【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川

文字の大きさ
11 / 14
第3話 魔族と冒険者

しおりを挟む
 距離があって、故郷には一度の転移ではたどり着かなかった。
 さきに回復魔法をヴォルチェにほどこすと、みるみる傷は癒えた。
 そして転移を繰り返し、やがて雪に覆われた村に着いた。ここまで来ればゾルグはもうやって来ないだろう。
 息を吐き出すと、うっすらと白くなる。
 明け方前のため、家々はまだ寝静まっている。
 しかし何もかも昔と変わらない。

「お袋さん、ずっとおまえの帰りを待ってるよ」

 ヴォルチェが家について来てくれて、緊張しながら扉をノックする。
 扉が開くと、現れたのは若い女性だ。魔族は成人してから何百年も老いない。

「スナイデル……!」

 女性は泣き出しそうな顔になり、スナイデルの胸に飛び込んできた。同じくらいだった身長を、とっくに追い越してしまった。

「母さん……」

 抱きしめた体は随分痩せていて、喉の奥が熱くなってくる。

「お帰り、お帰り、スナイデル……!」

 母はいつまでもスナイデルを抱きしめていた。

「うん……ただいま……」

 母が落ち着くと、ヴォルチェは「明日の昼過ぎにまた来る」と言って去った。
 スナイデルは4年前から変わらない部屋に入り、懐かしさを感じながらベッドに横になった。天井を見て、こんなに小さな部屋だったんだな……と思う。その一方で、心のほとんどはユリウスのことで占められていた。

 あの男のことが憎い。
 しかし……彼は命の恩人で、4年間、間違いなく優しかった。
 どうして魔族の子供を助け、そして記憶を改竄し、屋敷に置いたのだろうか。

 騎士たちに囚われたとき、ユリウスは「彼は何も知らないんだ」と叫んでいた。
 あの必死さはどこから来るのだろう。
 勇者が「掛け合う」と言ってくれたけれど、その後どうなっているのだろう。
 無事だろうか……という思考が頭を過ぎった。
 体は疲れ切っていたようで、そのうち睡魔が訪れた。




「スナイデル、食事にしましょう」

 昼前に母に起こされ、朝昼兼用のような食事を取る。母はスナイデルの顔をずっと見ていて、帰ってきたのだと確かめているようだった。
 昼過ぎにヴォルチェがやって来て、4年前と変わらない村を歩く。
 相変わらず、寒くてまずしい土地だ。人間たちが暮らす地域とも離れており、進軍が始まっても狙われにくいだろう。しかし戦争の備えもないため、もしも襲われたらひとたまりもない。
 ユリウスは4年前、どうしてこの近辺の森に来ていたのだろう。……もしかすると、偵察だったのではないか……。

 村人たちはスナイデルを見ると、「お帰り!」「無事で良かった……!」と胸を熱くした様子で声をかけてくる。さらに「すっかり綺麗になったのう……!」と言われ、返答に窮する。
 そして村はずれまで様子を確かめてから、スナイデルはヴォルチェに切り出した。

「一度、あそこに戻ろうと思う……」

 即座にヴォルチェは目を剥いた。

「……は!? 嘘だろう! やっと帰って来たのに!?」
「進軍の状況が知りたい。それに……俺を捕まえていた騎士に話を聞きたい」

 足下の雪を見つつ言うと、ヴォルチェは激しく首を振った。

「いや……いやいやいや、危険すぎる! 勇者もあのハーフ野郎もいるんだぞ! つーかハーフ野郎の方は俺らの魔力を探知できるみたいだし!」
「遭遇したら、すぐに転移する」
「おまえ、お袋さんを置いて行くのか!?」

 胸が痛くなり、スナイデルは顔を強ばらせた。
 けれど、それでも……と思う。

「進軍されたらここも危険だろう。それに、今の勇者は知り合いで――」

 口にして、甘い考えだと気付いた。
 勇者は魔族の天敵で、彼との関係なんて今は何の意味もない。

「知り合いだったのはおまえが人間の姿だったからだろ!?」

 ヴォルチェは困惑をあらわにしており、その通りだった。
 しかし勇者ハロルドが敵に回ろうとも、じっとしてなんていられなかった。
 ユリウスに話を聞きたい。彼は拘束されていて、ハロルドが何とかしてくれるかもしれないが、最悪の場合は処刑されるだろう。拷問されて命を落とすこともある。彼の行動の理由を聞くまでは死なれては困る……。考えながら「処刑されていたら」とか「拷問器具が使われていたら」と想像すると、血の気の引くような感覚がした。
 憎いのに、居ても立っても居られない。

「……日暮れ前には戻ってくる。無茶はしない」

 するとヴォルチェは肩をわなわなと震わせた。
 顔を歪めたり、唇を噛んだりする。
 そしてひとしきり唸ってから、覚悟を決めたように口を開いた。

「……わかったよ! 俺も行く!」
「え? いや、一人でいい」

 スナイデルは内心少し慌てた。巻き込みたくはない。

「ぜってぇ一緒に行く!」

 しかし、ゆずらない態度で宣言される。
 冒険者時代に染み付いた孤独感のせいか、スナイデルはつい頼もしく感じてしまった。ソロでは何かあったときに対処できないけれど、誰かいたら対処できるだろう。

