診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第6章 菜の花寮の大騒動

104話 川瀬サイド・寮父見習い・3・カフェ編

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 朝の準備もだいぶ分かってきた。

食器も迷わず出せるし、ご飯は俺の担当になった。

最後に残ったご飯をおにぎりにしてラップで包み、冷凍しておくのも仕事のうちだ。

冷蔵庫や冷凍庫のルールも佳代ちゃんに教えてもらった。

考えてみれば、俺は野菜の名前を全然知らない。

赤いのが人参くらいは分かるが、ピーマンが分からない。

料理でよく出てくるが、元の形を知らなかった。

ある時は赤やオレンジや黄色のがあって「これはどうなってるんだ?」と思ったら――パプリカというらしい。

一緒にスーパーに買い物に行き、野菜売り場でじっと観察した。

「値段も最高値と最低値を覚えないと駄目」と佳代ちゃん。

……野菜一つに、こんなに頭を使うのか。


だんだん混乱して疲れたので、前に行ったことのあるカフェへ二人で寄った。

――なんと岩城がいた!

佳代ちゃんを見て、目を真ん丸にしている。ははっ。

しょうがない、紹介した。

「こちらは寮母さんで西村主任です。いつもお世話になってるんだ」

「初めまして、西村佳代です」

「初めまして、岩城です」

岩城「おい、どうなってるんだ?」

「どうもなってないよ。ご飯食べに来ただけ。なんかオススメある?」

岩城「あ、ああ~あるよ。今持って行くから座ってて」

珍しく慌てている。佳代ちゃんは照れくさそうに笑っていた。

すぐにお水とメニューを持ってきてくれる。

「今日は何がお薦めなの?」

「ああ~っと、日替わりランチ始めたんだ。デザートとコーヒー付きで、おかわりもできるよ。

今日の日替わりは南フランス風の鶏の煮込みだ」

佳代ちゃんがにこっとしてうなずいた。

「じゃあ、ランチを二つ。俺はコーヒー」

佳代「私もコーヒー」

「だってさ」

岩城「ああ、了解了解」

……ふっ。なんだか岩城、佳代ちゃんから目が離せないみたいだ。

佳代「わあ~お庭がすごいね。すごくきれいなところ。ちょっと花を見てきていい?」

「ああ、いいよ。一緒に行こうか」

二人でテラスのドアを開けると、一面に緑と花が広がっていた。

佳代「うわ~、なんてきれい! 可愛い!」

俺は庭のベンチに座って、はしゃぐ佳代ちゃんを眺めた。

……それだけで胸がいっぱいになる。

「ここは北原の高校のテニス仲間、中村君がお父さんとやってるカフェなんだ。

で、その妹さん――洋子さんが岩城と結婚したんだよ」

佳代「ええ~そうなの? 縁が深いんだね」


そこへ庭の裏木戸から洋子さんが苗を抱えて入ってきた。

洋子「あら~川瀬先生、珍しい! 今日は素敵な方をお連れですね」

佳代ちゃんが俺を見る。

「えっと……こちらは寮母さんで、西村看護主任です」

洋子「初めまして。岩城の家内の洋子です。駅前で花屋をやってます。お花がお好きならぜひお立ち寄りください」

佳代「はい、ありがとうございます。ぜひ」

そこへ中村君が「出来たよ~」と声を掛けてきた。

「じゃあ、またあとで」

部屋に戻ると、佳代ちゃんが「ああ~目の保養をした。すごくきれいなところね」とうれしそう。

……花が好きなんだな。

「じゃあ、帰りに駅前の洋子さんの花屋に寄ってみる?」

佳代「うん、行きたい!」

運ばれてきた料理は見るからに美味しそうだった。

佳代「わぁ、これ初めて食べる。美味しい! すごいハーブの香り。何を使ってるんだろう?」

「帰りに聞いてみようか」

佳代「うん、寮で作りたい!」

美味しく食べ終わって、帰りに花屋に立ち寄った。

またまた感激しているから、赤いバラの花束を作ってもらった。

それを渡すと、佳代ちゃんは女の子のようにはにかみ、胸に抱えてうれしそうに笑った。

……可愛いな。

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