診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第8章 もっと寮が欲しい

146話 広報・三枝の失態動画

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 桐生「院長、例の動画が出来ましたよ」

桐生さんがUSBを差し出す。

パソコンに映ったのは――真剣な顔でカメラの前に立つ三枝だった。

長身、完璧なスーツ姿。まるで雑誌のモデルがそのまま病院に迷い込んだみたいだ。

『皆さんこんにちは。広報の三枝です。本日は2号館に採用された方の清掃実習に参加して、病院清掃の大切さを学びたいと思います!』

背筋を伸ばして挨拶。
その後ろには、新しい制服を着た新人スタッフ6人が並んでいる。

トレーナーの声が響く。

「午前中は、“清潔と不潔”の基本概念や、日常清掃と病院清掃の違い、病院での感染経路などを学んでもらいました。これからは実際に疑似を使った実習を始めます」

次の画面では、6人がすでに個人防護具(手袋・マスク・ガウン)を着用していた。

「それではまず、“吐物の処理”を行います。ここに疑似の吐物を作りました。においも実際に近い形で再現しています。倒れた患者さんを想定して、床に広がった液体を処理してください」

床にぶちまけられたのは黄色っぽいどろりとした液体。
臭気剤が加えられているらしく、モニター越しでも思わず顔をしかめた。

新人スタッフたちは一歩前へ出て、指示通りにペーパーで覆っていく。

その横で――三枝は固まっていた。

眉間に汗を浮かべ、モップを持つ手が震えている。

理事がカメラをズームアップしていた。

「……っ、く、臭い……無理かも……」

顔が青ざめ、口元を押さえながら後ずさる。

トレーナー「大丈夫ですか? 無理なら交代しても構いませんよ」

理事の笑い声が小さく入った。

『三枝くん、広報としてここは踏ん張って! ほら、頑張れ!』

スタッフたちが必死に処理する横で、三枝は壁に手をついてうずくまった。

カメラにはその様子がばっちり映っていた。

次の場面。

「続いて“血液汚染”の処理です」

バットに入った赤い液体が床にザーッと流される。

三枝の顔がさらに真っ白になる。

「ちょ、ちょっと待って……これ、本当に……」

足がふらつき、視線が泳ぐ。

実習生がモップを持ち上げた瞬間――ガタッと膝が折れた。

理事『お、おい、ちょっと! はははっ! 倒れるなよ! 誰か支えて! ……いやでもこれ面白すぎる……!』

笑いを堪えきれない声が響く。

スタッフたちは慌てて駆け寄り、椅子に座らせた。

三枝は額に玉の汗を浮かべ、完全に脱力している。

画面はそこで切れ、最後に理事の一言で締められた。

『というわけで――三枝さんは“清掃広報アンバサダー”に任命決定! 実習は……免除でいいかな! ははは!』

動画が終わると同時に、俺は腹を抱えて笑っていた。

「ったく……なんだよ。これを出すつもりか?」

桐生「でも面白いと思いませんか? 私的にはOKなんですよね」

やたらににこやかに言うから、反対もできない。

「……三枝、君は……菜の花の宝だね」

涙を拭いながら、心からそう呟いた。

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