診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

文字の大きさ
135 / 357
第7章 スタッフ強化作戦

133話 川瀬サイド・プロポーズ

しおりを挟む
 北原に「佳代ちゃんとの結婚、発表したらどうだ?」と聞かれた。

……無理だよ。まだ返事をもらってないんだから。

でも彼女はいつも「ただいま~」と言って俺の部屋に入ってきてくれる。
それなのに、何が引っかかっているんだろう?

「ねえ、もういいでしょう? 結婚しようよ。なんで返事をくれないの?」

しばらく佳代ちゃんはうつむいたまま黙っていた。
やっと出てきた言葉は――。

「私の家族を紹介したくないの。それに、多分先生のご両親には反対されると思う」

「わかった。紹介しなくていい。俺も紹介しない。黙って結婚しよう。

もし見つかったらその時はその時だ。早く籍を入れた方が勝ちだよ。

第一、俺の親なんて離婚した時点で“しばらく帰って来るな”って言われてるんだ」

「……本当にそんな結婚でいいの?」

「いいに決まってる。他に何の問題がある?」

「……それで良いなら、いいよ」

「じゃあ、ここにサインしてくれない? もう岩城と後輩に証人サインをもらってあるんだ。
あとは佳代ちゃんの名前があれば完成なんだ」

バッグから結婚届を取り出すと、彼女は小さくうなずいた。
「わかった。じゃあ、はんこ取ってくるね」

数分後、着替えた佳代ちゃんが戻ってきた。
その場で署名・捺印を済ませ、封筒に入れる。

「よし、行こう」

車を走らせ、役所へ向かった。
夜の庁舎はほとんど灯りがなく、静まり返っていた。
確認しておいたポストの前に二人で立つ。

「一緒に出そう」
佳代ちゃんの手を取って、封筒を握った。

「せーの」――かすかな音を立てて、封筒が落ちた。

「佳代ちゃん。俺たち、もう夫婦になったよ。ありがとう。俺の奥さん」

涙が溢れて止まらなかった。隠すように抱きしめても、嗚咽は抑えられない。
気づけば佳代ちゃんも泣いていた。

「……なんだよ、中年の結婚は湿っぽいな」

そう笑いながら、もう一度抱き寄せた。

「佳代ちゃん、次はわかってる?」

「うん? わかんない」

「今夜は初夜だよ。……俺は抱きたい。いいか?」

彼女は横を向いて外を見つめた。
何も言わない――それは承諾だと受け取った。

気になっていたシックなホテルに車を入れ、二人で中へ。
部屋に入ると、俺はすぐに湯を溜め始めた。

「佳代ちゃん、固めの杯をしよう」

「ふふっ、なんだか私より若いのに古くない?」

「アハハ、そうかもな」

ワインで乾杯し、「結婚おめでとう!」とグラスを合わせた。

口に含むと同時に、もう我慢できずキスをした。

「ちょっと、もうだめ。お湯がピーピー言ってる」

「くそー!」

佳代ちゃんがぷっと笑う。

結局、一緒にお風呂には入ってくれなかったけど、触れることは許してくれた。

白くてすべすべの肌に夢中になる。

「佳代ちゃんの胸……すごくいい匂いがする」

「もう、感想言っちゃダメ」

クスクス笑うその顔が愛おしい。

「もっと“ダメ”って言われたい」

「もぅ……知らない」

灯りが落ち、部屋はやわらかな闇に包まれた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

網代さんを怒らせたい

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」 彼がなにを言っているのかわからなかった。 たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。 しかし彼曰く、これは練習なのらしい。 それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。 それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。 それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。 和倉千代子(わくらちよこ) 23 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 デザイナー 黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟 ただし、そう呼ぶのは網代のみ なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている 仕事も頑張る努力家 × 網代立生(あじろたつき) 28 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 営業兼事務 背が高く、一見優しげ しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く 人の好き嫌いが激しい 常識の通じないヤツが大嫌い 恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

芙月みひろ
恋愛
保険会社の事務職として勤務する 早瀬佳奈26才。 友達に頼み込まれて行った飲み会で 腹立たしいほど無愛想な高原宗輔30才と出会う。 あまりの不愉快さに 二度と会いたくないと思っていたにも関わらず 再び仕事で顔を合わせることになる。 上司のパワハラめいた嫌がらせに悩まされていた中 ふと見せる彼の優しい一面に触れて 佳奈は次第に高原に心を傾け出す。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...