診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第4章 菜の花、未来を味わう

76話 一口おにぎり

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 魔の水曜日は24時にようやく終わった。
 
はーっ……みんな、大丈夫だろうか?

サテの1階に向かうと、外科も婦人科もスタッフが一斉に降りてきた。

ふっ、やっぱり「終わったのかどうか」が気になるんだね。

結局、入口のブラインドを降ろして終了。

みんな「はー……」と声を漏らしながら、そこらじゅうに腰を下ろした。

「皆さん、お疲れさまでした。交代で何か食べられましたか?」

ぶすーっと、全員が嫌そうな顔をした。

 ――しまった。そうだよな、食べる暇なんてなかったんだ。ごめん。

「今度からは三輪さんたちにお願いして、一口おにぎりを作ってもらいますね」

その瞬間、川瀬が「あっ」と顔をした。

さらに佐久間先生や速見先生、外科ナースたちが妙に気まずそうな顔。

 ――あ、やばい。どうせすぐバレる。懺悔しよう。

「皆さん、ごめんなさい。懺悔します。実は今日、莉子に“一口おにぎり”を作ってもらって、5階の外科フロアに持ってきてもらったんです。

他の人は交代で食事に行けてるだろうと思って。

……でも川瀬先生が朝8時から24時まで勤務で、びっくりして、“もう来ない”なんて言われたら困ると思って、とにかく川瀬先生だけは食べさせなきゃと思ったんですよね……本当にごめんなさい」

「ええ=====っ!!」

 大ブーイングが起きた。

川瀬が慌てて言う。

「えっ? そうだったの? みんなに悪いことしちゃったなぁ……。

俺さ、患者さんが横でパンツ脱いでる間に、香坂さんがポケットから半分つぶれたおにぎりを出して、“あーん”の合図するんだよ。

で、俺が口を開けたら、ぐいっと押し込まれてさ……喉に詰まりそうだったよ」

みんながくすくす笑い出した。

「ほんと、ごめんなさい。家庭用の電気釜だと一度に5合しか炊けなくて、2回やってくれって奥さんに言いにくかったんだよ……。本当にごめんなさい」

西村主任が真剣な顔で口を開いた。

「やはり“交代で食事に行く時間が取れない”ということは、もっと根本的な解決が必要ですよね。

本館の休みを木曜日に変えたらどうでしょうか?

それと、おにぎりは三輪さんや友井さんが平日は勤務していますから、彼らに全員分をお願いしましょう。

家庭用の電気釜で全員分は無理ですから」

理事もうなずいた。

「その通りですね。院長。休診日を変えましょう。診療予約もあるので、早めに動いた方がいいですよ」

「なるほど、そういう発想もあったんだね。主任、本当にありがとうございます。

では、木曜休みに切り替えていきます。

完全に変更できるまでは、おにぎりを作ってもらうので、それで凌いでください」

川瀬が苦笑しながら言った。

「それでさ、俺は明日も普通に大学の仕事だから……悪いけど、ここの仕事は17時までにしてもらえないかな?」

理事が即答する。

「はい、承知しました。いいですよね、院長?」

「ええ? 残念だなぁ~」

みんながクスクスと笑った。

川瀬は肩をすくめて笑う。

「ダメって言われても、もう風呂に入っちゃうよ」

俺もへらへら笑ってしまった。


「じゃあ、今日はこれで終わりにしましょう。本当に今日は申し訳ありませんでした。お疲れさまでした!」 


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