診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

文字の大きさ
107 / 357
第6章 菜の花寮の大騒動

105話 川瀬サイド・寮父見習い・4・南フランス料理

しおりを挟む
 カフェの帰りに、どうしてもランチを再現したいというから、もう一度スーパーに寄って買い物をした。

ネットで作り方を検索し、ランチのメニュー名を探す。

「あっ、これみたいだよ」

「ああ~、さっきのに似てるね。よし、作ろう! あなたは鶏肉を切って」

「はいはい、了解」

こうして――南フランス風の鶏の煮込みが、合作で出来上がった。

俺が贈った赤いバラの花束は、佳代ちゃんが一輪だけコップに挿して窓辺に飾っていた。

それはなんとなく、俺の胸の中にも一輪咲いているような気がした。





夕方になると、次々に寮生たちが帰ってきた。

亜衣「あらっ? なにあれ? わぁ……分かりやすい……」

青山「確かに分かりやすいわ」

あとからやってきた寮生たちも、窓辺の花に釘付けだった。

佐藤「おー、今日はなんか空気が違うぞ?」

ぷっと笑われて、穴があったら入りたかった。

でも佳代ちゃんは平気そうにしていた。

「はいはい、夕飯にするわよ~。今日は川瀬先生との合作だからね」

お鍋ごとテーブルの端にどんと置いて、俺にレードルを渡す。

「川瀬先生、皆に分けてあげて」

ちょっと照れ臭かったが、カレー皿によそって配った。

村上「ええ? 何が出来たんですか?」

吉岡「すごくいい匂い!」

青山「うまっ! なにこれ? 何の香り?」

亜衣「本当だ、美味しい。それに……この香り?」

「教えてあげたら?」と佳代ちゃん。

「えっと、ローリエとタイムとローズマリーにパセリ。あとニンニクとセロリの風味もいいよね」

亜衣「へぇ~川瀬先生、すごい!」

森下「わー、どんどん作ってほしいです」

「いやいや、ほとんど佳代さんが作ってくれたんだよ」

青山「はぁ~、佳代さんがねぇ……」

佐藤「うんうん、佳代さんがねぇ~」

くすくす笑いが広がり、顔が真っ赤になった。

……どこかに逃げたい。

片手で顔を隠したり、すりすりしたりしてもどうにもならなかった。




翌日。大学病院の食堂で岩城が待ち構えていた。

――うわっ、面倒。

ガシッと腕を掴まれる。……これは拉致か?

「おい、最初から話せ。どうなってる? 昨日から気になってしょうがなかったんだぞ」

「もう~よせよ、恥ずかしいだろ」

「……もう恥ずかしいことしたのか?」

「やめろって! 何にもしてないよ」

「本当か?」

ようやく手を離してくれた。まったく、そこかよ。

「一体いつからなんだよ?」

「だから、何でもないって」

「お前さぁ、それで済むと思うのか? 花屋の子から洋子が聞いたんだぞ。赤い花束を作って渡したって」

「なんでそんな地獄耳なんだよ」

「岩城様に隠し事はできないんだからな」

……はぁ、面倒くさい。

俺は黙々とご飯を食べることに集中した。

それでも質問攻めにあう。

岩城に言えば、宮本君に伝わる。宮本君から奥さんの看護師長に伝わり、最終的には菜の花中に広がる。

まったく……。

俺は最後まで何も言わなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

網代さんを怒らせたい

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」 彼がなにを言っているのかわからなかった。 たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。 しかし彼曰く、これは練習なのらしい。 それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。 それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。 それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。 和倉千代子(わくらちよこ) 23 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 デザイナー 黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟 ただし、そう呼ぶのは網代のみ なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている 仕事も頑張る努力家 × 網代立生(あじろたつき) 28 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 営業兼事務 背が高く、一見優しげ しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く 人の好き嫌いが激しい 常識の通じないヤツが大嫌い 恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

芙月みひろ
恋愛
保険会社の事務職として勤務する 早瀬佳奈26才。 友達に頼み込まれて行った飲み会で 腹立たしいほど無愛想な高原宗輔30才と出会う。 あまりの不愉快さに 二度と会いたくないと思っていたにも関わらず 再び仕事で顔を合わせることになる。 上司のパワハラめいた嫌がらせに悩まされていた中 ふと見せる彼の優しい一面に触れて 佳奈は次第に高原に心を傾け出す。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...