4人の女

猫枕

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イネスの誕生日会

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 イネスの誕生日会は盛大に行われた。

 幼い頃読んだ絵本に描かれていたような豪華な巨大ケーキにロウソクが揺らめく様はクラリスには夢の世界のように見えた。

 祝福の歌のあとイネスがロウソクの火を吹き消すと、会場は一気に盛り上がった。

 
カトリーヌの話によると、イネスはジルベールと破局してから実家に戻り、主に社会事業に取り組んでいて本人に嫁に行く意志は無いのだが、諦めきれない両親が誕生日会やクリスマスパーティーなどにかこつけて未婚の男性と出会わせようと躍起になっているそうだ。

 そんなわけで招待客の中にはイネスが好きで呼んだ訳でもない人達もまぎれていた。

 女性陣の中にはジルベールに連れ回されていたクラリスを覚えていた者もおり、彼女達から嫌味を言われたりもしたが、その度にカトリーヌが睨みを効かせて撃退してくれたので大事には至らなかった。

 凡庸な容姿しか持たない下級貴族の娘がジルベールやカトリーヌといったいわばスター貴族に可愛がられていることが彼女達には不思議でならなかった。

 皆が各々イネスにお祝いの言葉を述べに行ったり、互いに旧交を温め合ったり、飲食を楽しんだりしていたところで余興の時間になった。

 舞台上の手品師が美女を箱に詰め込んで呪文を唱えると、反対側の階段の上に瞬間移動した美女がポーズを取った。


 クラリスは魔法を見せられたように驚いていたが、その隣ではしたり顔で

「双子なのさ」

 と隣に立つご婦人の耳元に種明かしの解説をしている紳士がいた。

 メイド達によるイネスが誕生した日の寸劇は、動きもセリフ回しもぎこちなかったが、いかにイネスが使用人たちにも愛されているかが伝わって来る心温まる素敵な出し物だった。


 「次はクラリス・ダンテス男爵令嬢による歌とバイオリンです」

 急に呼ばれたクラリスはその時口いっぱいにミートパイを頬張っていたので慌ててせて笑われた。


 自信無さげに壇上に進み出たクラリスを見て、招待客たちは内心

『こんな冴えない娘に大した芸はできないだろうに』

 と冷やかで、近くの友人達との雑談を始める始末だったが、

『歌曲 王の凱旋 から ~勝利の乙女~』をクラリスが歌い始めると会場は一気に静まり返り、その朗々とした歌声に一同は魅了された。

 本来のクラリスは切々と歌うエレジーの方が得意なのだが、おめでたい席なので頑張って元気良く歌った。

 拍手喝采に気を良くしたクラリスは次にバイオリンを手にした。


『主よ幼子に祝福を』を演奏するとヤンヤヤンヤの大喝采。
 アンコールに速弾きを披露すると皆が大喜びしてくれた。

 イネスもとても喜んでくれて、カトリーヌは、自分も鼻が高いと言ってくれた。

 演奏後は他の客からも次々に声を掛けられワインを勧められたりして、クラリスは生まれて初めてチヤホヤされる体験をした。

何人もからパーティーの誘いを受けたが、

『これが貴族の集まりに出席させてもらう最後だ』

 と決めていたクラリスは適当な愛想笑いで受け流してその場をしのいだ。

 

 明日からは庶民街のクラリスに戻って真面目に働こう。

 きらびやかなパーティー会場を眺めてクラリスは微笑んだ。

 

 




 
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