診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第6章 菜の花寮の大騒動

106話 ロマンティックな噂

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 院長室に夏がニヤニヤしながら桐生さんと一緒に来た。

夏「ねえねえ、聞いた? 俺、聞いちゃった!」

「なんだよ、うるさいな」

夏「川瀬先生が花屋で赤いバラの花束を作って、西村主任にあげてたんだって! すごくない?」

ぷっと笑ってしまった。桐生さんも吹き出していた。

「なんでそんなことを知ってるんだよ?」

夏「ナースがたまたま見かけたんだって!」

「……全く、油断も隙もないな」

でも笑ってしまう。はぁ~。でも良かった。

俺は川瀬にきついことを言ったから、ずっと気になっていたんだ。

桐生「実は僕の耳にも入りましたよ。なんかすごく美味しい南フランスの鶏肉料理を作って、寮生たちに食べさせたらしいです」

……マジか。参ったな。

自分の朝食さえ作ったことがない奴が?

いきなり南フランスの鶏肉料理? どうなってるんだ。

夏「ああ~俺も食べたかったなあ。悔しい!」

「ふっ、お前が作れよ」

夏「ああいうものは、人が作ってくれるから美味しいんだよ。ねっ!」

桐生さんに相槌を強要していた。

桐生さんはニヤニヤ笑うだけ。

俺に「作れ」と振られたら敵わないから、深追いせずに無視していた。





昼休みに帰宅すると、莉子が興奮していた。

「ねっねっ、聞いた? 私、ロマンティックで興奮したわ~!」

……あー、ここにも広がってるのか。

「誰から聞いたの?」

「3階に行ったら持ちきりだったの! 寮の子がね、すぐチャットに書いたんだって」

「なるほど。それじゃ瞬時に菜の花中に広がったんだな」

「うんうん、そうらしいよ。だってこんな素敵な話、滅多にないでしょう?」

「莉子。前に俺が赤いバラの花束のデカいやつをあげたの、覚えてる?」

「うーん……忘れた」

すまし顔。

「私も欲しいよ」

……あげ甲斐のない奴だ。

前例を作ると波及するんだよな。

となると――寮の村上君は亜衣さんに赤いバラの花束を渡す羽目になる。俺は知らない。

しかし、莉子は食い下がった。

「ねえ、私も花束が欲しい」

「何色がいいの?」

「赤に決まってるでしょう?」

「なんで決まってるの?」

「だって赤いバラは見せて歩くんだもん」

「へっ? 見せて歩くために要るの?」

「そうだよ。見せなきゃ意味ないでしょう?」

……あぁ。おかげでこっちまで波及しちゃったよ。


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