【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川

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第2話 勇者と冒険者

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 その日、クエストを終えてギルドに向かうと、明るい笑顔が待っていた。

「お帰りなさい、スナイデルさん!」

 ハロルドだ。
 何事かと内心で驚愕していると、彼はわくわくした顔で言った。

「さっき来て待ってたんです! これからお食事に行きませんか?」
「え?」

 ガーゴイルを討伐して一週間ほどだけれど、早くも自由行動が解禁されたのか。

「許可は取ってきたのか……?」

 一応確認すると、ハロルドは自信満々に頷いた。

「ええ、今日の訓練も終了しました!」
「……そうか……」

 勇者の成長に心が暗くなる。そして食事か……と考える。
 いつも屋敷で夕食は食べているけれど、せっかく誘ってくれたし……と悩んでしまう。軽くつまむくらいならいいだろうか。
 そのとき背後の扉が開かれ、黒のフードを深くかぶった男が現れた。

「どけ……邪魔だ」

 スナイデルたちの間に強引に割り入り、ドンッとぶつかりながらカウンターに直進していく。そして麻袋をカウンターに投げつけると、「換金しろ」と粗暴に命令した。
 受付嬢はびくっとしたあと、慌てて麻袋を確認している。
 スナイデルは男の背中を見ながら、「何者だろうか」とその隙のない動きを見て思った。
 体つきはレザー製のコートごしでも戦士として見惚れたくなる。しかし気配は殺伐としており、側にいるだけで魔物と対峙しているような感覚になった。

「スナイデルさん、怪我はありませんか?」

 ハロルドはピリッとした様子で訊いてくる。

「ああ、平気だ……」

 ぶつかったときには力強くて驚いたけれど、怪我はしていない。

「乱暴な人ですね……!」
「……そうだな……」

 ハロルドが今度は男を見据え、スナイデルも観察しつつ同意する。
 換金が済むと男が振り返ってきて、邪魔にならないようにスペースをあける。
 けれども若いパーティの少年少女たちが丁度やって来て、入口のそばで衝突し、「きゃっ」と少女が大きく尻もちをついた。

「ボケッとしてンじゃねえ、グズが」
「す……すみません!」

 フードの男は悪びれず、威圧的で、いくらなんでも見過ごせない。

「俺、注意してきます!」

 しかしハロルドが一足早く前に出て言い放った。

「彼女に謝ってください!」

 次の瞬間、あまりにもいきなりだった。
 フードの男が抜刀し、ハロルドに切りかかってきたのだ。寸止めかもしれないけれど、そうとは思えないほどの殺気がみなぎっており、反射的にスナイデルは剣を抜きながら割り込んだ。
 ギンッと刃がぶつかり、つばぜり合いになる。
 スナイデルは細身ながら怪力だったけれど、男は余裕そうだった。

「何だテメェ……可愛がってほしいのか……?」

 含み笑いしながら色事の最中のような声音で囁いてくる。
 心のどこかで一流の戦士と感じていたけれど、「下衆が」と苛立ちが沸き起こった。
 全力でギギギと剣を押していく。

「ギルドの中だぞ、いい加減にしろッ……!」

 しかし男は余裕しゃくしゃくにクッと喉を鳴らした。

「くだらねえな」

 たわいなく剣をぐっと押し返され、腕力に自信のあったスナイデルは目を瞠った。

「スナイデルさん!」

 ハロルドが加勢して剣を振ると、男は空いたスペースに飛んでいく。
 殺戮が日常のような笑みでゆったりとギルド内を歩き出し、スナイデルは汗を滲ませながら男から距離を保った。ハロルドはすっかり平静な様子で、いつでも受けて立つ、という構えだ。
 そのとき不意に、二階から足音が下りてきた。

