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4.なにそれかわいい
しおりを挟む着ている服に手をかけられたとき、シュエは覚悟を決めた。これまで酒場でも性的な匂いをさせたことのないグラースは、とんでもない性癖の持ち主だったらしい。
知りたくなかったと心底思うが、グラースの記憶に残らないのならシュエが記憶の奥底に仕舞うだけだ。まさか、六時間後まで拘束されたままということはあるまい。……ないよね?
ボタンを外されて下着姿になると、寒さと緊張に肌が粟立つ。少し手が触れただけでも刺激を感じて、ぴくっと動いてしまった。
別にグラースが相手だからじゃないのだと、シュエは意地で憎まれ口を叩く。
「あっ……ちょっと。いくらサディストでも、肌に傷つけるとかはやめてよね」
「まさか」
しかしグラースはそのまま寝室を出て行った。鞭とか持ってきたら嫌なんだけど……と考えていたところ、彼はなぜか薔薇色のネグリジェを携えて戻ってきた。
男だってネグリジェを着ることはある。ただし貴族がほとんどだ。
なんでこんなもの持ってるの? と再びシュエは問うたが、グラースは答えずせっせと着せつけてくる。柔らかい紅色やレースは女性用に見えるものの、サイズはシュエにぴったりだった。
滑らかな肌触りから、シルクに思える。贅沢品だ。あり得ないと思いつつ、グラースの物じゃなくてよかったと内心ホッとした。
ワンピース型のネグリジェを着せられて変な顔をしているシュエを見下ろし、「似合うな」とグラースは一言だけ呟いた。シュエはもっと変な顔になる。
「グラース、これはどういうこと?」
「腹は空いていないか?」
質問に質問で返されて眉根を寄せると、腹が思い出したように小さくくぅ、と鳴った。恥ずかしくて、サッと頬に朱が上る。
(確かに、言われてみればお腹空いているけど……!)
シュエが羞恥に悶えている間にグラースは嬉々として立ち上がり、「待ってろ」と言い残してまた出ていってしまった。もう夜中だけれど、パンとか持ってきてくれるのかな?
ようやく落ち着いて、寝室を見渡す。突飛な部屋というわけでもなく、シュエの住んでいる部屋よりも殺風景なくらいだ。
国王軍に所属する騎士には遠征が多い。シュエもグラースをしばらく見かけないことはよくあったし、家の中でゆっくり過ごすことなどあまりないのかもしれない。
出くわす頻度の割には、シュエはグラースのことを知らない。知っているのは彼が騎士で、平民出身で、あの酒場でよくシェリー酒を飲んでいることくらいか。
シュエは王都から離れた領地で生まれたし、もともとの縁もない。あの酒場に通いだしたとき、グラースから話しかけられて――
(いや、その前に……)
懐かしいことを思い出しかけていたとき、グラースが湯気の立つ器を持って戻ってきた。存外に美味しそうな匂いがして、もう一度腹がくると鳴いた。
「わざわざ作ったの?」
「いや、作り置きがあったから、温めただけだ」
「へぇ」
目を丸くしたシュエが頭を起こして尋ねると、グラースは普通に答えてくれた。一旦棚の上に器を置いて手枷を少し緩め、シュエの上半身を抱き起こす。
この家に来てから、シュエに触れる手は驚くほど優しい。拘束してきたくせに、よくわからない男だと戸惑いを感じる。
もう一度器を手に取ったグラースは、スープとシュエを見比べて躊躇うように瞳を揺らした。
「くれないの?」
「ああ、いや。こんな質素なスープじゃ、口に合わないかと……。シュエは貴族だろう」
「僕が毎日豪華絢爛な食事をとってるとでも? 一人暮らしなの知ってるくせに。普通にそのへんの屋台とか食堂で食べることしかないよ」
「でも、手作りなんてまずいかも……」
「つべこべ煩いなあ。早く食べさせろ~!」
もう深夜に近い時間だが、シュエは食欲に突き動かされて手足をバタバタさせる。支柱に繋がった枷がカシャカシャと音を立てたので、グラースは慌ててスプーンをシュエの口に突っ込んできた。
「うぐ。自分で食べれるんだけど……」
「…………」
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