惚れ薬をもらったけど使う相手がいない

おもちDX

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 大きいと思っていた寝台は、グラースが横になると途端に狭くなる。必死で端に寄ろうとしているのが面白く、シュエはあえてピトとくっついてみた。筋肉の多い身体は逞しい弾力があって、温かい。
 しかしグラースの反応はひどいものだった。

「うわぁぁ! 寄るな!」
「なんで? ……好きなんじゃないの?」

 聞いても意味がないから、聞かないでおこうと思っていた言葉が口をついて出る。答えないで、と切望した思いは届かず、グラースはブロンドの睫毛を伏せて頷いた。

「好きだから……、触れると滅茶苦茶にしたくなってしまう」
「…………」
「朝まで抱きつぶして、他の男の記憶がなくなるくらい毎日、俺のことを覚えさせたくなってしまう……」
「わっ。わ、わかったから!」

 慌てて言葉を止める。グラースはこんなにも強い気持ちを隠していたのか……と唖然とし、同時に滅茶苦茶にされたいという欲求が湧いてきてシュエは戸惑った。
 だって、ここまで激しい想いをぶつけられたことなんて、人生で一度もない。

 シュエは慌ててグラースに背を向け、サイドテーブルのランプを消した。頬が火照っているのを気づかれなかっただろうか。
 心臓がせわしなく動いている。聞いた自分が馬鹿だった。

 シュエも反対側に寄ったので、シーツの下、二人の間には子供一人分の隙間ができた。それを寂しいと思わないよう自分を戒めながら、シュエは目を閉じる。

「おやすみ」
「っ……おや、すみ」

 しばらくするとすうすう規則正しい寝息が聞こえてきて、シュエはそっと身を起こした。暗闇に慣れてきた目で窺い見ると、グラースは小さく口を開けて眠っている。

(ふふ、子供みたいな顔してる)

 こんなに早く寝るなんて、きっと相当疲れていたのだろう。そういえば顔を見たのも今日が久しぶりだったから、遠征直後なのかもしれない。
 シュエは寝台を抜け出し、洗面所を借りて用を足す。小さな窓の方を見ると、玻璃ガラスに薔薇色のネグリジェを着た自分の姿が映った。

「う、わ。忘れてた……!」

 均一な玻璃ではないから、長い髪にネグリジェを着ていると女性のように見える。ふと、グラースはこんな女性が好みなんだと思い至り、シュエは顔を歪めた。
 多少綺麗に見られたって、結局自分は男だ。みんな、遊びの相手にしか選ばない。グラースだって我に返ったら似合わないと嗤うだろう。

 こんな服、と苦々しく思いながら脱ごうとしたときだった。窓に、シュエよりも大きな影が映る。

「なにしてるんだ」
「あ」

 シュエはもう一度グラースに連行され、寝台の上に押し倒された。

(それどころか、枷、再び……。終わった……)

 まだ魔法の影響下にあるグラースは、さすがに怒っているようだった。いや、焦ってる? さっき「お前が消えてしまいそうな気がして……」と弱々しく言われたことを思い出す。
 彼の恐れをさっそく実現してしまったのだと改めて実感し、シュエの胸はしくしくと痛んだ。こうするしか方法がなかったとはいえ、勝手に魔法をかけてしまった相手に対しあまりに不誠実だった。

「ごめん……」
「こうすれば、もう逃げない」

 枷だけでは不安になったのか、近づくなと言ったくせにグラースはシュエの身体を抱きしめて寝ることにしたようだ。首の窪みに頭を置かされ、長い腕が檻のようにシュエを拘束する。
 ドクドクと強く拍動する心臓の音が聞こえる。やがてそれも落ち着き、寝息がつむじに落ちてきた。

 まずい。どうしよう。あと数時間で魔法は切れてしまう。ここからどうすれば……?
 必死に考えを巡らせるも、温かい身体に包まれ、穏やかな心音と息遣いを聞いていると自然と瞼が落ちてきてしまう。シュエの身を包むものが心地よすぎて、眠気に抗えない。

 なんとか起きていようとしたのだけれど、それほど時間が経たずにシュエは敗北した。いつの間にか小さな寝室にはすうすうと、二人分の健やかな寝息が響いている。
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