4人の女

猫枕

文字の大きさ
17 / 26

一方その頃クラリスは

しおりを挟む

 クラリスはジュールに銀行口座を作ってもらいマルティーナにもらった小切手を現金化して預金した。
 
「これだけあれば当面は困らないんじゃないの?」

 そう言ったジュールに、正直 生活費にいくらかかるか知らないクラリスは不安でしょうがなかったので、

「なるべく貯金に手をつけずに働いて生活したいんです」

 と答えた。

 若い女の都会での一人暮らしは危険だからとジュールの知り合いが大家をしているアパートを紹介してくれた。

 ジュールは自分の部屋とも近いので、

「困り事があればすぐに駆けつけるから」

 と言ってくれたが、遊び歩いている彼が簡単に捕まるのだろうかとクラリスには疑問だった。

 仲間と騒ぐのが好きなジュールは毎晩のように飲み歩いていたが、そう考えるとクラリスが王都に出てきた日に二人が偶然出会えたのはある種奇跡的なことだった。

 ジュールは飲んべえが高じて酒場を3つほど経営していた。

 クラリスはそのうちの一つラスティ・ネイルズで女給をすることになった。
 
 ジュールはクラリスを夜の酒場で働かせることに反対だったが、お世話になったご恩を少しでも返したいとクラリスはきかなかった。



 クラリスはイネスの誕生会に断りの手紙を出した。

 ジルベール宅を追い出されて今は庶民街で女給をしていること、今後は平民として生きていくつもりであること。

 誰にも顧みられることのなかった自分がお茶会で親切にされて、話をいっぱい聞いてもらえて本当に嬉しかったこと。

 生まれて初めて誕生日会に呼んでもらえて嬉しかったこと。

 だけどもう貴族の会に出席できるような資格も着ていくものも無いこと。 

 そして出席はできないけれど心からイネス様のお誕生日をお祝いすること。

 そんな気持ちをジュールに手伝ってもらいながら手紙にしたためた。


 それから3日ほどたった夜。

 ラスティ・ネイルズにエリーヌが現れた。

「明日の昼間、時間ある?」

 エリーヌがクラリスを連れて行った先のブティックに待っていたのはカトリーヌだった。

「イネスの誕生日会に着ていくドレスを選ぶわよ」

 状況が掴めず戸惑うクラリスにカトリーヌは笑った。

 「時間がないから既製品を手直しするだけだけど、どんなのがいい?」

 クラリスのファッションショーが始まった。

 最初は遠慮していたクラリスだったが、周りに乗せられてあれやこれやと試着するにつれ、段々自分の好みを主張しだした。

 「あの若草色の着てみていいですか?」

 「あら、いいじゃない。クラリスのミルクティー色の髪にも合うし、肌も明るく見えるわ」

 
地味な麦藁色、といつも義母と妹に馬鹿にされていた髪もカトリーヌ様にミルクティーと言ってもらえるだけで気分が浮上する。


「ジルベール様はピンク色のドレスを着ている女性が好みなのか、やたらとピンクばかり買ってくださるんですけど、明るいピンクは品がないって思い込みがおありのようで、スモーキー系のくすんだピンクなんですよね。

 ああいうのって、色白でしかも薔薇色の頬を持つご令嬢なら上品に着こなすんでしょうけど、わたしのように血色の悪い女が着ると痛んで腐りかかった肉みたいでイヤだったんですよぉ~」


 危うく吹きそうになったカトリーヌが平静を装って、

「アクセサリーは私の物を貸して差し上げるから当日は私の家で着付けして一緒に出掛けましょう」

 と優しく笑った。








    
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

子供のままの婚約者が子供を作ったようです

夏見颯一
恋愛
公爵令嬢であるヒルダの婚約者であるエリックは、ヒルダに嫌がらせばかりしている。 嫌がらせには悪意しか感じられないのだが、年下のヒルダの方がずっと我慢を強いられていた。 「エリックは子供だから」 成人済みのエリックに、ヒルダの両親もエリックの両親もとても甘かった。 昔からエリックのやんちゃな所が親達には微笑ましかったらしい。 でも、エリックは成人済みです。 いつまで子供扱いするつもりですか? 一方の私は嫌がらせで寒い中長時間待たされたり、ご飯を食べられなかったり……。 本当にどうしたものかと悩ませていると友人が、 「あいつはきっと何かやらかすだろうね」 その言葉を胸に、私が我慢し続けた結果。 エリックは子供を作りました。 流石に目が覚めた両親とヒルダは、エリックと婚約破棄するも、今まで甘やかされたエリックは本当にしつこい。 ねえエリック、知ってる? 「私にはもっと相応しい人がいるのよ?」 非常識な婚約者に悩まされていたヒルダが、穏やかな結婚をするまでの物語。

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

愛されない妻は死を望む

ルー
恋愛
タイトルの通りの内容です。

一年だけの夫婦でも私は幸せでした。

クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。 フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。 フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。 更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。

私との婚約は、選択ミスだったらしい

柚木ゆず
恋愛
 ※5月23日、ケヴィン編が完結いたしました。明日よりリナス編(第2のざまぁ)が始まり、そちらが完結後、エマとルシアンのお話を投稿させていただきます。  幼馴染のリナスが誰よりも愛しくなった――。リナスと結婚したいから別れてくれ――。  ランドル侯爵家のケヴィン様と婚約をしてから、僅か1週間後の事。彼が突然やってきてそう言い出し、私は呆れ果てて即婚約を解消した。  この人は私との婚約は『選択ミス』だと言っていたし、真の愛を見つけたと言っているから黙っていたけど――。  貴方の幼馴染のリナスは、ものすごく猫を被ってるの。  だから結婚後にとても苦労することになると思うけど、頑張って。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

完結 私は何を見せられているのでしょう?

音爽(ネソウ)
恋愛
「あり得ない」最初に出た言葉がそれだった

処理中です...