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困惑
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何がどうなっているのかクラリスにはさっぱり分からなかった。
クラリスを迎えに来たジルベールは急に親切になって、ドレスや靴、アクセサリーやバッグに帽子に化粧品、あらゆる高級品を買い与えた。
戸惑うばかりのクラリスだったが、嬉しいというより居心地の悪さの方が勝っていた。
そして困った顔で
「とても嬉しいのですが、高価なものより普段着の方が助かります」
と遠慮がちに言うと、ジルベールは益々嬉しそうに
「やはりクラリスは強欲な馬鹿女どもとは違う」
と笑った。
『どうやら暫くはここに留まることを許されたらしい』
と首の皮一枚でつながったことに安堵すると同時に、これはジルベールが飽きるまでのお遊びなのだとも理解していた。
母も祖父も亡くなってからというもの、クラリスを気にかけてくれる人はいなかったので、ジルベールがなんやかやと贈り物をしてくれるのは嬉しかった。
しかし今まで口にすることのできなかった高級なお菓子を勧められても、何が地雷で相手の機嫌を損ねるか常にビクビクしながらでは美味しさを堪能するどころの騒ぎではなかった。
ジルベールがくれる物はどれも間違いなく一級品だが、クラリスの好みとは微妙にズレていた。
彼はしょっちゅう
「何か欲しいものはないか?」
と聞いてくれるが、選ぶのは全てジルベールだった。
クラリスはいつも体に合わない服を着せられているような、靴擦れを我慢しながらお洒落なハイヒールを履いているような心持ちで毎日を送っていた。
ジルベールが優しくなったのと反比例するようにシノの態度がそっけなくなった。
何か悪いことをしてしまったのだろうかとクラリスは気に病んでいたが、ジルベールが一緒の時は以前と変わらず優しく接してくれたので、気のせいかとも思った。
「君はバイオリンが弾けるのか?」
ある日ジルベールに問われて、
「母に習っていましたが6才まででしたので上手くはありません」
そう答えたクラリスだったがジルベールの求めに応じてポピュラーなセレナーデを演奏すると、流石は天才少女の娘だけあり確かな腕前を感じさせた。
ダンテス家にいた頃、クラリスは家族がクラリスを除け者にして遊びに行った時などにこっそりバイオリンを出して練習していたが、手入れをするお金も無いので最後の頃はG線も弓毛もへたっていたし松脂すら無い有り様だった。
それが戻ってきたバイオリンはジュールが手入れをしてくれたのだろうか、弦も弓毛もキレイに張り替えられていた。
感心するジルベールに ついポロっと
「本当は音楽学校に行きたかった」
とこぼしたらジルベールが即座にバイオリンの家庭教師をつけてくれた。
通ってくる先生の方はたまったものではなかっただろうが、週2回のレッスンはクラリスにとって心踊る時間だった。
ろくに学校に通わせてもらえなかったクラリスは学ぶということに飢えていた。
ところがバイオリン教師は突然クビになってレッスンは終わりを迎えてしまう。
たまたまレッスンの様子を覗き見たジルベールの目に映ったのは、いつもどこか緊張してオドオドとしたクラリスが自分には決して見せない喜びに溢れた笑顔で男性教師に接する姿で、彼にはどうにもそれが許せなかったからだ。
訳の分からないクラリスはジルベールに理由を聞くこともできず、ただ何か彼の気に障ることがあったのだろうと理解するのみだった。
そしてそんな彼の怒りの矛先はいつか突然自分に向けられるのだろうという漠然とした確信のようなものがいつもクラリスの心の隅に巣くっていた。
そんなクラリスが見つけた楽しみがピクニックだった。
朝食で余ったパンにタマゴやハムを挟んだ簡単なサンドイッチを持って散歩に出掛ける。
お気に入りの土手に座って弁当を食べる。
冬の空は澄んでいて清々しい。
青空を見ていると日頃の窮屈から解放されるようだ。
クラリスはバイオリンを弾いたり歌ったりしてストレスを発散していた。
