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一方その頃クラリスは
しおりを挟むクラリスはジュールに銀行口座を作ってもらいマルティーナにもらった小切手を現金化して預金した。
「これだけあれば当面は困らないんじゃないの?」
そう言ったジュールに、正直 生活費にいくらかかるか知らないクラリスは不安でしょうがなかったので、
「なるべく貯金に手をつけずに働いて生活したいんです」
と答えた。
若い女の都会での一人暮らしは危険だからとジュールの知り合いが大家をしているアパートを紹介してくれた。
ジュールは自分の部屋とも近いので、
「困り事があればすぐに駆けつけるから」
と言ってくれたが、遊び歩いている彼が簡単に捕まるのだろうかとクラリスには疑問だった。
仲間と騒ぐのが好きなジュールは毎晩のように飲み歩いていたが、そう考えるとクラリスが王都に出てきた日に二人が偶然出会えたのはある種奇跡的なことだった。
ジュールは飲んべえが高じて酒場を3つほど経営していた。
クラリスはそのうちの一つラスティ・ネイルズで女給をすることになった。
ジュールはクラリスを夜の酒場で働かせることに反対だったが、お世話になったご恩を少しでも返したいとクラリスはきかなかった。
クラリスはイネスの誕生会に断りの手紙を出した。
ジルベール宅を追い出されて今は庶民街で女給をしていること、今後は平民として生きていくつもりであること。
誰にも顧みられることのなかった自分がお茶会で親切にされて、話をいっぱい聞いてもらえて本当に嬉しかったこと。
生まれて初めて誕生日会に呼んでもらえて嬉しかったこと。
だけどもう貴族の会に出席できるような資格も着ていくものも無いこと。
そして出席はできないけれど心からイネス様のお誕生日をお祝いすること。
そんな気持ちをジュールに手伝ってもらいながら手紙にしたためた。
それから3日ほどたった夜。
ラスティ・ネイルズにエリーヌが現れた。
「明日の昼間、時間ある?」
エリーヌがクラリスを連れて行った先のブティックに待っていたのはカトリーヌだった。
「イネスの誕生日会に着ていくドレスを選ぶわよ」
状況が掴めず戸惑うクラリスにカトリーヌは笑った。
「時間がないから既製品を手直しするだけだけど、どんなのがいい?」
クラリスのファッションショーが始まった。
最初は遠慮していたクラリスだったが、周りに乗せられてあれやこれやと試着するにつれ、段々自分の好みを主張しだした。
「あの若草色の着てみていいですか?」
「あら、いいじゃない。クラリスのミルクティー色の髪にも合うし、肌も明るく見えるわ」
地味な麦藁色、といつも義母と妹に馬鹿にされていた髪もカトリーヌ様にミルクティーと言ってもらえるだけで気分が浮上する。
「ジルベール様はピンク色のドレスを着ている女性が好みなのか、やたらとピンクばかり買ってくださるんですけど、明るいピンクは品がないって思い込みがおありのようで、スモーキー系のくすんだピンクなんですよね。
ああいうのって、色白でしかも薔薇色の頬を持つご令嬢なら上品に着こなすんでしょうけど、わたしのように血色の悪い女が着ると痛んで腐りかかった肉みたいでイヤだったんですよぉ~」
危うく吹きそうになったカトリーヌが平静を装って、
「アクセサリーは私の物を貸して差し上げるから当日は私の家で着付けして一緒に出掛けましょう」
と優しく笑った。
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