他の同い年の子女達が学校で勉学に励む時期には結婚し田舎に閉じ込められた。
いつも一緒にいるメイドのアニスはイリスが9才の頃に路上から拾ってきたテリビリス男爵の庶子である。ルーチェンス家没落後はしばらく無給で働いてくれていた無二の親友でもある。
いつも寄り添って生きてきた二人だが、揃ってまともな教育は受けていない。
彼女らの、知識の源は大衆ゴシップ雑誌なのである。
だから少々悪ふざけが過ぎる傾向がある。
「ここんとこをこ~やって~」
眉毛を太くカモメのようにつなげる。
「ちょっと、貸して」
アニスからひったくった眉墨をイリスは自分の鼻の穴の周りに塗りつけた。
「うわっ!鼻の穴でかっ!!」
そして脱脂綿をちぎって頬に入れる。
膨らんだ頬っぺたにグリグリと赤い丸を描く。
「すっごーい!すっごいブス!」
二人で顔を見合わせて笑う。
イリスが上唇を押し上げて歯が見える状態にして、
「お久しぶりにお目にかかります。
ラドヤード様」
と脱脂綿のせいでフガフガ喋ると、アニスが
「ちょっと、ヤメテ!」
と死にそうな顔で笑う。
「バッチリですよイリス様!」
「どうだ!かかってこいや!」
フガフガ・・・。
この顔を見たらラドヤードはどんな反応をするだろうか。
さすがにフザケ過ぎだと怒るだろうか。
イリスとアニスは楽しみすぎてゲラゲラゲラゲラ笑い続けた。
それなのに。
二人で力を合わせて作り上げた渾身の力作だったのに・・・・。
結局その日ラドヤードがイリスに面会を求めることはなく、夕食に呼ばれることもなく、翌朝彼は王都に戻って行った。
「「・・・・・・」」
「・・・まあ、会わずに済んだから良かったんじゃないですか?」
「・・・そうだけど」
「・・・そうだけど?」
「・・・なんかムカつく!!」
「ムカつきますよね」
「あの人本当に私のことなんてなんとも思ってないのね。
思ってないっていうか、記憶から抹殺してるんでしょうね」
「ラドヤードって、クソって意味ですかね?私、教養ないんでわかりませ~ん」
ホントは赤い門とかいう意味らしいがどうでもいい。
「まあね、同情できる点もあるとは思うわよ。
20才の男が12才を嫁にしろっていわれても無理なのは分かるもの」
「ですよね、20才といえば、やりたい盛りですもんね」
「穴という穴を見れば、どこにでも突っ込みたいお年頃よね」
「女のことは『穴』って呼んでそうですよね」
「だからさ、12才は相手にできないってのは分かるけど、4年だよ?
4年の間に手紙をくれるとか花束の一つでも贈ってくれるとか、なんか気遣いがあれば私の気持ちも違ってたと思うのよ。
お互い不運でしたよね~。配偶者としてはダメだったけど良き友人になれるといいですね~とかさ。
だけど、完全に無視じゃない?
バカにしてると思わない?」
「な~にが『ああ、美しい女性よ』よね?」
「あの人『馬車でお送りしましょうか?』とか言いながら手を差し出してきたのよ。
あれって×××触った手よね?キモっ!」
「あり得ませんよね、キモっ!」
「っていうか、殿方ってご不浄にいった後でちゃんと手を洗ってるのかしら?」
「×××触った手で、あっちこっち触ってるんですかね?」
「お店の商品とか」
「×××触った手でパン捏ねたりしてるんですかね?」
「で、×××触った手でご令嬢の髪を撫でたりしてんのよ~」
「や、ヤメテくださいイリス様」
二人はまたゲラゲラゲラゲラ笑った。
笑い疲れてため息をついたアニスが、
「・・・でもラドヤード様、相変わらず美しかったですね」
と呟いた。
「・・・私も12才で結婚することになって、不安でしょうがなかったわ。
結婚式でラドヤード様を見た時
『ああ、私この人のお嫁さんになるのね』
って、胸ときめいちゃったのよね~」
「イケメンですもんね」
「あの時の自分を殴りたいわ!!」
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