「……ありがとう」

 小さく微笑むと、ヴォルチェは「いーよ」と言って頬を染めた。



 
 転移を繰り返し、王都に戻ってくる。
 フードを被り、魔族とはわからないようにしているけれど不審者そのものである。
 それからまずは、危険人物である勇者ハロルドとゾルグの魔力の気配を探る。
 すると近隣の森からゾルグの気配を察知した。動き出す様子は無い。
 厄介なので、興味を失ってくれるといいが……と願う。

 それから勇者の気配を探してみるけれど、見つからず、出かけているようだ。
 王都が襲撃されたばかりなのに疑問に感じつつ、ユリウスの魔力の気配を探っていく。
 彼の魔力は目立つ特徴がなくて探しにくい。
「既に殺されているのでは」と考えるたび、何だか足下がぐらついて焦燥感が込み上げてくる。
 そのとき、城の地下からユリウスの気配を感じた。

 生きていたことに一瞬安堵したものの、彼の周囲には消音の結界が張られており、何かをしているようだ。
 心臓がドクドクと早鐘を打っている。一刻も早く向かいたい。
 しかし……同時に、今更会うのが怖くなっていた。
 もしも話を聞いたとき、「懐いてくる様子が滑稽でおもしろかったから」なんて言われたら……。いや、そのときは氷漬けにしてしまえばいいのだ。
 スナイデルはゴクリと唾を飲み込んでから、ヴォルチェに声をかけた。

「……見つけた。行くぞ」

 ヴォルチェが「おう」と短く頷く。
 そして転移した先で、スナイデルは目を瞠った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

王太子殿下に触れた夜、月影のように想いは沈む

木風
BL
王太子殿下と共に過ごした、学園の日々。 その笑顔が眩しくて、遠くて、手を伸ばせば届くようで届かなかった。 燃えるような恋ではない。ただ、触れずに見つめ続けた冬の夜。 眠りに沈む殿下の唇が、誰かの名を呼ぶ。 それが妹の名だと知っても、離れられなかった。 「殿下が幸せなら、それでいい」 そう言い聞かせながらも、胸の奥で何かが静かに壊れていく。 赦されぬ恋を抱いたまま、彼は月影のように想いを沈めた。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎月影 / 木風 雪乃

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

果たして君はこの手紙を読んで何を思うだろう?

エスミ
BL
ある時、心優しい領主が近隣の子供たちを募って十日間に及ぶバケーションの集いを催した。 貴族に限らず裕福な平民の子らも選ばれ、身分関係なく友情を深めるようにと領主は子供たちに告げた。 滞りなく期間が過ぎ、領主の願い通りさまざまな階級の子らが友人となり手を振って別れる中、フレッドとティムは生涯の友情を誓い合った。 たった十日の友人だった二人の十年を超える手紙。 ------ ・ゆるっとした設定です。何気なくお読みください。 ・手紙形式の短い文だけが続きます。 ・ところどころ文章が途切れた部分がありますが演出です。 ・外国語の手紙を翻訳したような読み心地を心がけています。 ・番号を振っていますが便宜上の連番であり内容は数年飛んでいる場合があります。 ・友情過多でBLは読後の余韻で感じられる程度かもしれません。 ・戦争の表現がありますが、手紙の中で語られる程度です。 ・魔術がある世界ですが、前面に出てくることはありません。 ・1日3回、1回に付きティムとフレッドの手紙を1通ずつ、定期的に更新します。全51通。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

『聖クロノア学院恋愛譚 』記憶を失ったベータと王族アルファ、封印された過去が愛を試すまで

るみ乃。
BL
聖クロノア学院で、記憶と感情が静かに交差する。 「君の中の、まだ知らない“俺”に、触れたかった」 記憶を失ったベータの少年・ユリス。 彼の前に現れたのは、王族の血を引くアルファ・レオンだった。 封じられた記憶。 拭いきれない心の傷。 噛み合わない言葉と、すれ違う想い。 謎に包まれた聖クロノア学院のなかで、 ふたりの距離は、近づいては揺れ、また離れていく。 触れたいのに、触れられない。 心を開けば、過去が崩れてしまう。 それでも彼らは、確かめずにはいられなかった。 ――やがて、学院の奥底に眠る真実が、静かに目を覚ます。 過去と向き合い、誰かと繋がることでしか見えない未来がある。 許し、選びなおし、そしてささやかな祈り。 孤独だった少年たちは、いつしか「願い」を知っていく。 これは、ふたりの愛の物語であると同時に、 誰かの傷が、誰かの救いへと変わっていく物語。 運命に抗うのは、誰か。 未来を選ぶのは、誰なのか。 優しさと痛みが交差する場所で、物語は紡がれる。

処理中です...