診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第6章 菜の花寮の大騒動

107話 川瀬サイド・保育器

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  夜になって岩城からメールが来た。

「おい、聞いたぞ。赤いバラの花束を佳代さんにあげたらしいな。

聞いちゃったよ。俺に隠しても無駄だからな。

今じゃ菜の花全員が知ってるらしいぜ。

おまけに“南フランスの鶏肉料理”? 大評判じゃん。

いつの間に変身したんだよ。同じ人物だとは到底思えないわ」


……ああ、まったく。菜の花には秘密なんて無理らしいな。

俺も佳代ちゃんにメールした。

「佳代ちゃん、ごめん。なんか皆に広がってるみたいなんだけど……」

「うん、いいのよ。そういう作戦だもん」

――は? 作戦? なんだそれ。

「だって、そろそろいいでしょう? うんと話を広げてもらわないとね」

……そうなのか。全く女ってやつは分からない。

もうどんな顔をして歩けばいいんだ。

菜の花の中を歩きにくくなった。





次の週。翌月になって、いよいよ本館が水曜日を営業、そして翌日木曜が休みになった。

サテライトには嘘のような静けさが訪れ、みんなポカンとしていた。拍子抜けか?

患者たちは普通に本館へ流れていった。

俺は5階の婦人科診察室にいたが、水曜日だけなのに患者がどんどん増えていく。

中には妊婦もいる。困るんだよ、ここでは出産はできないのに。

「他の科も一緒に受診できるから便利」とか「大学病院より空いてる」とか……。

はぁ、仕方ない。北原にエコーを頼んだ。

ついでに経腟エコーも導入してもらった。

狭い部屋がさらに狭くなったが、まあしょうがない。


「本館の水曜営業、調子はどうなの?」と北原に聞くと、

ニヤッと笑って「絶好調だよ」と答えた。

「全体的に患者が増えちゃってさ。最高だよ。

みんな休んでるから、うちに集中するだろ?

一度受診したら2回目も来る。

ついでに他の科も受けるから一石二鳥。独り勝ちだよ。

ああ~なんでもっと早く水曜営業にしなかったのか。悔やまれるよ」


――ふっ。どっかの社長と話してるみたいだ。別人かよ。

確かに婦人科も増えてるから、その通りなんだろう。

だが嫌な予感がする。

もしかしたら産婦が飛び込んでくるんじゃないか?

小児科も出来て患者が増えてるし……。

いや、外科の手術室で産むつもりか?

ここには陣痛室もなければ、赤ん坊を入れる箱(保育器)もない。

第一、産湯のベビーバスもない。ベビー用の体重計もない。

……どうするんだ? 妊婦は救急車でよそに送れよ。

しかし、「万が一のために、保育器を一つは置いた方がいい。

間に合わない場合もあるから。あと体重計もね」

そう北原に言っておいた。

「わかった」と一言。――いやいや、どこに置くんだ?

……ところが翌週の水曜日にはもう揃っていた。

場所は手術室。まあ、そこで分娩するしかないだろうな。

じゃあ陣痛室は?

そう思ったら、4階の奥の静養室に小さな防音室が出来ていた。

「これは俺の私物だ」とのこと。

ふ~ん。まあベッド1台は入る。あとは監視カメラとブザーを付ければ十分か。

――言えば何でも揃う。凄すぎるわ。桁が違うよな。

……しかし、まさか助産婦まではいないだろうな?


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