診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

文字の大きさ
302 / 357
第16章 光 ― スポットライトの向こうへ

300話 NATSU、夢の幕開け

しおりを挟む
 いよいよ本番が始まった。

華やかなMCの女性が舞台の左端に立ち、マイクで呼びかける。

「皆さま、こんばんは。
本日は『NATSU写真集発売記念コンサート』にご来場いただき、誠にありがとうございます。
本日のチケットには、夏さんの写真集が付いております。

舞台裏の表情、医師としての日常のひとコマ、そして夢に向かう眼差し──
この写真集は、今日のステージとひとつの物語を描いています。

夏さんが初めて歌の世界に足を踏み入れたのは、約7か月前。
人気グループ「VOXIVE」の音楽事務所から声をかけられ、
KAIさんとのデュエットで初舞台に立ちました。

その歌声が大評判となり、そこから個人レッスンを重ねてきました。
そして今日──このステージが、夏さんにとって“本格的なデビュー”となります。

本日のステージでは、世界的な画家でもある北原莉子さんの作詞による楽曲が5曲披露されます。
言葉の力が、音楽とともに皆さまの心に届きますように。

演奏を支えるのは弦楽チーム「ナツ・アンサンブル」
バンドチーム「ナツ・サウンド・クルー」
そしてダンスチーム「ステラビート」
総勢でこの舞台を創り上げます。

この空間を、皆さまとともに分かち合えることを心から嬉しく思います。
それでは、いよいよステージの幕開けです。
NATSUさん、ステージへ──!」


さすがだな。夏が中央に出てマイクの前に立つ。
登場した瞬間から拍手喝采が凄い。2000人だもんね。俺は圧倒された。

これから3曲、夏が持ち歌を歌う。切々と愛を歌いあげる。
バックのスクリーンが星空のようになったり、茜色に染まったり──
歌の雰囲気に合わせて幻想的に変化する。
あちこちからライトが差し込み、夏だけを浮かび上がらせる。

透明で美しい高音と、心に響く歌声。
弦楽器と絡み合うように重なり、音の波が会場を包み込む。
しっとりと3曲を歌い終えると、場内は一瞬静寂に包まれ──

次の瞬間、わーっと歓声と拍手が爆発した。
夏が笑顔でお辞儀をして舞台袖に下がると、

MCが再び登場し、ダンスチーム「ステラビート」を紹介した。
メンバー10人がさっと舞台に現れる。

衣装は青く光るラメの上下に、シルバーのラインと袖口のフリンジが揺れる。
バックスクリーンも色とりどりの光が交差し、キラキラと輝く。
ステラビートのメンバーがカッコよく踊り始める。

途中、舞台の奥から着替えた夏が登場し、一緒に踊り始めた。
そうこなくっちゃね。やっぱりダンスがうまいんだから、見たいよね。
お揃いの衣装だけど、夏だけが胸にV字型のラメが光る白い生地。

一人だけ目立つようになっていた──というか、夏には華がある。
だから目が離せないんだよ。

バンドメンバーもパーカッションもキーボードもフル参加でノリノリ。
約5分間のにぎやかなステージが終わると、MCが再び登場した。

「さて、ここで少しだけ舞台の空気を変えて──
本日の写真集『NATSU』の制作に深く関わった方をご紹介します。

作詞家として、今回の楽曲に言葉の命を吹き込んでくれた方。
そして、夏さんの写真集にも登場する、長年の“家族のような存在”です。

実は夏さんは、莉子さんご家族ともう12年のお付き合い。
大学時代からの下宿生で、ご主人が医大の勉強を教えていたご縁で、
今では家族のように仲良く暮らしているんです。

それではご登場いただきましょう──莉子さんです!」

わあ~マジ説明がうますぎる!感心してしまった……。

呼ばれて白いワンピース姿の莉子がMCの横に登場した。
ヘアスタイルも可愛い。白いリボンを編み込んだまとめ髪が清楚で華やかだ。

「こんばんは、莉子です。
今日はこのステージに立てて、とても嬉しいです。
写真集には、夏が料理を作ってくれて、
私や桃香、院長がそれを待っている場面があります。

それから、みんなでカフェに行って撮った写真もあって──
どれも“夏らしさ”が詰まっていて、見ていると笑顔になれるんです。

今日のステージでは、私が作詞した曲が全部で5曲、夏が歌ってくれます。
言葉に思いを込めました。短い時間ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。」

MC:
「ありがとうございました、莉子さん。
それではここからは──莉子さんの言葉と、ピアニストによる美しい旋律が重なる3曲を先にお届けします。
歌とダンスが融合する、特別なステージです。どうぞ、お楽しみください。」


ああ~もう……俺は心臓が縮み上がった。無理だ。

舞台袖で思わず椅子に座り込んでしまった。
足が震えていた。なんだよ……。

莉子が、えへへと笑いながら俺のそばに来た。

ささやくように耳元で「私、良かったでしょ?」と言うから──

もう俺は両手で顔をこすりまくってしまった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

網代さんを怒らせたい

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」 彼がなにを言っているのかわからなかった。 たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。 しかし彼曰く、これは練習なのらしい。 それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。 それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。 それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。 和倉千代子(わくらちよこ) 23 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 デザイナー 黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟 ただし、そう呼ぶのは網代のみ なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている 仕事も頑張る努力家 × 網代立生(あじろたつき) 28 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 営業兼事務 背が高く、一見優しげ しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く 人の好き嫌いが激しい 常識の通じないヤツが大嫌い 恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

芙月みひろ
恋愛
保険会社の事務職として勤務する 早瀬佳奈26才。 友達に頼み込まれて行った飲み会で 腹立たしいほど無愛想な高原宗輔30才と出会う。 あまりの不愉快さに 二度と会いたくないと思っていたにも関わらず 再び仕事で顔を合わせることになる。 上司のパワハラめいた嫌がらせに悩まされていた中 ふと見せる彼の優しい一面に触れて 佳奈は次第に高原に心を傾け出す。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...