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5人目の女
しおりを挟む「みなさん、こちらは私の遠縁にあたるエレーヌ・コリニー子爵令嬢よ」
「初めましてエレーヌです」
「エレーヌは結婚はしなかったのですが、私達と同じ被害者仲間なんですの。
仲良くして差し上げてね」
皆が其々互いに自己紹介をする。
「結婚せずに逃げ出せて幸運でしたわね」
ミレイユが羨ましそうに言った。
「その点ではそうなんですけど、有り体に申しますと婚姻に至らないほど嫌われていたということですわね」
「あら、ジルベール様が女性に対してそこまで関心を持つのは逆に珍しいと思いますが」
「ジルベール様からも嫌われてましたけど、それ以上にお義母様から毛嫌いされていましたから」
「あの人の気に入る嫁なんて全人類探したって見つからないわよ」
「私の他にも婚約者候補としてあの家で暮らして追い出されたご令嬢が何人もいるんですけど、中には
『私の言うことは絶対だ!逆らったら即座に殺す!』
ってジルベール様から喉元に剣を突きつけられたご令嬢もいらしたそうよ。
『恐怖のあまり気絶しちゃったんですよ』
って家政婦のシノが嬉しそうに笑って私に教えるんだから狂ってるわ」
皆 言葉を失くして呆然としている。
「・・・あの人達ってそこまで偉いの?」
セリーヌの声は怒りで震えていた。
「さあ?富と権力を併せ持ち、誰もが見とれる絶世の美男子なら何をしても許されるくらいに思っていらっしゃるんじゃなくて?」
カトリーヌが嫌味っぽく抑揚をつける。
「私はあの一件以来、男性の顔なんてどうでも良くなったわ」
「私も」
「美形だ美形だって皆さん持ち上げるけれど冷たい顔だわ」
「蛇みたいよね」
「蛇顔、蛇顔」
「まあ、どんなに美しくったって誰でもいずれは衰え醜くなるものだわ。
年を取って美も力も失った時に心から微笑みかけてくれる人が周りに何人いるかで人生の価値は決まる。
私はそう思っているのよ」
「流石はカトリーヌ様ですわ」
「まあ、蛇男は苦虫噛み潰した顔で一生誰にも愛されず孤独に生きればいいんですわ」
「それが、そうでもないみたいなんですよ」
皆の視線がエレーヌに集中した。
「どうやら今回は最長記録を更新中らしくて、かれこれ半年近くもってるみたいですよ。
このまま結婚するんじゃないかって」
「・・・・へぇ~」
「・・・お相手はどちらのご令嬢なのかしら?」
ジルベールのことは嫌いだが、この国でも最上級の令嬢である自分達を全否定した男が認めた女性がいるというのが事実ならば、なんとなく面白くない、というのが彼女達の共通した心情であった。
「クラリス様ですわ。ダンテス男爵家の」
「・・・存じ上げませんわね」
「私も・・・」
「どんな方ですの?」
「そうですね。
とにかくおとなしくて地味」
「お綺麗なご令嬢なのかしら?」
「失礼だけど美人にはほど遠い容貌をしていらっしゃいますわ。
貧相、というのが一番しっくりくるような」
「・・・そうなの」
あ、でも、とエレーヌは続ける。
「人格は良い方だと思いますわ。
私もあとから思い出したのですが、クラリス様とは初等教育学校で同級生だったんです。
もっとも3年生の途中で来なくなってしまったんですけどね。
意地悪をされて泣いてる子がいると、そっと寄り添ってくれるような優しい人でしたわ。
それがお母様が亡くなって継母が来てから生活が一変したらしくて、学校にも行かせてもらえずに家でこき使われていたそうですわ」
「よく聞く話ですけど酷いですわね」
「でも、碌な教育も受けていない女性がタレーラン公爵家の正妻になるなんて大変じゃないかしら。
そもそもジルベール様はその方のどこが気に入ったのかしらね」
「噂によるとクラリス様は使用人よろしく掃除や洗濯をしたり藪を開墾して芋を植えてみたりしてらっしゃるそうなの」
「なんだが凄いわね」
「帰る実家が無いから必死なんだと思うわ。
そしてそういう従順な態度がジルベール様の気に入ったんじゃないかって」
「妻というより使用人みたいね」
「最近じゃ贅沢な衣服や宝石を買い与えて連れ歩いているって話ですわよ。
ただし、ドレスからアクセサリーから髪飾りの一つに至るまで全てジルベール様が選んでクラリス様はただ与えられた物をありがたく頂戴するそうですけど」
「随分詳しいわね」
「タレーラン家のお抱え宝飾店で学園時代の同級生が働いているんですの」
「まあ、どっちにしても好きなドレスを選ぶ自由も与えてもらえないってことよね」
「それで相変わらずクラリス様は早朝から家事に勤しんでいるそうよ」
「染み付いた奴隷根性・・・」
「ま、幸せの形は人それぞれってことで」
「これ以上被害者が出ないなら喜ばしいことじゃないですか」
「そうとも言えませんわよ」
「今度は私達の子供の世代でまたしても同じ悲劇が繰り返されるんですわ」
「次世代に持ち越される災厄・・・」
5人はなんとも言えない顔をして互いに見つめ合って軽く笑った。
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