後をつけてきたジルベールに見られていることも気づかずに。
クラリスを迎えに来たジルベールは急に親切になって、ドレスや靴、アクセサリーやバッグに帽子に化粧品、あらゆる高級品を買い与えた。
戸惑うばかりのクラリスだったが、嬉しいというより居心地の悪さの方が勝っていた。
そして困った顔で
「とても嬉しいのですが、高価なものより普段着の方が助かります」
と遠慮がちに言うと、ジルベールは益々嬉しそうに
「やはりクラリスは強欲な馬鹿女どもとは違う」
と笑った。
『どうやら暫くはここに留まることを許されたらしい』
と首の皮一枚でつながったことに安堵すると同時に、これはジルベールが飽きるまでのお遊びなのだとも理解していた。
母も祖父も亡くなってからというもの、クラリスを気にかけてくれる人はいなかったので、ジルベールがなんやかやと贈り物をしてくれるのは嬉しかった。
しかし今まで口にすることのできなかった高級なお菓子を勧められても、何が地雷で相手の機嫌を損ねるか常にビクビクしながらでは美味しさを堪能するどころの騒ぎではなかった。
ジルベールがくれる物はどれも間違いなく一級品だが、クラリスの好みとは微妙にズレていた。
彼はしょっちゅう
「何か欲しいものはないか?」
と聞いてくれるが、選ぶのは全てジルベールだった。
クラリスはいつも体に合わない服を着せられているような、靴擦れを我慢しながらお洒落なハイヒールを履いているような心持ちで毎日を送っていた。
ジルベールが優しくなったのと反比例するようにシノの態度がそっけなくなった。
何か悪いことをしてしまったのだろうかとクラリスは気に病んでいたが、ジルベールが一緒の時は以前と変わらず優しく接してくれたので、気のせいかとも思った。
「君はバイオリンが弾けるのか?」
ある日ジルベールに問われて、
「母に習っていましたが6才まででしたので上手くはありません」
そう答えたクラリスだったがジルベールの求めに応じてポピュラーなセレナーデを演奏すると、流石は天才少女の娘だけあり確かな腕前を感じさせた。
ダンテス家にいた頃、クラリスは家族がクラリスを除け者にして遊びに行った時などにこっそりバイオリンを出して練習していたが、手入れをするお金も無いので最後の頃はG線も弓毛もへたっていたし松脂すら無い有り様だった。
それが戻ってきたバイオリンはジュールが手入れをしてくれたのだろうか、弦も弓毛もキレイに張り替えられていた。
感心するジルベールに ついポロっと
「本当は音楽学校に行きたかった」
とこぼしたらジルベールが即座にバイオリンの家庭教師をつけてくれた。
通ってくる先生の方はたまったものではなかっただろうが、週2回のレッスンはクラリスにとって心踊る時間だった。
ろくに学校に通わせてもらえなかったクラリスは学ぶということに飢えていた。
ところがバイオリン教師は突然クビになってレッスンは終わりを迎えてしまう。
たまたまレッスンの様子を覗き見たジルベールの目に映ったのは、いつもどこか緊張してオドオドとしたクラリスが自分には決して見せない喜びに溢れた笑顔で男性教師に接する姿で、彼にはどうにもそれが許せなかったからだ。
訳の分からないクラリスはジルベールに理由を聞くこともできず、ただ何か彼の気に障ることがあったのだろうと理解するのみだった。
そしてそんな彼の怒りの矛先はいつか突然自分に向けられるのだろうという漠然とした確信のようなものがいつもクラリスの心の隅に巣くっていた。
そんなクラリスが見つけた楽しみがピクニックだった。
朝食で余ったパンにタマゴやハムを挟んだ簡単なサンドイッチを持って散歩に出掛ける。
お気に入りの土手に座って弁当を食べる。
冬の空は澄んでいて清々しい。
青空を見ていると日頃の窮屈から解放されるようだ。
クラリスはバイオリンを弾いたり歌ったりしてストレスを発散していた。
後をつけてきたジルベールに見られていることも気づかずに。
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