箱入りオメガの受難

おもちDX

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本編

3.瑠璃たんの反抗期

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 毎日約三十分も一緒にいると、なんだか琥珀の気持ち悪さにも慣れてしまった。相変わらずストーカー気質なメッセージは絶えないし、どこから見ているのか同僚に嫉妬したりと粘着質さは全く衰えないが。

 琥珀は大学三回生で、一般教養はほとんど取り終えているから時間に余裕があるらしい。瑠璃に会うために早起きするようになり、逆に生活習慣が整ったという。
 しかしなぜかそれを母親に報告したらしく、「瑠璃さんにありがとうと伝えておいてね」というメッセージを通勤中に見せられてドン引きした。
「どんな話母親にしてんねん。マザコンか!」と頭をはたいたら、嬉しそうににへ、と笑っていて鳥肌が立った。マザコンのドMとかキモすぎてつらい。

 そんなこんなで、ある日話の流れで休日に一緒に飯でも食うかとなった。瑠璃の行ってみたいラーメン屋に同行してくれることになっただけで、決してデートではない。
 相変わらず琥珀は陰気な見た目で服もダサいし。とはいえそれなりに楽しんで食事を終え家の前まで送ってもらうと、自分の部屋のドアの前に男の人が一人立っていた。

「っあー! 忘れてた!」
「ててて敵襲ですか!? 受け身は習ったばかりなので、行けます!」
「瑠璃……お友だちかい?」

 瑠璃の兄、ときが瑠璃の隣に立つ男を見て言った。声は穏やかなのに視線は突き刺さるようだ。

「兄貴、ごめん! 今日来るの忘れてた。……待った?」
「待ってないよ。それで、隣の男は……まさか彼氏じゃないよね? アルファ……じゃないよね?」

 鴇はオメガの弟に対し、清々しいくらいに過保護な男だった。瑠璃が一人暮らしで不便していないか怖い目に遭ってないか、月一で確認しにくるくらいには。

「か、彼氏じゃない! こいつは……なんだ? ストーk……違うな。なんだろ?」
「は、はっ初めましてお兄様! 僕は畏れ多くも瑠璃さんの御身に触れ……」
「っわーーー!!! 黙れ!!!」

 責任を……となおも喋り続ける琥珀の口を塞ぎ、瑠璃は兄もまとめて自宅に連れ込んだ。
 なんでもかんでも喋るな! とんでもない爆弾じゃねーか!

「……瑠璃? どういうことだ?」
「…………」

 咄嗟に嘘で誤魔化そうかと思ったけど、そうすると真実で語れる部分がひとつもない。どうしてこんな、人に言えないような関係の男と一緒にいるのだろうと、瑠璃は頭を抱えたくなった。
 さすがに嘘は無理があるから正直に喋ろうにも、琥珀の二次性を勝手に暴露するのは気が引ける。ダイナミクスは繊細な話題だ。
 
 黙ってしまった瑠璃を鴇は訝しげに観察して、琥珀を睨む。その命令には有無を言わせない迫力があった。

「話しなさい」
「……先日、瑠璃さんが路上でヒートを起こしているのを見つけて、自分が連れ帰りました。僕は、アルファです」
「……なに? まさか番に……」
「おれがこいつに助けてって言ったんだ。あと番にはなってない」

 鴇の怖い顔のおかげなのか、琥珀がだいぶマシな説明をしてくれて助かった。詰問口調をさえぎって瑠璃も説明を付け加える。
 番になってしまうと、基本的にオメガは相手のアルファから逃げられない。子どもができる心配もあるが、瑠璃は抑制剤ピルを飲んでいるのでその点は安心である。

「それで? 彼氏じゃないならどうして今日も一緒にいたんだ。休みの日に、こんな時間まで?」
「……もういいだろっ。兄貴には関係ない」
「……ッ! 瑠璃たんの反抗期……!!」

 改めて問われてしまえばぐぬぬと言葉に詰まり、瑠璃は突き放すように告げた。どうして琥珀に気を許してしまっているのか、こんなストーカーオタク男子と離れがたいと思ってしまうのか、自分でもよくわからないし認めがたい。

 なにが刺さったのかわからない。とはいえいつも通り悶えはじめた鴇を置いて、瑠璃は琥珀へと声を掛けた。

「ごめん。もう、帰っていいから」
「うっ。お兄様に認めてもらうことができず、すみませんでした……」
「なにを認めるってんだよ……はぁ……」

 疲労感に全身が鉛のように重く感じた。琥珀は琥珀で打ちひしがれているし。こんなコミュ力の低そうな奴になにも期待していないっての。
 瑠璃の方こそ、兄との約束を忘れて二人をバッティングさせてしまったことに反省しているのだ。この場にいる三人共が地味に落ち込むという謎の事態に陥っている。

「きょっ、今日はっ、ありがとうございました! 瑠璃さんと一緒に食べたラーメンの味、一生忘れません!」
「あーそうかそうか。こっちこそついてきてもらえて助かったよ、ひとりで並ぶのは勇気いったし。じゃあ、また……」
「月曜の朝ですねっ。お迎えに上がります!」
「なんで……なんで月曜の朝なの……なんなの、そいつ同じ会社のやつなの……?」
「うわっ兄貴!」

 見送りがてら玄関先で話していると、背後のドアから鴇が顔を覗かせていた。ホラーか。夢に見そうだからやめてくれ。
 しかし鴇の疑問はもっともだ。別にこいつは無害だし兄を安心させてやりたいところだが、ストーカーだった琥珀を見つけて一緒に会社まで行くことにしたなんて字面的にもやばすぎる。

(え、なんかおれ間違ったことしてる……?)

 瑠璃がフリーズしているあいだに、琥珀はさも当然のように答えてしまった。

「瑠璃さんが可愛すぎて心配だからです!」
「それは分かる」
「さっさすがお兄様……! 僕は赤川学院大学三回生ですが、朝は時間があるので瑠璃さんが無事通勤できるよう見守ることにしたんです!」
「それは……」
「初めは影からそっと、瑠璃さんの視界に入らないよう細心の注意を払って見守っていたのですが、優しい瑠璃さんは僕が隣に立つことを許してくださって……」
「それは……ストーカー、じゃないか?」
「わああああ! 黙れって琥珀! もう帰れ!」

 変な汗をかきながら琥珀を玄関から追い出し、「気をつけて帰れよ!」と声掛けしてドアを即閉める。
 内鍵をかける背中に刺さる視線が痛い。これから鴇と話し合いするほか選択肢はないだろう。冷や汗が背筋を伝った。

「瑠璃? お兄ちゃんと話そうか」

 もはや誤魔化しを許さない雰囲気に、瑠璃も腹を割る覚悟をした。
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