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しおりを挟む自分で食べたいという主張は無視され、仕方なくシュエは口をもぐもぐした。カブや人参、玉ねぎなどの根菜がメインで、レンズ豆とベーコンが入っている。塩だけで味付けされた素朴なスープは素材の味が染み出していて、期待していた以上に美味しい。
臭み消しのためかセージやローズマリーが使われていて、ハーブの風味もまた良い。これが家庭の味か……と少し感動してしまった。
遠慮なく何度も口を開けて催促する。グラースはシュエの食いっぷりに驚いた顔をしていたが、嫌がることも飽きることもなく具材を掬って差し出してきた。
最後には器を傾けてもらってスープも飲みきり、シュエはふぅと息を吐く。
「美味しかったー……外で食べるものって、濃いめの味付けじゃない? 普通はみんなこんなに優しい味のものを家で食べてるのかな……」
「ただの庶民の家庭料理だぞ?」
「人の手で食べさせてもらったのも初めてだよ」
「……そうか」
シュエが生家にいた時代、親の好みだったのか料理人の癖だったのか、豪華な食材で複雑な味付けのものが多かった。財を見せつけるような食事、家族が揃うことのない食卓。
贅沢だと言われるのだろうが、心から美味しいと感じたことはなかったように思う。
そもそもシュエは父親が使用人に手を付けて生まれた庶子だ。妻との間に子が一人しかいなかったので正式に子として迎え入れられたが、妻と嫡男からは冷遇され、父は浮気ばかりで興味を持たず、母も人生を狂わせたシュエを愛せなかった。
髪は母譲りで平民らしい焦茶色、整った顔立ちや雪のように白い肌は父の家系の特徴だ。ちぐはぐな容姿は誰からも愛されず、ただ贅沢な生活が目の前にあった。
冷めた夫婦だったが第二子が生まれ、父の寵愛を競っていた母は家を出た。シュエの居場所はさらになくなった。早く出ていけ、邪魔者だと言われながら育ち、十六の成人祝いで父から形式的にまとまった金をもらったとき、家を出た。止める人はいなかった。
だから、こんなことで満たされた心地になるのだ。
シュエは腹が満たされると、今度は眠くなってきた。グラースはシュエの口を拭いて、「寝るか?」と問う。素直に頷こうとして、ハッと大事なことを思い出した。
「まさか、拘束したまま寝ろって言わないよね?」
「…………」
「逃げないって」
(逃げるけど。うっかり欲望のまま寝るところだったわ。危なーい!)
しぶしぶといった様子のグラースに枷を外してもらい、シュエは達成感とともに寝台でシーツにくるまれた。逃げるには、グラースを油断させて寝かさないといけない。
「グラースは? 寝ないの?」
「やっと手に入ったんだ。お前が消えてしまいそうな気がして……」
――ああ、これは本当に惚れ薬の効果なのだと、ようやく理解する。グラースは好きな人を自分の巣に閉じ込めて甲斐甲斐しくお世話したいタイプなのだ。
初めこそシュエは身構えていたけれど、必要以上に触れてくることもないしキスさえされない。大事にされるって、こういうことなのだと身を持って知ってしまった。
小さく痛みを訴える胸には気づかないふりをしながら、シュエは「一緒に寝る?」と提案した。潔癖っぽいグラースをからかいたい気持ちもあったし、人は寝台の中が一番油断する。
しかしグラースは顔を真っ赤にして首をブンブン横に振った。まるで童貞のような反応だ。……童貞かもしれないな。
(なにそれ、かわいいんですけど)
そういえば年下だったなと思い出し、初心な反応に勝算があると踏んだ。
いくら心配でもずっと寝ないでいるのは無理だし、シュエも見つめられながら眠るなんて落ち着かない。肌寒いから、一緒に寝てくれると嬉しいな……と最後は上目遣いで見つめると、今度はコクコク頷いてくれた。耳たぶまで赤くなっているのがかわいい。
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