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しおりを挟む「・・・で?」
準備中のレインボーの4人用のテーブルにスティーブお兄様と侯爵様が並んで座り、スティーブお兄様の向かいに私が座っている。
「申し訳無いことをした」
項垂れるブルネットのイケメンがどうやら私の旦那様のようなのだが、まあ記憶も曖昧で確信も持てないが、前に会った人とは違う気がする。
「えっ・・・・と、ジェフリー様でしたっけね」
「・・・ジェレミーだ」
「あ、・・・・スミマセン・・・あっ、と、はじめまして?」
「・・・はじめまして」
「ああ、良かった!前に婚姻誓約書?だっけ?あれにサインするときにお会いしたのはニセモノ・・・別人だったんですね?
私もなんか違うな~って思ったんですけど、一回会っただろうがって怒られるかと思って、緊張しちゃった。アハハ・・」
向かいの二人はシーンとしている。
間が持たないのでお茶でも淹れようと席を立つ。
「・・・・私が聞いていたのとは随分違う女性だな」
「??」
「母上とヒューズ伯爵夫人に聞かされていたのとは随分違う人物で戸惑っている」
「やはりこの婚姻を仕組んだのはオレの母なんだな?」
「・・・・私には愛する女性が、あ、義兄上?なのかな?が、先ほど屋敷で見かけた彼女のことだが、彼女は男爵家の庶子で父親の籍にも入れてもらえない平民だった。
当然キャッシュ侯爵家の嫁として世間に認めてはもらえない。
そこに浮上したのがシンディー・ヒューズ嬢との婚姻だった。
母と伯爵夫人の話によるとシンディー嬢は体が弱い上に精神を病んでいて、他人と接するのを極端に嫌がると。
だから名目上シンディー嬢と結婚してシンディー嬢は離れに住まわせアグネス、・・彼女の本当の名前なんだが、アグネスを実際の妻として娶ればいいと・・・」
「そんな無茶苦茶な話を了承したのか?!」
「わ、私だって最初は反対した。
だが、ヒューズ伯爵夫人が精神を病んだ行かず後家の居座る家に息子の嫁は来ない、シンディー嬢の生活を侯爵家で一生保障してもらえるなら本人も周囲に煩わされることなく心穏やかに過ごせると・・・。
・・・それに、・・・あの・・・シンディー嬢は出自に事情があって良縁に恵まれることは無い・・・・と。
伯爵夫妻の死後も、侯爵家で生涯面倒を見てくれるなら安心だ、と。
その際ヒューズ伯爵夫人はシンディー嬢の要求はできるだけ叶えて欲しい、と条件を付けたんだ。
元来引きこもりで外に出たがらないが、それでも自由に外に出られないのだから、せめて望む物は与えてやって欲しいと。
だから使用人には何でも希望通りに用立てるように指示していたんだが。
・・・・これは両者にとってウィンウィンな解決策だと言われて・・・」
ああ、なるほどね。
やっぱりハンナお母様がこの件に絡んでいたのね。
分かっちゃいたけど、ちょっとへこむ。
「それとシンディー嬢は本が大好きで本さえあれば幸せなのだと。
本に没頭している時に邪魔されるのをとても嫌がるという話だった。
だから離れにはたくさんの本を用意させた。
追加で読みたいものがあれば好きなだけ買わせるよう使用人にも指示していた」
「本?私、本なんか滅多に読まないわよ。
元々勉強も大嫌いだし、活字見ると眠くなるし。
あ、でもあれだけは好き。
超能力とか幽霊とか秘密結社とか。
月刊 ムーランドは毎月買ってるの。
今月の付録は開運のヤントラなのよ!」
キャッシュ侯爵様はこめかみを押さえている。
私はコーヒーと厚焼き玉子サンドをテーブルに置く。
侯爵様は見慣れない物を前にして戸惑っている様子だ。
早速うまそうにパクつくお兄様を横目におそるおそる手を出す。
「・・・うまい」
「ね!美味しいでしょ?厚焼き玉子サンド。
出汁が決め手なのよ。
でもね、一番のオススメはハリケーンライスだから。
今度 奥様と息子さんも御一緒に来てよ」
深刻な雰囲気を和やかにしようと思って、せっかく明るく言ったのに、二人とも死んだような目になった。
「そんなことよりどうすんだよ。
このまま一生妹を飼い殺すつもりか?」
「・・・一度みんなで話し合う必要があるだろうな・・・」
どうでもいいけど、いい年した男が二人して項垂れて、うっとおしいったらない。
「あのさぁ。夜の仕込みしなくちゃいけないから、そろそろ帰ってくんないかなあ?」
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