16 / 16
女将さんと私
しおりを挟む
私がレインボーに通うようになって間もない頃、女将さんに店の名前をレインボーにした理由を聞いたことがある。
女将さんが言うには、虹は希望と幸福と共生の象徴なんだそうな。
「この辺には色んな人間がいるからさ、
中には差別されたり蔑まれたりしてんのもいるし、昔 犯罪やったのとかもさ。
だけど皆ここでは等しく客さ。
温かいご飯を食べて腹一杯になって安心したような顔になるのさ。
虹は色が集まってキレイな橋を作るんだ。
ここは誰も拒まないんだ」
あの日私は抜け穴から外に出た。
「離れ」での生活は、悪くはなかった。
何もしなくても全て与えられて、悪口も言われない、安全で生ぬるくて退屈な世界。
どこにいても私の周りにはいつも透明な膜が張っていて、他の人と同じ空間にいるようで決して触れることも声が届くこともなかった。
私は一体自分が本当に「いる」のかすら自信が持てなくなっていった。
話し相手のいない部屋の中で色んな自分を演じた。
そのうちに本当の自分ってどんななんだったっけ?分からなくなった。
そして私はレインボーに来た。
気がついたら私の周りの膜がなくなっていた。
ありのまま受け入れられる喜びを知った。
女将さんは貧乏な客が来ると オカズをたくさん盛ったりパンを一個増やしたり お釣りを多く渡したりしていた。
他の客はそれを見てもズルいとか不公平だとか言わない。
「罰を下すのは役人とか神様だろ」
そう言って鼻つまみ者とも平気で笑って話をしていた。
女将さんが娘さんの所に旅立つ前に、何故かこんな話を私にした。
「シンディー、神様っていうのはね、
きらびやかな衣装を着た王みたいな姿で現れるんじゃないんだ。
魔法みたいに願いを叶えてくれるわけじゃないのさ。
ボロボロの服着てさ、みんなから馬鹿にされて蔑まれてさ、惨めな格好してるんだよ。
そうして私らみたいな どうしようもない とるに足りない人間たちとさあ、
一緒に泣いてくれるんだよ」
私を救ってくれたのは 地位も財産も無い
無学な女将さんだった。
女将さん、私はレインボーをしっかり引き継いでいくからね。
落ち着いたら きっと遊びに来てね。
女将さんが作った 来る者は誰でも迎え入れられる場所、レインボー。
カランコロ~ン
「あ、ゴメンなさい 。 満席です」
(ホントに完結です)
読んでいただいて ありがとうございました
女将さんが言うには、虹は希望と幸福と共生の象徴なんだそうな。
「この辺には色んな人間がいるからさ、
中には差別されたり蔑まれたりしてんのもいるし、昔 犯罪やったのとかもさ。
だけど皆ここでは等しく客さ。
温かいご飯を食べて腹一杯になって安心したような顔になるのさ。
虹は色が集まってキレイな橋を作るんだ。
ここは誰も拒まないんだ」
あの日私は抜け穴から外に出た。
「離れ」での生活は、悪くはなかった。
何もしなくても全て与えられて、悪口も言われない、安全で生ぬるくて退屈な世界。
どこにいても私の周りにはいつも透明な膜が張っていて、他の人と同じ空間にいるようで決して触れることも声が届くこともなかった。
私は一体自分が本当に「いる」のかすら自信が持てなくなっていった。
話し相手のいない部屋の中で色んな自分を演じた。
そのうちに本当の自分ってどんななんだったっけ?分からなくなった。
そして私はレインボーに来た。
気がついたら私の周りの膜がなくなっていた。
ありのまま受け入れられる喜びを知った。
女将さんは貧乏な客が来ると オカズをたくさん盛ったりパンを一個増やしたり お釣りを多く渡したりしていた。
他の客はそれを見てもズルいとか不公平だとか言わない。
「罰を下すのは役人とか神様だろ」
そう言って鼻つまみ者とも平気で笑って話をしていた。
女将さんが娘さんの所に旅立つ前に、何故かこんな話を私にした。
「シンディー、神様っていうのはね、
きらびやかな衣装を着た王みたいな姿で現れるんじゃないんだ。
魔法みたいに願いを叶えてくれるわけじゃないのさ。
ボロボロの服着てさ、みんなから馬鹿にされて蔑まれてさ、惨めな格好してるんだよ。
そうして私らみたいな どうしようもない とるに足りない人間たちとさあ、
一緒に泣いてくれるんだよ」
私を救ってくれたのは 地位も財産も無い
無学な女将さんだった。
女将さん、私はレインボーをしっかり引き継いでいくからね。
落ち着いたら きっと遊びに来てね。
女将さんが作った 来る者は誰でも迎え入れられる場所、レインボー。
カランコロ~ン
「あ、ゴメンなさい 。 満席です」
(ホントに完結です)
読んでいただいて ありがとうございました
3,965
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(209件)
あなたにおすすめの小説
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」
