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第14章 2号館がオープンへ
263話 夏輝・正月番組に出演
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桐生君から連絡があった。
「オリオンからの要請が、どうしても断れない」とのことだった。
正月特番で、VOXIVE(ヴォクシヴ)の2時間スペシャル番組。
その中の一部を別撮りで、KAI君と夏のデュエット、そしてメンバーと一緒に踊りながら歌う3曲が予定されているという。
伝え聞いたオリオンの社長の話では、
「今まで練習してきたものだから、特に新しく時間を取らなくても大丈夫。だから出てほしい」
理由は、やはり正月番組の視聴率と話題性、そして“フレッシュさ”だという。
TV局からも「夏を出してほしい」と頼まれ、オリオンとしても2時間枠の目玉として、どうしても出演してほしいという話だった。
「夏、正月番組に出てほしいって言われてるんだって?」
「うん、そうなんだってさ」
「すぐ出られるくらいには練習できてるの?」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ、出る?」
なんとなく俯いた。迷いがあるらしい。
「それねえ……俺、どうしようかなあ。ちょっと自信がないんだよね」
「みんなが良いって言ってるのに、なんでここで自信がなくなったの?」
「だってさ、前のコンサートの時は、勢いというか……神がかりというか……。
なんか、俺の力じゃなかったような気がするんだ。
だから今度やると、一気に化けの皮がはがされるような気がして……」
「いいじゃない。いつかそうなるなら、早めの方がいいよ。
今だって、これ以上なくすものはないんじゃない?
他のことは気にしなくていいから、すべてを捨てたつもりで、歌だけに集中しておいでよ。
その時間だけでいい。全部捨てていい。あとは俺が引き取ってやるから」
ぷっと夏が笑った。
「もう~、お兄さんだけだよ、そんなこと言うのは……」
「それにさ、期間が空いちゃうと、ますます出にくくならないか?
あまりブランクを作らないで出た方がいいと思うよ」
「……うん、わかった。やるよ。もう、これで終わってもいいよ」
「そうそう、その意気だ。終わるなら早くしてほしいよ。俺も寂しいからさ」
「もう~、俺だって毎日のように頑張ってるのにさあ~」と、頬をふくらませた。
その頬を、ぷにっと摘まんでやった。
それから夏は、毎日レッスンに通った。
撮影は、かなりぎりぎりのスケジュールだった。
オリオンにも、何かしら葛藤があったのかもしれない。
*
いよいよ撮影日がやってきた。
年末の慌ただしさが、すぐそこまで迫っていた。
「一人で大丈夫か? TV局には桐生さんや村瀬さんが一緒に行ってくれるんだろう?」
「うん、そうだと思う」
「お兄さんは行ってくれないの?」
「もう保護者は要らないだろう? じゃあ、頑張っておいで」
「うん」
そううなずいたものの、どこか不安げな表情だった。
きっと、怖さを知るようになったんだと思う。
それは、成長の証じゃないか。
俺は、あえてついて行かないことにした。
けれど、その日はなんだか落ち着かなくて、何も手につかなかった。
こういう時は、院長室に籠もるしかない。
時おり届く、桐生さんからのメールだけが頼りだった。
*
結局、夏が帰ってきたのは夜8時を過ぎてからだった。
「駐車場に着いた」と連絡があり、急いで迎えに行った。
夏と、桐生さん、村瀬さんが車から降りてきた。
「お疲れさまでした。遅くまで大変だったね。桐生さんも村瀬さんも、疲れたでしょう?」
「ちょっとうちで休んでいけば?」
「いえ、もう遅いので。また明日、お話しします」
そう言って、二人は静かに帰っていった。
夏は、ぼーっと立ち尽くしていた。
相当、疲れたのだろうか。
「夏、帰ろう」
荷物を持ち、そっと腕を取ってエレベーターに乗った。
夏は、ずっとうつむいたままだった。
……何かあったな。
「夏、ご飯を食べよう。食べてないだろう?」
けれど、玄関前に着いたとき、ドアを開ける前に、夏が俺にしがみついた。
「どうした? うまくいかなかったのか?」
唇を噛みしめ、涙をぽろぽろとこぼしていた。
なにか、つらいことがあったのか。
俺は、しばらく黙って抱きしめていた。
「今日は、俺が一緒に行った方がよかったか?」
