診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第6章 菜の花寮の大騒動

105話 川瀬サイド・寮父見習い・4・南フランス料理

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 カフェの帰りに、どうしてもランチを再現したいというから、もう一度スーパーに寄って買い物をした。

ネットで作り方を検索し、ランチのメニュー名を探す。

「あっ、これみたいだよ」

「ああ~、さっきのに似てるね。よし、作ろう! あなたは鶏肉を切って」

「はいはい、了解」

こうして――南フランス風の鶏の煮込みが、合作で出来上がった。

俺が贈った赤いバラの花束は、佳代ちゃんが一輪だけコップに挿して窓辺に飾っていた。

それはなんとなく、俺の胸の中にも一輪咲いているような気がした。





夕方になると、次々に寮生たちが帰ってきた。

亜衣「あらっ? なにあれ? わぁ……分かりやすい……」

青山「確かに分かりやすいわ」

あとからやってきた寮生たちも、窓辺の花に釘付けだった。

佐藤「おー、今日はなんか空気が違うぞ?」

ぷっと笑われて、穴があったら入りたかった。

でも佳代ちゃんは平気そうにしていた。

「はいはい、夕飯にするわよ~。今日は川瀬先生との合作だからね」

お鍋ごとテーブルの端にどんと置いて、俺にレードルを渡す。

「川瀬先生、皆に分けてあげて」

ちょっと照れ臭かったが、カレー皿によそって配った。

村上「ええ? 何が出来たんですか?」

吉岡「すごくいい匂い!」

青山「うまっ! なにこれ? 何の香り?」

亜衣「本当だ、美味しい。それに……この香り?」

「教えてあげたら?」と佳代ちゃん。

「えっと、ローリエとタイムとローズマリーにパセリ。あとニンニクとセロリの風味もいいよね」

亜衣「へぇ~川瀬先生、すごい!」

森下「わー、どんどん作ってほしいです」

「いやいや、ほとんど佳代さんが作ってくれたんだよ」

青山「はぁ~、佳代さんがねぇ……」

佐藤「うんうん、佳代さんがねぇ~」

くすくす笑いが広がり、顔が真っ赤になった。

……どこかに逃げたい。

片手で顔を隠したり、すりすりしたりしてもどうにもならなかった。




翌日。大学病院の食堂で岩城が待ち構えていた。

――うわっ、面倒。

ガシッと腕を掴まれる。……これは拉致か?

「おい、最初から話せ。どうなってる? 昨日から気になってしょうがなかったんだぞ」

「もう~よせよ、恥ずかしいだろ」

「……もう恥ずかしいことしたのか?」

「やめろって! 何にもしてないよ」

「本当か?」

ようやく手を離してくれた。まったく、そこかよ。

「一体いつからなんだよ?」

「だから、何でもないって」

「お前さぁ、それで済むと思うのか? 花屋の子から洋子が聞いたんだぞ。赤い花束を作って渡したって」

「なんでそんな地獄耳なんだよ」

「岩城様に隠し事はできないんだからな」

……はぁ、面倒くさい。

俺は黙々とご飯を食べることに集中した。

それでも質問攻めにあう。

岩城に言えば、宮本君に伝わる。宮本君から奥さんの看護師長に伝わり、最終的には菜の花中に広がる。

まったく……。

俺は最後まで何も言わなかった。


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