その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。
王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。
――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。
学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。
「殿下、どういうことでしょう?」
私の声は驚くほど落ち着いていた。
「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
白い結婚をめぐる二年の攻防
藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」
「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」
「え、いやその」
父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。
だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。
妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。
※ なろうにも投稿しています。
【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから
咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。
そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。
しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです
との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。
白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・
沈黙を続けていたルカが、
「新しく商会を作って、その先は?」
ーーーーーー
題名 少し改変しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
酷い境遇を笑って(?)歩いていくサバサバ主人公が痛快でした。お義母様やアグネスさんとも仲良くなってほっこり(❁´ω`❁)
元お義兄様、アタック成功するか?お互いじーさんばーさんに成った頃に主人公が「もー、面倒くさいから好きにすれば?」って折れそう。個人的には折れて欲しくないけどw
愉快な主人公のお話を読ませて頂きまして有難う御座いました!
読んでくださってありがとうございます。
だいぶ昔に書いた話を未だに読んで頂けていることが大変嬉しいです。
ちょっと抜けてる主人公が鈍感力でツライ人生を乗り越えていく感じにしたかったんです。
鈍感にならなきゃやってられない人生だったんじゃないかな、って思うんです。シンディーの人生は。
感想ありがとうございます
友達もいない、自分は邪魔者、必要とされてない、一つの家族を壊した…
と味方のいない環境下で、いろんな自分を演じたらそりゃ「自分」がわからなくなるよね…
空気読めない言動にハンナは反応してたけど、話し相手もいないのに難しいって
読んでくださってありがとうございます。
シンディーは家族や友達には恵まれなかったんですが、一応世話してくれる家政婦さん達はいました。
義母は家政婦さん達はシンディーに優しく接するように指示していたので(自分はできないから)、シンディーが生活面で虐げられるとかそう言うことはなかったんです。
しかしいくら優しくても家政婦さんは家族でも友達でもありませんからあくまでも使用人としての接し方になってしまいます。
そういうわけでシンディーは友達との接し方、とか他人との距離の取り方、とかに疎いところがある感じです。
感想ありがとうございます
赤ちゃんの時に、きちんと育てた乳母がいたとかがないと赤ちゃんは死んでしまう可能性ありますよ。抱っこされたり、笑顔をもらえたりしないと食事だけ与えられても、だめらしいので、そこを書いてもらえれば説得力ももっとあったと思います。主人公が人格者すぎて、凄いとは思いますし、お話としては面白いですが、現実ではないなと思いました。主人公が損をしすぎている感じがして。
読んでくださってありがとうございます。
シンディーは優しい家政婦さん達に適切に養育されては来たけれど、家族としての愛はなかった、という設定です。
義母は意地悪はしなかったけれど優しく話しかけることも遊んでくれることもありませんでした。
その辺のことをもっと詳しく書いた方が良かったかも知れません。
感想ありがとうございます