そう言って顔を覗き込むと——
夏は何も答えず、ただ嗚咽を漏らして泣いていた。
「オリオンからの要請が、どうしても断れない」とのことだった。
正月特番で、VOXIVE(ヴォクシヴ)の2時間スペシャル番組。
その中の一部を別撮りで、KAI君と夏のデュエット、そしてメンバーと一緒に踊りながら歌う3曲が予定されているという。
伝え聞いたオリオンの社長の話では、
「今まで練習してきたものだから、特に新しく時間を取らなくても大丈夫。だから出てほしい」
理由は、やはり正月番組の視聴率と話題性、そして“フレッシュさ”だという。
TV局からも「夏を出してほしい」と頼まれ、オリオンとしても2時間枠の目玉として、どうしても出演してほしいという話だった。
「夏、正月番組に出てほしいって言われてるんだって?」
「うん、そうなんだってさ」
「すぐ出られるくらいには練習できてるの?」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ、出る?」
なんとなく俯いた。迷いがあるらしい。
「それねえ……俺、どうしようかなあ。ちょっと自信がないんだよね」
「みんなが良いって言ってるのに、なんでここで自信がなくなったの?」
「だってさ、前のコンサートの時は、勢いというか……神がかりというか……。
なんか、俺の力じゃなかったような気がするんだ。
だから今度やると、一気に化けの皮がはがされるような気がして……」
「いいじゃない。いつかそうなるなら、早めの方がいいよ。
今だって、これ以上なくすものはないんじゃない?
他のことは気にしなくていいから、すべてを捨てたつもりで、歌だけに集中しておいでよ。
その時間だけでいい。全部捨てていい。あとは俺が引き取ってやるから」
ぷっと夏が笑った。
「もう~、お兄さんだけだよ、そんなこと言うのは……」
「それにさ、期間が空いちゃうと、ますます出にくくならないか?
あまりブランクを作らないで出た方がいいと思うよ」
「……うん、わかった。やるよ。もう、これで終わってもいいよ」
「そうそう、その意気だ。終わるなら早くしてほしいよ。俺も寂しいからさ」
「もう~、俺だって毎日のように頑張ってるのにさあ~」と、頬をふくらませた。
その頬を、ぷにっと摘まんでやった。
それから夏は、毎日レッスンに通った。
撮影は、かなりぎりぎりのスケジュールだった。
オリオンにも、何かしら葛藤があったのかもしれない。
*
いよいよ撮影日がやってきた。
年末の慌ただしさが、すぐそこまで迫っていた。
「一人で大丈夫か? TV局には桐生さんや村瀬さんが一緒に行ってくれるんだろう?」
「うん、そうだと思う」
「お兄さんは行ってくれないの?」
「もう保護者は要らないだろう? じゃあ、頑張っておいで」
「うん」
そううなずいたものの、どこか不安げな表情だった。
きっと、怖さを知るようになったんだと思う。
それは、成長の証じゃないか。
俺は、あえてついて行かないことにした。
けれど、その日はなんだか落ち着かなくて、何も手につかなかった。
こういう時は、院長室に籠もるしかない。
時おり届く、桐生さんからのメールだけが頼りだった。
*
結局、夏が帰ってきたのは夜8時を過ぎてからだった。
「駐車場に着いた」と連絡があり、急いで迎えに行った。
夏と、桐生さん、村瀬さんが車から降りてきた。
「お疲れさまでした。遅くまで大変だったね。桐生さんも村瀬さんも、疲れたでしょう?」
「ちょっとうちで休んでいけば?」
「いえ、もう遅いので。また明日、お話しします」
そう言って、二人は静かに帰っていった。
夏は、ぼーっと立ち尽くしていた。
相当、疲れたのだろうか。
「夏、帰ろう」
荷物を持ち、そっと腕を取ってエレベーターに乗った。
夏は、ずっとうつむいたままだった。
……何かあったな。
「夏、ご飯を食べよう。食べてないだろう?」
けれど、玄関前に着いたとき、ドアを開ける前に、夏が俺にしがみついた。
「どうした? うまくいかなかったのか?」
唇を噛みしめ、涙をぽろぽろとこぼしていた。
なにか、つらいことがあったのか。
俺は、しばらく黙って抱きしめていた。
「今日は、俺が一緒に行った方がよかったか?」
そう言って顔を覗き込むと——
夏は何も答えず、ただ嗚咽を漏らして泣いていた。
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