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ジルベールVSマルティーナ
しおりを挟む「クラリスが出て行っただとっ!!」
視察から帰還したジルベールの声が響き渡る。
「あのぉ、それが奥様とフランシーヌ様が突然お越しになりましてね。
クラリス様は坊っちゃまのお嫁さんとしては認められないから出ていくようにと・・・」
シノは自分がそうなるように仕向けたことはおくびにも出さず、いかにもクラリスを心配しているかのような顔で言った。
「どこに行くとか言ってなかったか?」
「いいえ・・・あ、そういえば海が見たい、とか言ってらしたけれど・・」
シノは王都の庶民街辺りで働いているに違いないクラリスをジルベールが簡単に見つけ出して連れ戻さないように陽動作戦に出ることにした。
「海か・・・」
ジルベールは顔を右斜めに上げてポーズを決めて呟いた。
窓から射し込んだ陽の光でキラッキラッしていた。
クラリスに与えていた部屋に入ると自分が買い与えたドレスやアクセサリーは全て残されていた。
部屋の隅のライティングビューローの上に白い封筒が載っていた。
ジルベール様へと書いてある。
ジルベール様へ
温かい布団で眠らせてくださってありがとうございました。
キレイな服とか靴とか色々買ってくださってありがとうございました。
美味しいご飯とかお菓子とかを食べさせてくださってありがとうございました。
劇とか映画とか初めて観ました。
嬉しかったです。
お体に気をつけて元気でいてください。
いつまでもお幸せに。
クラリス・ダンテス
とかとかとかとか まるで子供の作文のような手紙を握りしめてジルベールは悲しみに震えた。
文章力の無さは単純にクラリスの人生で手紙を書く機会がほぼ皆無だったことに起因するのだが、ジルベールはそれを彼女の純粋無垢の表れと捉えた。
何でも自分に都合良く解釈する傾向にある男である。
ジルベールの脳裏に、あのいつもオドオドして痩せっぽちでアカギレの手に息を吹き掛けながら掃除をするクラリスの姿が浮かんで来た。
『必ず迎えに行くから!』
ジルベールは自分も冷たく接していたことなどすっかり忘れたのか、ヒーロー気取りで拳を握りしめた。
そして本邸へと乗り込んで行った。
「どういうことだ!!」
ジルベールの怒声が響き渡った。
一瞬ひるんだ母親であったが流石は腐っても元王女、尊大な態度という点に於いては負けていない。
「フン、あんな野良犬!」
「なんだと?!」
「お金をあげると言ったら喜んで受け取ったわよ?
所詮お金目当ての卑しいドロボー猫だったのよ」
犬なのか猫なのかどっちなんだ。
「嘘を言うな!」
「嘘だと思うならシノも見ていたのだから確かめてみたらいいわ。
小切手を渡したら金額を確かめてニンマリ笑ったわよ」
そんなはずは無い。
高価な宝石もドレスもなにも持っていかなかったじゃないか。
「クラリスはお前達とは違う!
腹の中はドロドロで足の引っ張り合いをしているくせに着飾って体裁だけ整えてる汚い女どもとは違う!」
「中身がドロドロしてるのは貴方も同じでしょ?
私達みんなそうやって生き延びて来たんでしょ?陰謀と謀略と暴力と金と!
そんな世界に私達と違って心の清らかなあの子を引きずり込むの?」
「汚いことは全て私がやればいい。
貴族社会がクラリスにとって居心地の悪いものなら関わらせないで私が守る」
マルティーニは呆れたようにハアっと息を吐き出した。
「あの子にタレーランの当主夫人は無理よ。
自分でも分かってるから出ていったんでしょう?」
マルティーナは自分が恋い焦がれ、年の離れた兄王に頼み込んで自分のものにした現タレーラン公爵に瓜二つの我が子ジルベールを複雑な思いで眺めた。
どんなご令嬢を送り込まれても気に入らず叩き出してきた息子。
家の存続を考えれば一生独身にさせるわけにはいかないのだが、一方でどんな女性にも見向きもしない態度に安心もしていた。
それがあんな何の取り柄も無い女に夢中になるなんて。
私がもう少し可愛らしい性格をしていたら、旦那様は私を愛してくれたのだろうか。
「とにかく、今後私達のことには口を出さないでくれ」
ジルベールは冷たく言うとその場を後にした。
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