「――剣を収めろ、全員だ」

 厳しい口調で告げるのは、ギルドマスターである。
 元は有名な冒険者で、むっちりと筋肉が張り出ており、未だ現役でも問題なさそうな風貌をしている。

「問題を起こすんなら、こっから出てってもらうぞ」

 続けて忠告され、追い出されたら困るな……と思うけれど、フードの男への警戒が解けない。動けずにいると、チッとフードの男が舌を鳴らした。そして先に剣を引いてさやに収め、扉から出て行く。
 スナイデルはちょっと意外な感覚になりつつ剣を収めた。
 嵐のような人物だな……と考えていると、ふと尻もちをついたままの少女が目に留まり、半分無意識で手を伸ばした。

「……平気か」
「あ、はいっ! ありがとうございます!」

 手を掴んで引き起こすと、少女は首元まで赤くなった。そして同じパーティの少年たちと一緒にペコペコと頭を下げてくる。

「……大したことはしていない」

 一気に反応に困りつつ言うと、もう一度「ありがとうございました!」と告げてからギルドの奥へ駆けて行った。むずがゆい気持ちになってくる。

「……スナイデルさん、さっきは助かりました」

 ハロルドは神妙な顔をして述べた。
 あの男に勝ち逃げされた形で、納得がいかないようである。

「いや……」

 スナイデルは男を思い出しつつ首を振った。
 まさか突然抜刀するとは思わないし、遅れを取っても仕方ない。

「まったく、困ったものだ」

 ギルドマスターはカウンターの向こうで唸っており、一瞬、自分のことか?と思ったけれど、さっきの男についてのようである。

「彼は?」

 問うてみると、ギルドマスターは腕を組みつつ答えた。

「ゾルグという六羽の冒険者だ。強さは文句なしだが……問題を起こしてはギルドを転々としていてな」

 自分と同じか、それ以上に歓迎されていない六羽がいるのか……という感想だった。
 ギルドマスターは続けて切り捨てるように述べた。

「あんまり関わらんことだ」

 厄介事はゴメンだと言いたげで、同じく厄介がられているスナイデルは身に突き刺さる思いだった。
 そのとき、ふと、ギルドの面々の視線に気付いた。
 妙に間抜けな顔をしており、何となく怖くなって目を逸らしてしまう。
 受付で今日の報酬を受け取り、急いで立ち去ろうとすると、ハロルドがついてきた。

「あの! お食事は!」
「……軽くなら……」
「本当ですか!」

 ハロルドはぱぁっと顔を明るくしていて、友達とはこういうものだろうか、と考える。
 屋台で串焼肉を一本買ってかぶりついていると、ふと視線が絡み合った。

「……何だ?」

 凝視されると食べにくい。彼は「すみません」と言って視線を外したけれど、それでもさりげなくスナイデルを見つめてくる。どこかうっとりとした眼差しで居心地が悪い。次に誘われたときは二人きりはやめておこう……と決める。
 街を歩けば老若男女の瞳がこぞって向いてきて、女は急に身だしなみを気にしたり、男は喉を上下にさせたりしてくる。
 ユリウスだけ、そういう反応をしないな……と思った。

 夕食時にユリウスの慈愛に満ちた表情を見て、安心して胸が温かくなる。
 彼がいなければ、自分の外見がもっとイヤになっていたかもしれない。
 いつも通りどこに討伐に行ったのかを話し、彼の微笑みがまぶしくてちらちらとうかがう。
 そして、ひと通り話したところで、ユリウスが口を開いた。

「明日、休みをもらったんだ。約束のピクニックに行こう」
「! ああ」

 スナイデルはもちろん頷いた。

「遅くなってすまない」

 ユリウスは申し訳なさそうに謝る。
 最近休みが取れなかったのだ。進軍の用意が佳境に入っているのかもしれない。

「いいんだ」

 花畑はもうシーズンを終えているかもしれないけれど、スナイデルは首を振った。
 いつかは彼から離れなければいけないし、進軍も間近で、色々差し迫るような感覚の中、幸せを噛みしめるような想いだった。



 カンカンカンカン。
 警鐘が鳴り響いたのは夜半のことだ。
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