4人の女

猫枕

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クラリスお茶会へ行く

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 『お迎えに上がりました。
 あなた様は赤子の頃に拐われた我が国のお姫様なのです』

 なんてね。

 子供の頃のクラリスはあかぎれで痛む手を擦りながら何度もそんな妄想をした。


 いつか美しい王子様が現れて、お菓子の溢れるお城でいつまでも幸せに暮らす・・・。

 クラリスは隣で姿勢良く座っているジルベールをそっと盗み見る。

 ゾッとするほど美しい。

 『いつか王子様が・・・・
でも、この状況は似て非なるもの、
な気がするわ』

 このところクラリスを着飾らせてあちこちと連れ回しているジルベールが今日のお出掛け先に選んだのは有力貴族であるダンテ侯爵家のお茶会だった。

 高級だが似合っていないドレスを着せられて絶世の美男子にエスコートされるクラリスは、たちまち注目の的になる。

 ヒソヒソと陰口を叩かれているのが伝わってきて居たたまれない気持ちになったクラリスは来て早々に帰りたくなってしまった。

 クラリスは仕方なくジルベールについて歩き彼が色んな人と挨拶を交わす後ろで曖昧に微笑んでいた。

 自分の立場がよく分からなかったので、どのように振る舞うのが正解なのか見当がつかなかったからである。

 話し込むジルベールから数歩下がって所在なさげにしていたクラリスに一人の女性が近づいて来た。

 なにか嫌味でも言われるのかと身構えたクラリスに彼女は、


「私のこと覚えていらっしゃらないですよね?

 エレーヌ・コリニーです 」

 申し訳なさそうな顔をするクラリスに彼女は続けた。

「クラリス・ダンテス様ですよね?

 初等教育学校で同級生だったんですよ、私達。

 イジメられた時に庇ってくださったこと、今でも忘れられませんわ」

 と人懐っこい笑顔を向けてきた。

 クラリスは正直エレーヌのことは覚えていなかったが、好意的な態度で接してもらえたことが嬉しかった。

「あちらで少し話しませんか?」

 エレーヌに誘われたクラリスが、でも、とジルベールの方に不安気な視線を向ける。
 
 丁度その時、話終えたジルベールがクラリスに向き直った。


「女同士の交流も大切よ」

エレーヌはジルベールに聞かせるようにクラリスに言ってから、

「エレーヌ・コリニーと申します。

 クラリス様とは初等教育学校時代のお友達なのです。
 
 懐かしいお話もしたいので少しの間クラリス様をお借りしますね」

 ジルベールはエレーヌの少々強引な物言いに圧倒され、あ?ああ、とハッキリしない返事をして、エレーヌはクラリスの背中を押すようにしてテラスに誘導した。


 「お姉さま連れて来たわよ。
 
 こちらが噂のクラリス・ダンテス様よ」


 テラスにもテーブルがセットされて素晴らしい花が飾られ美味しそうなお菓子が並んでいる。

 そこに眩しいほどに美しい女性が座っていた。

「クラリス様、こちらはカトリーヌ・スタール侯爵令嬢よ。

 私の母とカトリーヌ様のお母様がふた従姉妹、まあほとんど他人なんですけど、その縁で可愛がっていただいているの」

 カトリーヌ・スタール侯爵令嬢といえばクラリスでも名前を知っている超有名人。

 そしてジルベール様の最初の夫人。

 クラリスは自分の顔が青ざめるのが分かった。

 きっと

『ジルベール様の寵愛を受けている』

 私がお気に召さないのだろう。

 人付き合いというものが皆無の人生を送ってきたから、こんな風にいとも易々とワナにかかってしまうのだ。


「は、初めまして。

 クラリス・ダンテスと申します。

 カトリーヌ・スタール侯爵ご令嬢にお目にかかる光栄をお与えくださってありがとうございます」

 たどたどしく挨拶をすると、

「緊張しなくていいわよ」

 と本当に優美に微笑んで席に着くよう促してくれた。

 それから飲み物は何がいい?とか、このお菓子が美味しいわよ、とか常に微笑みながら気を使ってくれて、覚悟していた嫌味は一向に飛んでこない。

するとエレーヌが、

「お姉さま、あの男ったら私が挨拶しても気づきもしないのよ?

 私のこと本当に顔も名前も覚えてないのね。

 腹立つわ」


 カトリーヌはクスクス笑い、クラリスはきょとんとしている。


「私がジルベール様と結婚していたことはご存知かしら?」

 クラリスはどんな顔をしたらいいのか分からなかったので、俯き気味に、
あ、はい、と小さく返事した。


「エレーヌもなのよ」


 クラリスはビックリして目を見開いた。


「エレーヌは結婚まではしていないんですけどね。
 今の貴女みたいに婚約前提であの藪の中に行ったのよ」

 カトリーヌはさも可笑しそうにクスクス笑い続けた。

「あ、あの・・・お二人はどういう、・・・その、私に対して」

 するとカトリーヌとエレーヌは二人で吹き出さんばかりに声を立てて笑って、

「いやだ、ごめんなさい。

 怖がらせてしまったみたいね。

 安心して。

 私達、ジルベール様のことは何とも思ってないから。

 まあ、何とも思ってなくはないけど、どちらかというと悪感情かしらね。

 貴女がジルベール様と幸せならそれでいいのよ。

 だけど、もし、何か悩んでることでもあれば、その時は相談に乗るわって、そんな話よ」

 
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